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9/11

なんでええええええええ!!!!!


 ついに……ついにこの日が来たわよ!!!


 私はモニターの前で、椅子をくるくる回しながらテンションマックスだった。

 その手には、いつものぶどうジュース(高級っぽく見えるグラス入り)。

 うん、今日は乾杯にふさわしい日よ!!!


 だって今日は、あの最強すぎて理不尽なチート新魔法少女たちに、我がECSエターナル・カオス・システムが“反撃”を開始する記念すべき日なんだから!!!


 ――これまでの私たち? そりゃあもう、ボッコボコよ!!


 新魔法少女が出てくるたびに、「え? こんな強さあり? チートすぎない!?」って爆散していく生体兵器たち。

 幹部たちも何度も叩きのめされ、私も机に突っ伏して「天才じゃなかったかも……」って本気で思った瞬間もある。


 でも違う! 今回は違う!!!


 今回は……!!!


 \ A・R・M・S!!(Abyssal Response Mechanized Soldiers)/


 私が直々に監修し、技術班を寝かせず(比喩じゃない)、食わせず(多少は食わせた)、限界ギリギリまでこき使って、死ぬ気で完成させた対魔法少女用生体兵器!!


 これが、私の! 血と汗と涙と、技術班の悲鳴の結晶!!!!


 そして今日は、ARMSのデビュー戦。

 ヴェルトが指揮を取り、参謀のクセに戦場に出てるけど完璧な布陣よ!!!


「ふふふふふ……」


 私はワイングラス(ぶどうジュース入り)を掲げる。


「行きなさい……! 深淵より生まれし我が機兵たちよ――今日は、反撃の狼煙を上げる日よ!!」


 高らかに笑いながら、私はモニター越しに、ECSの未来を見つめた。

 今日は勝つのよ!!!!! 私たちECSが、ついに反撃するのよ!!!!!!!




「行きなさい!! 新魔法少女たちに一泡吹かせてやる!!!!」


 私は指を鳴らした。すると、戦場に次々と転送される漆黒の巨体たち――ARMS。ECSの誇る最新鋭の対魔法少女用生体兵器たちだ!!


 これまでの戦い? 惨敗続きだったわ。私の可愛い生体兵器たちは、銀髪だの赤髪だのに秒でバラバラにされて、3年がかりの私の計画がことごとく水泡に帰した。でも! 今日の私は違う!!!!!


 だって、今回は"本気の私"が監修した最終兵器なのよ!?!?!


 作戦開始直後――。


「おおおおおおお!!!!!」


「これは!! これはマジでいけるのでは!?!?!」


「ARMSが押してる!? 押してるぞ!!!」


 モニタールームは歓喜の渦に包まれた。

 戦況は、明らかにこちらに傾いている!!!!!


 ECSの戦闘員たちはモニターの前で拳を突き上げ、幹部たちも「久しぶりに気持ちいい戦いだ」とか「やっぱりボスはすごいな」とか、口元を緩めてる。

 え? そうでしょそうでしょ!? もっと言って???


 私は椅子をくるっと回転させ、グラスに注いだぶどうジュースを優雅にくゆらせる。

 片手で頬杖をつきながら、満足げににやりと笑った。


「ふふん、どう? これが"天才"の研究成果よ!!!!」


 どや顔全開!!!

 ようやくよ。ようやく、ECSが"勝つ未来"を見せ始めたの!!

 この瞬間を、私はどれだけ待ち望んだことか――!!



 しかし――その刹那だった。

 モニターに映る新魔法少女たちが、ふいにピタリと動きを止めたかと思うと、同時に構えを取り直した。


 「……ん? 何あれ。なんか雰囲気変わってない??」


 違和感。強烈な違和感。

 あの二人の瞳が、スッ……と研ぎ澄まされていくのがわかる。


 「え、ちょっと、なんでそこで謎の覚醒演出始まってんの???」


 次の瞬間――彼女たちの身体が、ふわりと輝いた。

 魔力の奔流。違う。これは……そう、見覚えがある。


  ……え?


 「え? ええええええええええええええええ!?!?!?」


 まさか。

 いや、いやいやいや、待って、嘘でしょ?

 まさかそれって――。


 「第二機構、解除」


 「はああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?!?!?」


 私は思わず椅子から転げ落ちそうになった。

 なんとか机にしがみついて体勢を立て直したけど、心の中では大崩壊。


 ちょっと待って待って待って!?!?!?!?!?

 なんで!?

 なんでお前たち、あの「第二機構」を――そんな当然のように使ってるのよ!!!!!!


 いやいやいやいや、私だってね!?

 あれを戦場で使いこなせるようになるまで、どれだけ努力したと思ってんの!?

