表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/11

今の私は悪の帝王、煉久紫アーカーシャ様よ!!!


 聖霊――それは、人間とは異なる存在。

 彼らはこの世界を静かに見守りながら、侵略者に対抗する力を持つ者を選び出し、「魔法少女」として覚醒させる。

 魔法少女は彼らから力を授かり、武器を与えられ、最新の技術を駆使して戦う。


 かつて、私――夜城灯もその一人だった。

 才能を見込まれ、魔法少女として選ばれた私は、瞬く間にその力を使いこなし戦場を支配した。

 だが、単なる戦士に収まるつもりはなかった。

 私の天才的な頭脳をもってすれば、「与えられた技術を活用する」だけでなく、「応用して新しいものを作り出す」ことも可能だったのだ。


 その一例が、私が今立っているこの空間――かつて、これは「魔法少女専用のプライベート空間」だった。

 戦いの合間に休息を取るための、いわば秘密基地のようなもの。

 異空間に展開されたこのスペースは、元々は数畳程度の個室だった。


 ――が、それは普通の魔法少女にとっての話。


 私が使うなら、こんな小さな部屋で満足できるわけがない。

 与えられたものを、そのまま使うなんて凡人のすること。

 私には、もっと大きな空間が必要だった。


 だから私は考えた。

 この技術は、異空間を展開するもの。

 ならば、拡張できないはずがない。


 設計を解析し、システムを研究し、強化を繰り返し――魔法少女としての戦いの合間に、私はひたすらこの空間の改良を進めた。


 その努力の結果――異空間の拡張に成功した。


 最初はほんの数畳だった空間が、徐々に広がっていく。

 壁の概念を調整し、エネルギーの供給方法を最適化し、魔力の流れを効率的にコントロールする。

 やがて、部屋はリビングほどの大きさになり、さらに会議室ほどに拡張され――気づけば、大型ショッピングモール並の広さになっていた。


 私は満足げに腕を組み、改めてこの異空間を見渡した。

 天井は高く、白く光る柱が整然と並ぶ。

 エネルギー供給の仕組みを調整したことで、壁や床は完全に安定している。

 照明、空調、さらには各種設備まで完備されており、居住空間としても申し分ない。


 巨大なモニターが壁一面に配置され、情報収集や戦略会議にも使えるようになっている。

 食堂、訓練施設、会議室、さらには娯楽スペースまで設置。

 魔法少女時代に得た「異空間生成技術」が、ここまで進化するとは。


 「とりあえず、アジトはこんなものでいいかしらね」


 私は軽く息をつきながら、改めて空間を見渡した。


 ……うん、これはもう、ただのアジトじゃないわね。


 ほぼ、異空間都市。


 まぁ、細かいところは今後調整するとして。

 まずは、ここを「悪の組織の本拠地」として運用するところから始めましょうか。


 天才たる私の手で、「聖霊の技術を悪用」して、最高の拠点が完成したのだから――!!!

 計画は完璧。

 あとは実行あるのみ。

 まずは、潜伏している侵略者たちに、「お願いの手紙(なお内容はほぼ脅迫状)」を送りつけた。


 内容はシンプル。

 「この手紙を受け取った君たちへ! 私、煉久紫アーカーシャが、君たちにとってすごく素敵な提案を用意しました!」

 「ついては、異空間のこの座標まで来てほしいの! もし来なかったら、君たちが侵略者だって全世界にバラしちゃうね!!!」

 「それでは、当日お待ちしております!!!」


 にっこり笑顔の自撮り写真付き。


 ……これで来なかったら、ある意味すごいと思う。






 案の定、侵略者たちは集合した。

 指定された座標に向かうと、そこには妙な空間の歪みがポツンと浮かんでいた。


「……なんだこれ」


 侵略者の一人ゼーベインが眉をひそめる。


「いや、行けってことだろ……行くしかねぇんじゃねぇの?」


 隣の戦闘員は肩をすくめる。

 どう見ても怪しい。

 だが、どうせ自分たちは詰んでいる身だ。行くしかない。

 おそるおそるゲートをくぐる。

 目の前に広がったのは、謎の大空間だった。


「……おい、なんだここ」


 見上げると、異様に高い天井。

 床はまるで鏡のように黒く光り、整然と並んだ漆黒の柱が空間を仕切っている。

 地下の要塞とも、近未来の秘密基地とも取れる不思議なデザイン。


 だが、何より圧巻だったのは、その中央。

 玉座が鎮座していた。


「……え?」


 その玉座には、一人の少女が堂々と腰をかけていた。


 ――いや、ただの少女ではない。


 黒と赤を基調にしたロングコート。

 襟を立て、肩を怒らせ、胸を張り……片手にはワイングラス(ジュース)。

 グラスを軽く揺らし、優雅に飲み干している。


「よく来たわね、敗残者ども――!!!」


 誇らしげに高笑いするその姿。


「…………は?」

 侵略者一同の声がそろった。






 「お、おい、待てよ……」


 ゼーベインがなんか戸惑った声出してた。なに? 褒める前のため息?


