この機体が、あの魔法少女たちに“鉄槌”を下すのよ!!!
「――完成よ!!!」
広々としたECSの地下ラボに、私の高らかな勝利宣言が響き渡る。
「ふふん、今回は完璧よ!」
私は両手を腰に当てて、でかでかと映し出された最新鋭ARMSの設計図の前で、誇らしげに胸を張った。
そう、これがECSの最新兵器、対魔法少女用ARMS《Type-NX》。今までとは格が違うのだ!
「ボス……」
クルツがおそるおそる設計データに目を通しながら口を開く。
「この……エネルギー出力値、本当に制御できるんですか……? なんか、数値が現実じゃないレベルなんですけど……?」
「はあ? できるに決まってるでしょ。私が設計したんだから!」
私は胸を張って堂々と答える。
クルツは眉間にしわを寄せて言う。
「いや、その“私が作ったから制御できる”っていう論法、もはや呪文ですよ。何の根拠にもなってない」
「やれやれ……」
ゼーベインが隣で腕を組み、ため息をつく。
「ボスの根拠、全部“私が天才だから”なんだよな。逆に潔い」
その通りよ!!(堂々)
……まぁ、正直に言えば、今回の設計はけっこうギリギリだった。
内部構造の半分は「わかんないけど多分こうすれば動く」っていうフィーリング設計だったし。
でも結果として動くんだから、天才ってすごい!!(自画自賛)
「このARMSにはね、聖霊界で仕入れた“最新技術”をたっぷり詰め込んであるの」
「いや“参考”……ですよね? パク――」
「“参考”って言いなさい」
クルツのツッコミは聞き流して、私は設計図を指差した。
「見なさい、この魔力導管の流線型構造!」
「そこ、数式合ってなかったから“それっぽく”埋めたとこですよね?」
「うるさいわね!! ノリと勢いも技術のうちよ!!」
「やべぇよ……これがECSクオリティ……」
ゼーベインがぼそっと呟いたが、私は華麗にスルーした。
いいのよ、結果がすべてよ。たとえ構造の半分がノリでも、完成すればそれは“成果”なの!!
私はARMSのプロジェクションを眺めながら、にやりと笑った。
「いくわよ……この機体が、あの魔法少女たちに“鉄槌”を下すのよ!!!」
試験場は、静まり返っていた。
それはまさに、嵐の前の静けさ。
最新鋭ARMS《Type-NX》――ECSの誇る、対魔法少女決戦兵器。その初稼働テストを前に、私は技術班の皆に堂々と宣言する。
「見てなさい、この完璧な兵器が、魔法少女たちを蹂躙する瞬間を……!」
私は誇らしげに腕を組み、クルツが端末を操作するのを見守る。
「起動します。ARMS《Type-NX》、システムスタート」
シュウウン……という低い起動音とともに、機体の魔力コアが輝き始めた。
「……よし、完璧ね」
私は自信満々に頷いた、その時。
「ピロリロリロリロリロリロ――!!」
「……え?」
何この音。いや、なんかポップじゃない!?
全然“死の兵器”感ないんだけど!?!?
「ボス」
クルツが眉をひそめる。
「……なんか、通信遮断されてません?」
「えぇっ!? いやちょっと!?!?!?」
端末には「外部通信切断」「制御遮断中」「プロトコル不明」の文字列が次々と表示され、私は一気に青ざめた。
ARMS本体が低く唸りを上げ、中央のスコープが赤く光る。
《対象:魔法少女。検索中……》
「まぁ、それは想定通りよ。魔法少女のデータは入ってるもの――」
《最優先目標:夜城灯/コードネーム・アーカーシャ》
「え?」
「……えええええええええええええええ!?!?!?!?」
私は思わず二度見どころか五度見した。いや、聞き間違いよね?
何でよ!? 何で私が“魔法少女”認定されてるの!?!?!?
