私たちECSのデザインを作るわよ!!!
長かった……!!
本当に、もう、信じられないほど長い道のりだった。
最初に集まった時のことを思い出す。バラバラで、やる気もなくて、ただの一般人(偽)として細々と暮らしていた連中。侵略者だった頃の誇りも野心も捨て、ただ目立たないように生活していた。
――そんな彼らを、私はここまで鍛え上げ、ちりぢりになっていた残党を集め、組織としてまとめ上げ、強くすることに成功した。
全ては、私の天才的な指導の賜物である!!!
え? 異論がある? いやいや、異論なんか認めません。私の努力があったからこそ、ECSはここまで再建できたのよ!
……でも、振り返れば、3年前のスタートは本当にひどかった。
「俺たち、戦う理由ないし……」
「もう負けたんだから、これからは平和に……」
「戦いとか、ダルいし……」
やる気ゼロ。誇りゼロ。目標ゼロ。
あれほど恐れられ、脅威だった侵略者たちが、ただの負け犬ムーブ全開。
はっきり言って、最初の訓練なんか散々だった。
「腕立て? 無理無理、筋肉痛になっちゃう」
「ストレッチ? 今日はちょっと腰が……」
「武器の整備? いや、ゲームのイベントが……」
……いや、お前ら、本当に"かつての侵略者"なの!?!?!?
最初は、ただの暇つぶしでついてきただけの奴もいた。
「まぁ、ボスがうるさいからってことで……」
「脅されたから仕方なく……」
そんな程度の気持ちでいた連中が、だ。
でも、そこからが私の本領発揮。
徹底的な合理的指導と効率的な訓練で、怠け癖が染みついた彼らを叩き直した。
「お前ら、やらないならそこで寝てろ!!」
「でも、飯、まずくて……」
「じゃあ、あんた達の好きなカレーにしたわよ!!」
「えっ、マジ!? うめぇ!!」
(人間、餌付けが最強)
「筋トレ嫌なら、戦闘訓練にしなさい!!」
「えぇ、でもそれもめんどくさ……」
「なら、賞金をかけた勝負形式にしてあげるわ!!」
「よっしゃああああ!!! 勝つぞオオオ!!!」
(人間、金に釣られやすい)
そんな小細工を駆使しつつ、無駄なく、無理なく、少しずつ意識を変えていった。
いつしか、連中の口からこんな言葉が出るようになった。
「もっと強くなりたい」
「やっぱり、このまま終わるのは悔しい」
「あの時のリベンジを果たすべきなんじゃないか?」
そう。最初は嫌々だったはずが、いつの間にか彼らの中に「戦う理由」が生まれ始めたのだ。
戦うことに誇りを持ち、再び立ち上がる意思を持つようになった。
その様子を見た時、私は確信した。
――やっぱり私は天才だわ!!!!
「緊急幹部会議、今すぐ集合!!!」
私はECSの幹部たちにそう通達した。
これは極めて重要な案件。決して軽視してはならない。
……にもかかわらず。
「で、何事だ?」
「まさか、襲撃日の変更か?」
「敵の動きに異変でも?」
各自、緊張した面持ちで会議室に集まった幹部たちを前に、私は堂々と宣言した。
「私たちECSのデザインを作るわよ!!!」
──シーン……。
一瞬の静寂。
「さて、訓練の続きするか……。」
「私は武器の調整に戻るわ……。」
「シミュレーションのデータ分析が残ってるんだよなぁ……。」
まるで「何事もなかったかのように」幹部たちは一斉に席を立とうとする。
「ちょっと待ちなさいよ!!!」
私は慌てて立ち上がり、彼らの行く手を塞いだ。
「なんでそうなるのよ!? 逃げるんじゃないわよ!!」
「いや、てめぇふざけんな!!!」
ゼーベインが、拳を机に叩きつけて怒鳴る。
「こっちは襲撃に向けて訓練詰め込んでんだよ!! こんなクソ忙しい時にデザイン作りとか、正気か!!?」
「私だって学校で時間ないわよ!!!」
私が学校行ってる間、あんたたちは何やかんやで準備できるでしょ!?
こっちは毎日勉強に生活に侵略計画にで大忙しなのよ!!!
「いや、だったらなおさら今そんなことに時間使う必要なくね?」
「大事なのは戦闘力の向上と襲撃の戦略であって……。」
「いい? これは重要なことなのよ!!!」
そこへ、冷静なクルツ(技術班トップ)が手を挙げた。
「……とりあえず話だけでも聞いてみましょうか」
ほら、ちゃんと話を聞くべきよ!!!
私は満足げに頷き、説明を続ける。
「いい? 組織が統一する上で、シンボルっていうのはとても重要なのよ。そもそも、あんたたちは未だに『自分がECSの一員だ』って実感が薄いでしょ?」
幹部たちは顔を見合わせる。
「まぁ……確かに、ただ鍛えられてるだけで、いまいち“組織感”はないよな。」
「私たちは負け組の残党を寄せ集めたようなものだし……。」
「そこなのよ!!!」
私は手をバンッと叩いて強調する。
「この世界だって、国ごとに国旗があるじゃない! それは、その国を象徴するシンボルだからよ!!! 私たちにも、そういう“見た目で分かるもの”が必要なの!!!」
幹部たちが少し興味を示し始める。
しかし、ここで止めてはいけない。
私はさらに付け加えた。
「それにね、襲撃日の少し前に、電波ジャックして“私たちが襲撃する”と知らしめるわよ!!!」
「……は?」
「つまり、事前に警告を出すことで、恐怖を煽るの!!! その時に、私たちのシンボルがあったほうがインパクトがあるでしょ!!?」
どーん!!! という効果音が脳内で鳴り響く。
完璧な計画!!!