 「な、なんで、あの女が……?」


 ……あの女?


 「いや、だって、アレ……夜城灯だろ?」


 おっ、やっと気づいた!? そうよ、元・伝説の魔法少女、夜城灯よ!!!

 でも今は違う――今の私は!!


 「待たせたわね、落ちこぼれの侵略者たち!」


 私は椅子から優雅に立ち上がり、ぶどうジュースの入ったグラスを高らかに掲げる。

 (中身はワインじゃないわ、学校あるし)

 さあ、来なさい称賛!!! 


 ……え? なんかシーンとしてない??


 「……いや、待て待て待て!!!」


 ゼーベインがついに爆発した。え、なに、私のカリスマにビビった? 違う??


 「お前、夜城灯だろ!? なんでお前がそんな悪役みたいな格好してるんだよ!?」


 「今の私は悪の帝王、煉久紫(れくす)アーカーシャ様よ!!!」


 ……堂々と言ったのに、なんであんな顔してるの?

 え、笑ってる? いや、笑うとこじゃないから!?!?


 「いや、それ以前に」


 今度はイングリットがすごい勢いでツッコんできた。


 「この“悪の組織本拠地(仮)”って何よ!?」


 ……それはまぁ、仮で決めただけよ。ええ、仮よ仮。


 「あと、看板手描きだったぞ!!」


 「ちょっと待って、あのロングコート、どう見ても自作じゃない?」


 「おい、あのワイン、めっちゃブドウジュースの匂いするんだけど」


 「つーか、そもそもお前、なんでそんなにドヤ顔なの?」



 「……はぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」


 私はグラスを机にガンッと置いた。中身のぶどうジュースがちょっと跳ねたけど気にしない。

 いや、今それどころじゃないのよ!!!


 「いい? 私は今、悪の組織のボスとしての威厳を見せてるの!! カリスマ!! 威圧感!! 荘厳な雰囲気!!」


 なのに!


 「見せてるっていうか、全力でコントにしか見えないんだけど」って誰よ!?

 イングリット!? お前か!? お前だな!!!


 「黙りなさい!!!!」


 私はビシッと指を差して叫ぶ。完璧に“悪の女王”モード。威厳マシマシで仕上げたはずなのに!!


 「いや、無理でしょ」

 

 「ていうか、本当に何がしたいのか分からん」


 え、ええ!? そこまで言う!?!?

 なんなの!? 私、今この空間で一番頑張ってる悪役でしょ!?


 「……まぁ、あれだ」


 と、ゼーベインが腕を組んでブツブツ言い始めた。なんか嫌な予感する。


「俺たちが"こいつの配下になる未来"だけは、なんとしても避けなきゃならねぇな……」


「マジで勘弁してくれ……」


「私も嫌だわ……」


 ……は?


 いや、ちょっと待って。

 私、せっかく超頑張ってアジト作って、組織再建して、衣装も考えて、演出も完璧にしたのに!?

 なんでみんなそんな顔してるの!?!?

 めちゃくちゃ「地雷を踏んだ人を見る顔」してるんだけど!?!???


 ねぇ、誰か褒めてよ!!!

 称賛されたいって言ってるじゃない!!!!




「みじめじゃないの?」

 プラン変更!

 私はゆっくりと立ち上がって、やつら――元・侵略者たちを見下ろす。

 ああ、久しぶりのこの視点。高いところから見下ろすって、ほんと気持ちいいわね!


 でも、私は笑ってなかった。いや、違う、笑顔ではいたけど全然笑ってなかった。

 そのくらい、腹が立ってたのよ。


「あんたたちさぁ……プライドとか、もうないわけ?」


「……は?」

 ゼーベインが顔をしかめるけど、それに構わず私は続ける。


「かつては世界を震撼させた“誇り高き侵略者”が!!! 今じゃただの一般市民のフリして、のほほんと暮らしてるだけ!?!? スーパーの特売でテンション上げて、犬にビビって道を譲る侵略者??? ……あっははは!!! 何それ、ちょっと冗談みたい!!! そんなことで満足してるなんて、私、心の底から驚いたわ!!!」


 そう、これは煽りでもなんでもない。

 ただの――事実。

 彼らは確かに負けた。私たち――魔法少女に、ね。

 でもさ、そこから何もしないでうずくまって、尻尾巻いて生きるだけ?


 それ、どうなのよ。

 こっちはね、あんたたちを“もう一度使ってあげよう”って、わざわざアジト作って、名前まで考えてあげて(←ここ重要)、演出もバッチリ整えたのに!


 その反応が「なんでお前がボスなんだよ」??