 実戦投入まで数か月かかったんだから!!!

 夜通し魔力制御の訓練して、魔力暴走で天井ぶっ壊して、研究棟一棟まるごと吹き飛ばして(なお隠蔽済み)、やっと、やっと使えるようになったのよ!?


 それを――。


 なんであんたたちは、たった一か月ちょっとで完全習得してるわけ!??????

 なにそれ!? どんな才能してんの!?!?!?

 意味わかんない!!!! 理不尽オブ理不尽!!!!!!


 「この世界、間違ってる!!!!!!!!」


 私は絶叫した。誰にともなく、宇宙に向かって。





 ……終わった。


 第二機構が発動した、その瞬間よ。

 戦況が、パァァァァンッ!!!て音を立ててひっくり返ったの、マジで。


 さっきまで、「うおおお!!」「これなら勝てる!!」とか言ってモニター前で大盛り上がりだったECSの戦闘員たち?

 今では、もうね……静かすぎて誰か死んだのかと思ったわよ。


 「えっ、ちょっ――えっ???」


 「え、ARMSが……」


 「いや、なんでこんな簡単に……」


 って、口々に呟いてたけど、こっちが聞きたいからね!?!?!?

 なんでなのよ!?!?!?!?


 だって、こっちのARMSですよ!?

 最新鋭ですよ!?

 技術班が不眠不休で、私が天才的閃きで、涙と血と汗と私の天才が詰まった最高傑作よ!?


 それが――数秒で 全滅。


 う、う、嘘でしょ!?

 マジで?????


 私の後ろで、クルツがモニターに手を突いたまま、棒立ちしてる。

 ゼーベインは「夢だ」とか言って目を閉じてる。

 

 でもね――問題はそこじゃない。


 あれほどドヤ顔で「完璧な布陣!」って笑ってた私が!

 モニターの前で、口を開けたままフリーズしてる私が!

 現実を受け入れられてない!!!!


 「うそ……うそ……なんで……。ちょ、待って、ARMSって!?」


 ARMS、全滅!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 ちょっと!?!?!?!?

 お願いだから……せめて!!

 せめて一機くらい粘ってよおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!


 私は床に膝をついた。

 心から叫びたかった。


 「誰よ……こんなチートな新魔法少女たちをこの世界に実装したの!!!!!!!!!」



 なんでええええええええ!!!!!

 私は頭を抱えながら絶叫した。

 ちょっと待って、これはおかしい。絶対におかしい。


 私が3年間かけて作り上げた技術を、お前らは最初から習得しており。

 私が数か月かけて習得した第二機構を、お前らはたったの一か月ちょっとで使えるようになり。


 その結果――。


 ARMS、全滅!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?



 「……ボス、すみません。我々も撤退します」


 ヴェルトの報告は、まるで重たい岩を投げつけられたようだった。

 え? 撤退? えっ、撤退??


 「ちょっと!?!?!?!?!?」


 私は椅子から半分身を乗り出して叫んだ。


 「うそでしょ!? この布陣で!? この私が監修した作戦で!? 負けるの!? 撤退すんの!?!?!?」


 だが、モニターに映る戦況は非情だった。


 逃げるヴェルト。

 崩壊する陣形。

 輝く新魔法少女たちの第二機構の残光――。


 もう、だめだ。

 これは、どうしようもない。

 私は、ぐらりと身を沈め、椅子に深く座り直した。手はだらんと力なく下がり、天井を見つめる。


 「……いや、そっか、私以上の天才だったか……」


 目は虚ろ。声には魂がない。

 それでも、私は笑う。


 「あっはっはっはっはっは!!!!!!」


 魂が抜けた笑いだった。ひとつの文明が滅びる音がした。

 理不尽。これはもう、理不尽以外のなにものでもない。

 だって、こっちは天才で、完璧な計画を立てて、最新兵器まで用意して、なのに! なのに!!!


 ――秒で壊滅!!!


 「……ふざけるんじゃないわよ……」


 私はゆらりと立ち上がり、作戦指揮台の端に置かれたぶどうジュースの瓶を手に取る。


 キンキンに冷えた750ml。ラベルはオシャレな輸入品風。

 だが、今の私には、オシャレでもなんでもない。

 ただの……現実逃避用だ!!!


 「おい、ボス!?」


 「ちょっと……!!?」


 幹部たちの声が背後から聞こえる。

 でも、そんなの関係ない!!!


 私は、静かに、ゆっくりと――ラッパ飲み開始!!!!!!


 ぐびっ、ぐびっ、ぐびっ!!!


