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8話 渡さない

「セエレ様……」


 突然の来訪にアメリアは目を丸くした。


「申し訳ありません、ルイス様は現在屋敷を不在にしておりまして――」

「いいのよ。だって私はアンタに会いにきたんだから! さっさと案内して!」

「…………承知致しました」


 主人の婚約者を無下にすることはできない。

 アメリアは仕方なく、セエレは客間に通したのだった。


「――それで、私にどのようなご用でしょうか」

「強がっちゃって。あんな手紙貰ってよく平然と働けてるわね」


 紅茶を出しても、セエレはそれに手をつけることなくアメリアを睨む。


「……やはりあの手紙はセエレ様でしたか」

「わかっていてルイス様に泣きつかなかったことだけは褒めてあげる」


 目を細めるアメリアにセエレは悪びれる素振りなくふん、と鼻を鳴らす。


「何故このようなことを」

「何故? アンタがルイス様のお気に入りだからよ! いつも隣にベタベタ引っ付いて、目障りなのよ!」


 ばん、とセエレは勢いよくテーブルを叩けばティーカップが倒れた。

 それでもアメリアは平静を保ちながら、零れた紅茶を片付ける。


「私はなにも気にしないみたいに格好つけて! そういうところがムカつくのよ!」

「……私とルイス様はただの主人と使用人の関係です」

「そういって、ルイス様に取り入って愛人にでもなろうとしてるんでしょう!? アンタの考えなんか丸わかりだわ! 私はそんなの絶対に許さないからっ! ルイス様は私のものなんだからっ!」


 癇癪を起こすように叫ぶ。


「セエレ様。誓って私はセエレ様が心配なされるようなことは致しません。私はあくまでもメイドですので」

「……それなら、今すぐ離れて! ルイス様から!」

「……っ」


 セエレは机についたアメリアの手に思い切り爪を立てた。

 綺麗に手入れされ、ネイルを施された鋭い爪がぎりりとアメリアの手の甲を抉る。


「ルイス様が貴女を離さないというのであれば、自分から身を引きなさい。そうね……お父様が貴女を欲しがっているのだから丁度いいんじゃない?」

「……しかし」

「本当にルイス様になんの感情もないというのであればいいでしょう? それとも……この屋敷の使用人がどうなってもいいの?」


 にやりと笑うセエレにアメリアの眉がぴくりと動く。

 その時初めて、アメリアはセエレに大きな反応を見せた。そしてそれを見たセエレの笑みは更に濃くなっていく。


「いい? 私がルイス様と結婚すればここの女主人になるの。使用人は私の意のままにできる……大切にするのも酷く扱うのも……全部私の命令次第でしょう?」

「……脅しですか?」

「貴女一人とこの屋敷に仕える数十人の使用人たち……天秤にかけるまでもないでしょう?」


 ぐっ、とアメリアは拳を握る。


(少しでもルイスに恩を返せたら……と思っていたのに)


 前世の長年の恩を返したかった。だから自分はルイスに仕えようと思った。


「アンタなんかルイス様の邪魔にしかならないのよ」


 その時、脳裏に過る前世の記憶。


『巻き込んで、すまない――』


 自分のせいで大切な執事を死なせるところだった。

 あの夜、自分はルイスを助けられたと思っていた。だが、彼は自分と同じように生まれ変わっている。つまりは彼も死んでしまったということ。

 そうだ。自分がいなければルイスは死ぬこともなく今も幸せに生きていたのかもしれない――。


(私がルイスの傍にいたら不幸になってしまう――)

「――セエレ、屋敷に来るなら連絡をくれればいいのに!」

「きゃあっ、ルイス様っ!」


 最悪のタイミングでルイスが帰ってきたようだ。

 ルイスの顔を見るなり、セエレは今までのことなんてなかったかのように乙女の顔で彼に抱きつく。


(なんという切り替えの早さ……)

「もうっ、セエレは寂しかったですっ!」

「アメリア。留守中、問題はなかったか?」

「…………ええ」


 そう零すと、顔だけをこちらに向けているセエレと目があった。

 凄い形相でアメリアを睨んでいる。

 さあ早くいいなさい、と口を動かしていた。


「……アメリア?」

「ルイス様……お願いがあるのですが」

「なんだ? 私に出来ることならなんなりと……」


 いつもの過保護モードに切り替わりそうになる前に、アメリアは大きく息を吸って言葉を続けた。


「――私を今日付で退職させてください」

「――は?」

「私は、ランペル伯爵の元へ参ります」


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