「看板が手書きだった」???

 あーもう、アホかお前ら! 私が手書きで書いたんだから逆にプレミアだろ!


 いい?

 私、煉久紫(れくす)アーカーシャ様は――「ちやほやされたい」その一心で、あんたたちをもう一度戦わせてやろうって言ってんのよ!?!??!

 少しは感謝しなさい!!!



 侵略者たちの表情が、見るからに険しくなっていった。


 ――ふふん、効いてる効いてる。


 だって私、事実しか言ってないもの!

 あんたたちは確かに負けた。

 そこはいい。戦いに勝ち負けはつきものよ。うん、わかる。悔しいよね。泣いていいよ?


 でもさ――「負けた後、どう生きるか」ってとこ、なんにも考えてなかったでしょ?


 今やただの“隠れ市民”。

 世を忍び、人の目を避けて、地味~に暮らしてるだけ。

 スーパーの半額シール見て喜ぶ程度の存在になってんのよ?


 なにそれ、マジで。

 で、そんな自分たちの姿を――この私、かつてのヒーロー様に笑われたわけよ。

 そりゃ、悔しいわよねぇ? ねぇ???


「おい、テメェ……」


 低く唸ったのはゼーベイン。あら、まだ言い返す元気あったのね?


「そういうテメェはどうなんだ? “元魔法少女”って肩書きにすがって、ちやほやされて満足してるんじゃねぇのか?」


「は? 私が?」


 私は鼻で笑ってやったわよ。どこの誰にそんな薄っぺらい妄想吹き込まれたの?


「“満足してる”? いやいや、全ッッ然足りてないわよ?」


「……は?」


 いい? ここでちゃんと説明するから聞きなさいよ?


「だって、ちやほやされるのが足りないから――」


 私はバァン!と胸を張って、堂々と宣言してやった。


「こうして、私が新・悪の組織――エターナル・カオス・システムを立ち上げに来てるんじゃない!!!!!」 


 ……沈黙。

 みんな揃ってフリーズ。よし、インパクト抜群。完璧なセリフ回し!


「…………はぁ!?」


 おい誰だ今叫んだの。いや、全員か!!!

 ちょっと、いい感じにクールな空気出してたのに!!!!


「バカじゃねえの!?」


「ちょっと待て、そもそも何言ってんだお前!?」


「結局それ“自作自演”じゃねぇか!!!」


 はいはい、全部想定内のリアクションよ。


「でも、“ヒーロー”が活躍するには“悪役”が必要でしょ!?」


 私はビシッと指を突き立てて力説する。


「なら、悪役は“私がコントロールできるやつら”がいいじゃない!!」


「なんて都合のいい……!」


 ああうるさいうるさい!

 ヒーローが称賛されるには“舞台”が必要なの!!それを私は構築してるの!!!

 つまり私は「全人類に感謝されるべき」ってことよね!?!?!?!



「……はは、バカバカしい」


 ゼーベインが呆れ顔で笑った。

 わかってる、わかってるわよ。自分でも突拍子ない提案だってことは!


「なら、こんな話に乗る奴なんかいねぇよ」


 ――よし、ここからが本番。

 私はにっこり笑って、一歩前に出る。

 顔の角度、声のトーン、完全に“悪のカリスマ”モード。演出は完璧よ。


「……そう? じゃあ、"利用する"ってのはどう?」


「……利用?」


 引っかかったわね! ゼーベイン、あなたってほんと素直!


「そうよ。私が率いる“悪の組織”として活動して、思いっきり強くなりなさい」


「お前を倒すために?」


「そうよ。そして、もし私を超えられたら――」


 私はふふんと笑って、ゆっくりと口角を吊り上げる。

 完璧な“黒幕スマイル”で決め台詞。


「その時こそ、“本物の悪”として、世界を蹂躙すればいいわ」


 ……どうよ、この完璧な流れ!

 我ながら天才的なプロット運びじゃない!?!?!?


 ――その瞬間、空気がピリッと張り詰めたのがわかった。

 私のこのムチャクチャでご都合主義で支離滅裂な提案が――奴らの心を確実に揺らがせてる。

 そう。再び“かつての自分たち”として立ち上がるチャンス。

 そして最後には私を叩き潰して、世界を征服する。


 ……あー、やっぱり敵役って最高じゃない!?


「……ははっ」


 その時、ゼーベインが笑った。


「……あっはははははは!!!!」


 完全に吹っ切れてる笑い方ね。うんうん、悪役っぽくてイイ!


「いいだろう!! お前をぶっ潰すために、利用させてもらうぜ!!!」


 その言葉を聞いた瞬間、私はバッとコートを翻した。


「そうこなくっちゃ♡」


 悪役のくせにノリノリな私、煉久紫(れくす)アーカーシャ様――ここに誕生よ!!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