 「……はーっ!!」


 飲んでも飲んでも、苦い現実は流れていかない。

 ぶどうの甘さが、余計につらい。

 お酒なら、酔えたのに。


 これは……ぶどうジュース。

 「炭酸も入ってない、ただの果汁100%」。


 涙の味がした。

 私は、この世の理不尽と不条理と“チート新魔法少女”という暴力的現実に抗いながら――。


 ぶどうジュースを、最後の一滴まで飲み干したのであった!!!!!!




 モニターに映るのは、もはや見るも無惨な戦場の映像だった。


 ECS、壊滅。

 ARMS、全滅。

 参謀、撤退。


 ……は?

 うそでしょ???????


 私は机に手をついて、ぐらつく足を押さえながら立っていた。

 自分の顔が青ざめているのがわかる。

 呼吸が浅くなる。

 いやいやいや、なんで????


 モニターの中で、新魔法少女たちが勝利のポーズを決めている。

 しかも、まるで「お前の努力、全部無駄だったよ?^^」とでも言いたげな笑顔で!


 「……まあ、負けたな。」


 その瞬間、部屋に響いたのはゼーベインの、あまりにも落ち着いた声だった。


 「いやいやいや!!!!!!」


 私は椅子を蹴飛ばさんばかりの勢いで振り向いた。


 「そんな冷静に言わないで!?!?!?」


 「ちょっと……本気でヤバいんじゃない?」


 イングリットが肩をすくめる。


 「次の戦略を考える必要がありますね。」


 帰ってきたヴェルトは冷静にメモを取りながらうなずく。


 ちょっと待って。

 なんであんたたち、そんなに冷静なの!?!?!?

 あたしの感情は!?!?!?


 「……あー……」


 そして、クルツが気まずそうに眉をひそめながらつぶやく。


 「これ、まさか“魔法少女の技術”が、俺らの想像以上に進化してるんじゃ……?」


 「……は?」


 私は、思考が固まった。

 なんか今、すごく嫌な単語を聞いた気がした。


 「ちょ、ちょっと待ってよ……そんなの聞いてない……」


 声がうわずる。自分で聞いても分かるくらいに。


 「だって、3年前の魔法少女なら絶対勝てたでしょ!?!?」


 そうなのよ!

 3年前、私が魔法少女だった頃のあのチームなら、絶対に勝ってた!!

 私たちなら!!

 完膚なきまでに叩き潰せたはずなのに!!!


 「なのに……なによこれ……」


 私の準備は?

 努力は?

 研究と開発とデスマーチとブドウジュースのやけ飲みは!?


 全部、意味なかったっていうの!?!?!?

 涙こそ流れていないけれど、心の中は号泣だった。


 ……なのに。


 どうして――。


 グラリ、と視界が傾いた気がした。

 あ、これ……あれね。

 自己肯定感が崩れそうになってる合図だわ。

 天才な私の心の芯が、グラついてる。


 だけど。


 でも!!


 私はバシッと顔を上げた。


 違う!!!!

 まだ私には方法がある!!!!!!!


 「っ……!!」


 勢いよく立ち上がり、目の前のテーブルに両手をドーン!!

 周囲の幹部たちが驚いて目を見開く。

 イングリットが持ってたグラスからぶどうジュースがぴちゃっとこぼれたけど、そんなの関係ない!!!


 だって私は――まだ負けてないんだから!!!!


 「いい!? 才能に頼らない!!!!」


 叫ぶ私の声が、会議室の壁に反響する。


 「もっと技術を学べばいいのよ!!!!!!!」


 才能が通じないなら、こっちは知識で戦う!!!


 だって私は、"頭脳派悪の帝王"!!!

 "天才でありながら努力家"!!!

 "ちょっと情緒不安定なだけの完璧超人"!!!


 「新魔法少女の技術を研究して、こっちも強化する!!!」


 「完コピは無理だったけど、まだやれる!!!!」


 「今度は、"本当に使える技術"を学ぶのよ!!!!」


 そう、今度こそ……!


 ちゃんと理解して!!

 ちゃんと応用して!!

 ちゃんと強くなってやるんだから!!!!!


 私はぐるりと幹部たちを見渡す。


 ゼーベインは腕を組んで小さく頷いてるし、イングリットは「やっぱうちのボスだわ~」って顔してるし、ヴェルトはまたメモ取ってる。


 そしてクルツは……、


 「ボス、やっぱりそういう切り替えだけは早いですよね……」


 うるさいわ!!!!


 でも、そうよ。

 これが私の強さ。


 「ここからが、本当の勝負よ!!!!」


 私は勝利を信じて、もう一度、天才モードにギアを入れる。

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― 新着の感想 ―
なんか痛々しいというか可哀想というか…まぁ可哀想は可愛いからいいか…
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