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8/11

今日こそ――魔法少女たちを叩き潰す記念日!!!


 翌週。私は、いつもどおり死んだ魚のような目で、幹部会議に出席していた。

 議題?

 聞かなくてもわかるわよ。


「新魔法少女たちが強すぎる問題」


 ――いや、問題って言い方どうなの!?


 まるで「うちが被害者」みたいじゃない!?

 ……まぁ、実際けっこうな被害出てるけども!!!


 技術班トップのクルツが、無表情で資料をめくりながら言った。


「現状、ECSの魔法武器は、魔力伝達効率で1.5倍程度の出力強化に留まっています。それに対して、魔法少女たちの武器は――」


「3倍近くあるって言うのよね!!!!!?」


 私は思わず立ち上がって叫んだ。


 だって、地味に傷つくのよ!?!?!?

 こっちは血の滲むような努力で1.5倍なのに!?!?!?

 あっちはキラキラ笑顔でぴょーんって飛んでドーン!!って勝ってるのよ!?!?!


 ゼーベインが腕を組んで溜息をつく。


「それよりもヤバいのは……アイツら、昨日より明らかに強くなってるってとこだ」


「……成長速度、バグってるってレベルじゃないぞ。何してんだ、あの二人」


 イングリットも眉間に皺を寄せて頷く。


「ねえ、それってさ、もしかして……一晩寝たらレベルアップするタイプの主人公じゃない?」


「やめて!? それめちゃくちゃ嫌なパターンじゃない!?!?!?!?」


 私は会議机に突っ伏しながらわめいた。


 だって、そうでしょう!?

 こっちは汗と涙と魔力と(あと技術班の命を)削って、ようやく1段階進化したのよ!?

 それを一晩でポンと超えられたら、もはや努力とは!?ってなるじゃない!!!


「……しかし、どうします? 技術差が埋まらない限り、戦うたびに負け続けることになりますが」


 ヴェルトがぼそっと言ったその言葉に、場が静まりかえる。


 ……ええ、わかってるわよ。

 一番わかってるのは、私なのよ!!!!!!!!!!!


 だって、だって――。


「……昨日より強くなってるとか……どんな物語世界のチート主人公よぉ……」


 私は泣きそうになりながら、ジュース入りのワイングラスを口に運んだ。

 くっ……くやしい……でも憎めない!!!


 でも、これだけは言わせて。


「ショック受けてるの、誰よりも私なんだからね!!!!!!!!!!!」(机バン)


 幹部たちは、私の叫びに一瞬だけ沈黙したあと――。


「……まぁ、ボスがそう言うなら、きっと何か対策はあるんでしょう」


「……ああ、ボスなら、また変な天才ムーブで突破するかもしれん」


「頼みましたよ、煉久紫アーカーシャ様」


 ……うん。

 言ってやろうじゃないの。


「やってやろうじゃないの!!!!!! 次こそ勝つために、さらなる強化プラン始動よ!!!!!!」


「で、どうするんだ?」


 ゼーベインが腕を組み、じとっとした目で私を見つめる。

 よし、来たわね。この“次の一手どうする感”満載の空気。

 私はふふんと微笑んで、脚を組み直しながら椅子の背にもたれかかった。

 優雅に。冷静に。そして、堂々と宣言する。


「決まってるじゃない。また、聖霊界にスパイしに行くわよ!」


 ……会議室が、止まった。


「……え、今、スパイって言った?」


 クルツがピタリと手を止め、ドン引き顔でこっちを見る。


「いやいやいや、参考にしに行くって言い直しなさいよ。響きが違うの、響きが!」


「でも中身は完全にスパ――」


「言葉の響きが!! 大事なのよ!!!」


「……ボス、また堂々と潜り込む気なんですね」


 クルツは遠い目をした。ごめん、でもそういうことなの。


 だって、こっちがようやく1.5倍まで仕上げたのに、あの銀髪と赤髪のチートペア、あっさりその上を行ってるんですけど!?!?!