「ボ、ボス!? なんで“アーカーシャ”って名前入ってるんですか!?」
クルツがパネルを覗き込む。
「…………あ」
頭を抱えた。
そういえば。
確かに。
ARMSの学習データを作る際、対魔法少女戦のシミュレーションに「過去最強の魔法少女」のデータを入力した。
「で、その“過去最強の魔法少女”って誰ですか、ボス?」
「……わたしです」
全員が天を仰いだ。
「お前のデータ、入れすぎなんだよ!!!!」
「ち、違うのよ!? だって、魔法少女の中でも私が一番データ揃ってたから……!」
ARMSが一歩、私の方へ迫る。
《目標補足完了。排除開始》
「やめろおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
こうして――。
ECSの最新鋭兵器は、“元・魔法少女”の私を最初の標的として、誇り高く暴走を始めたのであった。
「落ち着きなさい、このポンコツ機体……!」
私はすっと手を掲げ、黒と赤を基調としたロングコートの裾を翻した。
「この私、煉久紫アーカーシャが成敗してあげるわ!!!」
閃光が走る。
銀の仮面が顔に装着され、衣装が自動変形する。
──悪のカリスマフォーム、起動。
「ふふん……これでおしまいよ!」
私は瞬時に間合いを詰め、エネルギーブレードを振りかぶった。
──が。
「は?」
ブレードは、ARMSの装甲に触れる前に、何か見えない障壁に弾かれた。
続けて繰り出した三連撃も、蹴りも、突きも──すべて、防がれた。
ARMSはピクリとも動かず、その目が冷たく赤く光る。
《行動予測完了。対処済み。》
「……なんでぇ!?」
私は驚愕して一歩退く。
「そ、そうか……! やっぱり、さすがは私が設計しただけあるわね!」
(……えっ)
(お前が作ったのかよ)
(やっぱりか)
後方の幹部たちが遠巻きにざわめくが、聞こえないフリ。
「いいでしょう……ならば!」
私は静かに目を閉じ、深く息を吸い込む。
「第二機構、解放──!!!」
全身から紫電がほとばしり、エネルギーが空間を圧迫する。
地面がひび割れ、空気が震える。
「くっ……!」
「やべぇ、余波だけで立ってられねぇぞ……!!」
ゼーベインやイングリットたち幹部が、吹き飛ばされないように必死に踏みとどまる。
土煙の中、私はドヤ顔でゆっくりと立ち上がった。
「ふふん、こんなもんよ。私の本気を見たかしら!」
風にマントをなびかせ、私は堂々と胸を張る。
──そのとき。
土煙の向こうで、ARMSがぴかーっと光った。
《防御フィールド:起動済》
「…………え?」
土煙が晴れ、そこにいたのは、まったくの無傷で立っているARMS。
「う、うそでしょ!?!?!?!?」
私は一歩、後ずさる。
《ターゲット補足。排除開始。》
ARMSが突進してくる。
「ちょ、ちょっと!?!?!?!?」
私は即座に踵を返す。
「たすけてえええええええええええ!!!!!!!!」
こうしてまた、最新兵器と元魔法少女の壮絶(?)な追いかけっこが、基地内で繰り広げられるのであった。
「きゃああああああああああああ!?!?!?!?!?!?」
――鳴り響くのは、誰もが一度は聞いたことのある、我らがボス・煉久紫アーカーシャの全力悲鳴だった。
「待って、ほんと待って!?!? 私ってボスよ!? リーダーよ!? これ、撃っちゃダメな立場の人よおおおおおお!!??」
ロングコートをたなびかせ、通路を全力疾走するアーカーシャ。
その背後、爆音を撒き散らしながら追いかけてくるのは、ECSが誇る最新型兵器――ARMS(通称:最新ポンコツ)。
赤く光るスコープ、魔力ブースターをガンガン噴射しながら、高速で迫ってくるその姿は、どう見ても悪役を追い詰めるヒーロー側の存在感。
いや、待て、立場逆転してない!?!?!?!?
「誰か止めてええええええええええええ!!!!!」
通路の角でイングリットがふと立ち止まり、耳を澄ませる。
「……あの、ボスの悲鳴が逆に安心感あるのなんで?」
となりで腕を組んでいたゼーベインも、無表情に呟いた。
「ボスを狙って暴走する最新兵器って……なんかもう一周回って味があるな……」
「斬新な訓練映像が撮れそうね……」
「いやこれ訓練じゃねぇから!?」
一方その頃、射撃訓練室にて――
「……ちょっと、あれ、まずいんじゃないですかね」
冷静にモニターを見ていた参謀・ヴェルトが、淡々と端末にアクセスする。
「まあ、元はといえば、"魔法少女=アーカーシャ"って誤認識させたのが原因ですし」
指をスッと動かし、並列演算処理でARMSの行動予測を開始。
「このタイミングで、停止コード挿入――完了」
その瞬間、追いかけていたARMSがピタリと停止。ブースターもシュウッと沈静化する。
「……止まった?」
振り返ったアーカーシャは、コートの裾を押さえたまま、へたりこみながらも精一杯のドヤ顔。
「ふ、ふふん……最初からそのつもりだったのよ……!! 罠よ罠!!」
「誰も信じてませんよ、ボス」
ヴェルトの冷静な声が、またひとつECSに平穏をもたらすのであった。
数分後――。
ECS本部、技術棟ブリーフィングルーム。
そこに、まるで世界を背負った英雄のような表情で、しかし全身ボロボロのアーカーシャが帰還した。
満身創痍のコート。髪はぼさぼさ。片手には握りしめたぶどうジュースの瓶。
全体的に見ると「戦場から帰ってきた将軍」っぽい雰囲気……ではあるが、実際のところは「自作兵器に追いかけられて逃げ帰ってきた中二病女子」である。
「……ふふ。やっぱり私は、天才だったから生き残れたのね……」
満面の笑みを浮かべながら、ぐしゃぐしゃの姿でそう言い放つアーカーシャ。
「それ、設計ミスってますからね」
クルツが即座にバッサリ切り捨てた。
「ちょっと!! もっと優しく言ってよ!!!」
涙目で抗議するボスに、イングリットが淡々と呟く。
「……まあ、魔法少女を倒す前にボスを倒しかけたのは、ある意味正解かも」
「あるかよ」
ゼーベインが即ツッコミを入れた。
ボスは一瞬ふてくされるが、すぐに立ち直る。
それが、煉久紫アーカーシャという女である。
「今回のは……ちょっと“お茶目”だっただけよ!」
「じゃあ次回は“真面目”にお願いします……」
クルツが両手で顔を覆いながらつぶやく。
だが、そんな言葉をものともせず――。
「ふふふ……次のモデルこそ、真の切り札よ!!!」
キラーン☆と光る目。吹き上がる自信。湧き出る不安。
「「「やめろ!!!!!!!」」」
全員が声を揃えて叫んだ。
……こうしてまた、ECSの明日は不安に満ちて幕を開けるのだった。