もっとちやほやして!!!!
元・魔法少女が悪のボスになって、世界をちょっとだけ混乱させようと頑張るお話です。
ギャグとバトルとカリスマ(?)が入り混じった混沌ストーリー、よければお付き合いください!
街が燃えていた。
炎に包まれるビル、逃げ惑う人々。地面を割って飛び出したのは、漆黒の甲冑をまとった謎の生体兵器群。
「逃げろ!」
そう叫ぶ誰かの声が、群衆の中に紛れて響く。
上空には、ドローンが中継していた。画面の端に表示される“LIVE”の文字と、報道ヘリからの興奮気味の実況。
「本日午後二時、突如出現した異空間ゲートより、謎の集団が出現――現在、街は完全にパニックに陥っています!」
そして、その映像を別の場所で眺めている一人の少女。
漆黒の仮面。長く流れる銀の髪。黒と赤のロングコート。玉座のような椅子にふんぞり返り、手にはワイングラス……の中身は、ぶどうジュース。
悪の首魁――煉久紫アーカーシャは満足げに笑った。
「ふふふ……これよ。これが私の、求めていた光景……!」
画面の向こうの混乱に、酔いしれるような表情を浮かべる。
「さあ……そろそろ私が“正義の魔法少女”として登場して、世界を救っちゃおうかしら!」
グラスを掲げ、決めポーズ。
が、しかし――その瞬間。
――”ドォン!!!”
生体兵器の一体が、突如現れた“謎の魔法少女”によって、衝撃波とともに吹き飛ばされた。
「……は?」
続いて、二体目、三体目――。
現れた二人の魔法少女によって、生体兵器たちはあっという間に殲滅されていく。
「ちょっ……ちょっと待って!?!? 何アレ!?!?」
焦るアーカーシャ。手にしていたグラスが揺れて、ぶどうジュースがこぼれる。
「完全に私の出番なくなってるんだけど!!???」
──3年前。
また優勝しちゃったわ。
いや、別に驚くことじゃない。
天才の私が何かに挑戦すれば、当然トップを取るに決まっている。
でもさぁ――なんか、足りないのよね。
「おめでとうございます! 夜城灯さん!!」
「皆さん、盛大な拍手を!!」
司会者の声が響くと、観客席からどっと拍手が沸き上がる。
ステージの上、スポットライトが私を照らす。
表面上は優雅に微笑みながらも、私は心の中で冷静に考えていた。
――うーん、違うのよねぇ。
歓声は上がっている。
クラスメイトたちも絶賛している。
「さすが灯ちゃん!」「また賞を取ったの!? すごい!!」
「さすが天才! どこまで行くんだろう!」
うん、まぁ分かってる。
私はすごいのよ。
でもね――もっと褒めてくれてもいいんじゃない???
いやいや、これ以上どうしろっていうの!? って思うかもしれないけど、そうじゃないのよ。
これはもう、単なる「すごい」じゃ埋められないのよ!!
この程度の称賛じゃ、私の心の渇望は癒せないの!!!
なぜなら――私は、“称賛の頂点”を知ってしまったから。
一年前、私は魔法少女だった。
そう、魔法少女。
突如現れた侵略者を相手に、世界を救うヒーロー。
選ばれし少女たちにしかなれない、正義の象徴。
そして、私は――その中でもトップだった。
敵を見つければ秒で撃破。
仲間たちを指揮し、的確な作戦で勝利に導く。
何よりも、人々の称賛を一身に浴びていた。
戦場では、私が姿を現すだけで歓声が響いた。
「夜城灯だ!!」「彼女が来た! これで勝てる!!」
「ありがとう!!」「あなたがいてくれてよかった!!」
皆が、私を求めていた。
皆が、私を称えていた。
それはまさに……私のための舞台!!!!!
あの時こそ、私は世界の中心だった!!!!!
――しかし、私はやらかした。
調子に乗りすぎた。
だってさぁ、戦うのが楽しすぎて、ちょっと張り切っちゃったのよね。
結果、わずか一年で侵略者を壊滅させてしまった。
いや、普通なら「それでよかったじゃん!」ってなるでしょ!?
そう、普通なら。
でも、ここで問題が発生したのよ。
平和になったら、魔法少女って不要じゃん。
魔法少女が不要になれば、当然――私に向けられていた称賛もなくなる。
ある日を境に、世間の反応はこうなった。
「いや~、魔法少女さんたちのおかげで平和になりましたね!」
「もう安心ですね!」
「これからは普通に暮らせますね!」
……うん。
つまり、私の仕事、終わったってことよね???
いやいや、待て待て。
なんで?????
私、まだ輝きたいんだけど?????
それまでは「夜城灯すげえ!!!」って言ってた人たちが、
突然「いや~、お疲れ様でした!」みたいな空気出してくるんだけど!?!?
ちょっと待って!!
私はただ戦ってただけなのよ!!
結果的に侵略者が全滅しただけで、私に悪気はなかったのよ!?!?!?