 こっちが汗と涙と人員の命を削って1.5倍強化したのに!!

 そしたらもう、次の情報取りに行くしかないでしょ!!!

 私は机に肘をついて、わざとらしくしっとりした声で幹部たちを見渡す。


「ただし、それだけじゃ不十分ね」


「また何か増やす気か……」とゼーベインが呟く。


「幹部と戦闘員の精鋭は、私の技術を習得しなさい」


「ボスの技術……?」


「ええ。疑似未来予知と、多重並列演算処理よ」


 ド ン 引 き。


 会議室に響く沈黙。おい誰か空気にエフェクトかけた?


「ま、マジかよ……」


 ゼーベインが肩を竦めて苦笑する。


「まぁ、それを身に着けて、ちったぁ差が縮まればいいんだがな」


 イングリットは無邪気な顔で言う。


「……その頃にはまた、あの二人がもっととんでもない能力を身に着けてそうだけどね」


 おい、やめろ。

 その未来予測みたいなこと言うのやめろ。


 ――あーあー聞こえない聞こえない!!!!


 そんなこと、あってたまるかーーーーーー!!!!!!!!


 私は内心で絶叫しながら、手元のスケジュールに「再潜入計画」の文字をこっそり書き加えたのだった。



「まぁ、武器の改良も必要ですが……技術班は今の戦力強化の方にリソースを割くべきでしょうか」


 ヴェルトがいつものように顎に手を当てて、賢そうな顔で言ってくる。

 ……まぁ、参謀だもんね。


「いえ、武器の改良は一時中止よ」


「……は?」


 クルツが不審そうに眉をしかめた。ふふん、来たわね、この反応。


「代わりに“あれ”を仕上げなさい」


「あれ……?」


「そう、“あれ”。ほら、私に隠れて作ってた“ARMS”。」


 ――ピタ。


 技術班の動きが止まる。ざわつく空気。


「な、なぜそれを……」


「ふふ、私を誰だと思ってるの? 天才よ?」


 会議室が沈黙した。完璧な演出。私、天才。三回目。


 ゼーベインが小さくつぶやく。「天才の定義、また変わったな……」


 さて、問題はここからよ。


「……しかし、魔法少女のデータがまだ足りません」


 技術班トップ、クルツが弱々しく言った。


 はい、出ました。いつもの「足りません」芸。


「そりゃそうでしょうね。新魔法少女たちは、こっちが戦う前にチートみたいな勢いで強くなってるもの。まともに戦闘データ取れるわけないじゃない?」


「そうなんですよ!! だから今のままでは――」


「なら、私のデータを取らせてあげるわ」


「……は?」


 クルツが完全にフリーズした。いいわね、その顔。最高のリアクション。


「私は元・魔法少女。近いサンプルにはなるでしょ?」


「でもボスのデータって、すでに何回か取ってますけど……」


「“本気の私”のデータは?」


「…………あの」


「ねぇ、取ったことある?」


「……いえ……」


「じゃあ、決まりね」


 私はドヤ顔でバンと机を叩いた。


「さあ、今すぐ準備しなさい! 本気の私を見せてあげるわ!」


 クルツの目に涙が浮かぶのが見えた。


「……生き延びられますかね?」


「まぁ、ほどほどに抑えるわよ?」



 ――こうして私は、ボロボロの技術班を引き連れて、“灯の本気の戦闘データ”を撮影するための地獄の訓練へと突入するのであった。







 はっ……ここはどこ、私は天才!?!?


 いや、違うな……それはわかってる。

 でも、急に意識がふわぁ~って遠のいて、脳内がポンコツみたいに回転し始めた。


 目の前には、複数の戦場映像を並べたモニター画面。

 データの波、戦闘ログ、エネルギー反応、魔力計測値、あと謎のピザの広告。

 え? なんでピザ? 私お腹空いてるの?


 ――いやいや、違う! 私は今、何をしてたんだっけ!?


 なんかすごい大事なことやってたような気がするんだけど……。

 それが思い出せない。え、記憶喪失とかじゃないよね???