しかし、ここで技術系幹部クルツが青ざめた顔で手を挙げる。
「え、ちょっと待て待て……そんなこと聞いてないんだけど……!?」
私はキッパリと答えた。
「今、初めて言ったからよ!!!」
「このパワハラ上司があああああああああ!!!!!!」
クルツが「マジでどうすんだよ……」と頭を抱えている。
しかし、私は優雅に笑いながら宣言する。
「安心しなさい!!! 天才である私が協力するから!!!」
「やめてくれえええええええ!!!!!」
「何よその反応!!」
「お前、戦術とか戦闘面では天才だけど、こういうのセンスあるのか!?」
「ていうか、マジでどうすんの!? どんなデザインにする気なの!!?」
私は堂々と、ホログラムに設計図を映し出した。
「これよ!!!!」
──そこには、黒と深紅を基調にした鋭角的なロゴが描かれていた。
中央には、深淵を思わせる目のシンボル。
その周囲を、羽のような形状が包み込んでいる。
アビス(深淵)からの目醒めを象徴するシンボル!!!
幹部たちはしばらく無言でデザインを見つめる。
そして──。
「……悪くねぇな。」
ゼーベインが頷く。
「いや、むしろ普通にかっこいいんだけど……。」
イングリットは感心している。
「もしかしてボス、デザインの才能もあるのですか?」
クルツも、渋々ながら認めるような顔をする。
「まぁ……これなら、電波ジャックの演出にも使えそうですね……。」
とヴェルト。
私は満足げに腕を組む。
「当然でしょ!!! 私は天才なのよ!!!」
幹部たちは 「はいはい……」と流す
こうして、アビスの象徴となるシンボルが完成した。
次なるステップは、いよいよ「襲撃前の電波ジャック」へと進む!!!
ついに……この日が来たわ。
私は今、アジトの最深部にあるモニタールームで、ジュース片手にどっかりと腰を下ろしていた。
そして目前の巨大スクリーンには、全国テレビ局すべての映像が“私たちにジャックされている”様子が映っている!!!
「ふふふふ……計画通りッ!!」
地上波テレビ、衛星放送、ネットニュース、屋外のビジョン――全部私が電波ジャック!!
これで日本全国どころか、世界規模で“ECS”の名が知られるのよ!!!!!
いよいよ映像が切り替わる。
――静寂。
画面に映し出されるのは、ECSのロゴ!!
そして重々しいBGMと共に現れる、赤と黒のロングコートを着た謎の人物。
そう!! それは私!!!
私はカメラ目線で、“あらかじめ録っておいた”変身済み映像のセリフを吐き捨てる!!
『──市民諸君。驚いたかしら? そうよ。あなたたちの平和なんてものは、
いつだって簡単に、壊されるのよ!!』
『我が名は煉久紫アーカーシャ。エターナル・カオス・システムの総帥よ!!!』
『そして――○月○日。この世界に“混沌”が訪れる!!!! それが、あなたたちの"終わり"の始まりなのよッ!!!!』
映像、フェードアウト。
最後に、炎の中から現れるECSロゴと“Coming Chaos Soon”の字幕!!
──完ッッ!!!!!!
「どぉおおおおおおおお!?!?!?!?」
私は両手を突き上げ、ドヤ顔MAXで振り返る。
「演出!! 台詞回し!! 音楽!! ロゴ演出!! すべて完璧でしょ!?!?!?!?」
「いや……普通に凝りすぎなんだよな……」とゼーベイン。
「ナレーションの声、ちょっと低く加工しすぎて何言ってるかギリギリだった」とヴェルト。
「逆にそこが悪役っぽくてカッコよかったわ」とイングリット。
「SNS、もう“謎の電波ジャック”でトレンド入りしてます!ボス!」と通信班。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」(喜びの絶叫)
一方その頃、街中では。
人々がざわついていた。
「え? 今の何……?」
「なんか変なロゴ出てたんだけど……」
「え!? なにこれ!? 本物!? フェイク動画!?」
SNSでは、
#謎の電波ジャック
#ECSってなに
#アーカーシャ様とかいう中二病の女
などのタグが大荒れ。
某巨大掲示板では、
「新手のVtuberの宣伝か?」「政府陰謀論」「魔法少女の復活フラグでは?」など推測飛び交い中!!
そして――その様子を、別世界の聖霊都市で見つめる者たちがいた。
「……始まったね」
赤い髪の少女が、意味深につぶやく。
「この世界に、“悪”が帰ってきたわ」
隣にいた銀髪の少女が、静かに立ち上がった。
彼女たちは――新たな魔法少女。
煉久紫アーカーシャが知らない“最大の敵”である。