――でも、もう遅かった。
称賛の嵐は、あっという間に止んだ。
もう、誰も私を求めない。
世界を救ったことが、私の唯一の失敗だった。
そして今――私は、ただの天才。
それでも私は、天才的な頭脳を持っている。
その才能を活かして、いろんな賞を取り続けた。
だけど、どれだけ優勝しようと、どれだけ褒められようと――あの頃の称賛には、遠く及ばない。
私は、もう一度、あのスポットライトを浴びたい。
もう一度、世界の中心に立ちたい。
だけど……どうすればいい?
もう戦うべき敵はいない。
世界は平和になってしまった。
私が輝く場所は、もうないの?
何か方法は……ないの?
――でも、どれだけ考えても、答えは出なかった。
このまま、普通に生きるしかないの?
このまま、ただの天才として、賞を取り続けるだけの人生?
……そんなの、嫌だ。
私にはまだ、何かできるはず。
まだ、何か方法があるはず。
――でも、それが何なのかは、分からなかった。
その夜、私は天井を見つめながら、考え続けた。
「壊滅させたの、失敗だったなぁ……」
ぽつりとこぼした言葉は、誰にも聞こえなかった。
だけど、それがどこか、次の何かへとつながる気がしていた。
私はこの世の全てを見抜く天才である。
どこにどんな敵がいるか、どんな陰謀が渦巻いているか――私が気づかないわけがない。
だからこそ、この「違和感」にはすぐに気づいた。
ある日、私は何の気なしに街を歩いていた。
いや、違うな。別に特別な理由があったわけじゃない。
賞をもらって、それなりに褒められて、満たされない心を抱えたまま歩いていただけ。
それでも、退屈な日々の中で私は「異物」を感じた。
人の流れに紛れて、ごく自然に歩いている数人の男女。
見た目は普通の人間。何の変哲もない。
でも、分かる。私には分かる。
こいつら……侵略者の残党だ。
たまたま見つけたわけじゃない。
彼らがどんなに地球人のふりをしても、私は騙されない。
私の感覚は、普通の魔法少女とは違う。
魔力の流れ、微細な波動――その全てを解析し、完全に見抜くことができる。
彼らが「普通の人間」を装っていることも、その擬態がどれだけ巧妙にできているかも分かる。
でも、それでも私の目は誤魔化せない。
……へぇ。
おもしろいじゃない。
侵略者ども、まだ生き残ってたのね?
さて、ここで問題だ。
この残党どもを一掃すれば、私はもう一度称賛されるのだろうか?
答えは――ノーだ。
いや、もちろん「すごい!」とは言われるかもしれない。
「まだ侵略者がいたなんて!」とか「さすが、夜城灯だ!」とか、そんな感じで感謝はされるだろう。
でも、それだけ。
どうせニュースの片隅にちょこっと報道されて、「元魔法少女が活躍!」みたいな感じで終わる。
数日も経てば、世間はそれすら忘れる。
こんな雑魚を倒したところで、私は「英雄」には戻れない。
そんなの、まっぴらごめんだ。
でも――。
私は、ふと足を止めた。
彼らの様子を、じっと観察する。
かつて私たちと死闘を繰り広げた侵略者たち。
世界を脅かし、人類を蹂躙しようとした連中。
その彼らが――。
ものすごく縮こまって、怯えながら生活している。
……は?
なんか、思ってたのと違うんですけど???
いや、普通ならさ、「復讐の時が来た……!」とか、「我々はまた立ち上がる!」みたいな感じでコソコソ動いてるもんでしょ!?
それがどうよ。
スーパーのチラシを見ながら安売りをチェックしてたり、道端でスマホの使い方を聞いてたり、犬に怯えて道を譲ってたり……。
いやいやいやいや!!!
お前ら、もっとこう、戦う気ないの!?!?
……ないんだな、これが。
見て分かる。彼らの目には、もうかつての侵略者としての誇りなんて微塵も残ってない。
すっかり心が折れ、身を潜めながら、ただただ平凡に暮らしている。
そりゃそうか。
だって、彼らは負けた。
完膚なきまでに、私たち魔法少女に敗北したのだ。
その記憶が、彼らの心に深く刻まれているのは間違いない。
……なるほどねぇ。
私は腕を組みながら、しばらく考え込んだ。
この残党を倒すだけじゃ、大して称賛はもらえない。
でも、もし……もし、もう一度「戦い」が始まったら――?
もし、もう一度世界が危機に陥ったら――?
そしたら、私は再びヒーローになれるんじゃない???
…………。
あっ、これだ。
これが正解だわ。
戦いを作れば、私は再びヒーローになれる!!!
そうよ、こんな小粒な残党を倒しても仕方ない。
なら――「彼らをもう一度、戦わせればいい」じゃない!!
私はにっこりと微笑んだ。
こいつら、怯えて暮らしてる場合じゃないわよ?
せっかく生き残ったんだから、もう一度戦ってもらうわ。
もちろん、私がリーダーとしてね!!!
これこそが、天才たる私が導き出した完璧な解決策!!!
新たな戦いを作るのよ!! そうすれば、私が主役に戻れる!!!!
……ふふふ。
いいわ、やりましょう。
「新生・悪の組織」爆☆誕 !!!!!!!!
私の再☆降☆臨、決定!!!!!!!!!!!!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
書いててすごく楽しいシリーズなので、感想やブクマもらえると飛び跳ねて喜びます。