 ……ていうか、あれ? 私、天才じゃなかった???


「……ボス、少しは休んだ方がいいんじゃないか?」


 不意に、背後からゼーベインの低い声が聞こえた。

 私はゆっくりと彼の方に顔を向ける。

 視界の端で、目の下にクマを飼った自分の顔がチラついたけど気のせいだと信じたい。


「何を言ってるのよ。私は天才よ?」


「いや、だからこそ言ってるんだよ」


 ゼーベインが、片手を挙げて指を折り始める。


「表向きは学生生活。裏では聖霊界へのスパイ活動。ついでに俺たち幹部の訓練、技術班のデータ取り、あといつもの事務作業……」


 どんどん折れていくゼーベインの指。

 それに比例して、私の脳内の処理能力が下がっていく気がした。

 イングリットも軽く肩をすくめて、気怠そうに言う。


「よくこなせたと思うわよ。普通の人間なら三日と持たないスケジュールだったし。ていうか、これだけやってるのに倒れない方がおかしい」


 ふっ……。

 私は静かに、しかし確かな勝利の微笑みを浮かべた。


「私が天才じゃなかったら、とっくに倒れていたわよ!!」


 どやぁ!!


 ……でも内心は、もうちょっとで倒れる寸前。

 次に「ピザ食べたい」って言い出したら、それは完全に危険信号。

 誰か、そのときは止めてね???

 いや、止めないで。ピザは正義。天才の主食。



 たしかに……たしかに、ここ数週間は、地獄だった。

 いやもう、冗談抜きで地獄だった。


 聖霊界でのスパイ活動は、何をするにも神経がすり減るし、幹部と戦闘員たちには、私が直々に訓練を施して――。

 そう、一から! 一からよ!?!?


 並列演算処理を習得させるために、みんなの脳をフル回転させて、

「もう限界です……」って泣き出したやつには言ってやったわ。


 「できないは嘘つきの言葉よ」と!


 そして技術班には、「死ぬことは労働を止める理由にはならないわ」って、満面の笑みで伝えた。

 え? 鬼? 鬼ですって???


 ……うん、冷静に振り返ると、けっこうヒドい。


 でも!!!

 そんな血と涙と睡眠不足の結晶が……今! この瞬間!! 実を結ぶのよ!!!!


「なんて言ったって……今日は記念日よ!!」


 私は椅子から立ち上がって、グラスをキラリと掲げた。

 中身は当然、ワイン……ではなくぶどうジュースだけどね!!


「魔法少女たちを下す記念日!!!!」


 そう――今日は、エターナル・カオス・システム(ECS)が、ついに魔法少女たちに逆襲を果たす日なのだ!!


 完成したわ――ARMS(Abyssal Response Mechanized Soldiers)、深淵機械兵団!!

 私が監修して、技術班を死ぬ気でこき使い、夜も寝かせず、夢の中でも作業させた成果!!


 さらにさらに!

 今まで“計算の鬼”として後方支援をしていた参謀・ヴェルトだって、あの冷静沈着お兄さんが、ついに並列演算処理を覚えたのよ!!!

 動きはまだカクカクだけど、それでも十分!!


 布陣は完璧!!!!!

 盤面は理想的!!!!!

 勝利は目前!!!!!!!


 私はグラスにぶどうジュースを注ぎ、くいっと持ち上げる。


「さぁ……歴史的瞬間よ!!」


 モニターには、戦場に展開するARMS部隊の姿と、それを率いるヴェルトのキリッとした横顔が映し出されていた。


 あああ~~~! 美しい! 最高の絵面!!

 これもうポスターにしたいレベル!!!


「ふふふふふふふ……はーっはっはっはっはっは!!!!」


 私は高らかに笑った。

 そりゃ笑うわよ。これだけ完璧な準備をして、勝たないわけがないもの!!!


 今日こそ――魔法少女たちを叩き潰す記念日!!!

 さぁ、いざ開幕よ……栄光のECS逆襲劇!!!!!


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