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ショートショート12月〜4回目

作者: たかさば

 毎朝、駅に向かう道の住宅街の信号のない交差点で、いつもすれ違うおじさんがいる。


 毎日同じ電車に乗って会社に行くので、毎日同じ時間帯にこの道を通っているのだが…、雨の日も雪の日も晴れた日も猛暑の日も、必ずすれ違う。


 中肉中背、やや高齢者寄りの、どこにでもいそうな地味なおじさんは、いつもペットを連れている。


 犬にしては大きく、しっぽもなく、明らかに…おかしな生き物。鼻のような部分が2つあるような気もする。ワンと鳴いたことはなく、明らかにリードが細くて、違和感しか感じない。


 ……あれは犬なのだろうか。

 どう見ても、犬ではないように思う。


 すれ違いざまにまじまじと見るのも失礼なので、立ち止まって見送るようなことはしたことがない。道の向こうからやって来るのを、前方に視線を向けながらさり気なく確認することぐらいは、した。


 たまに道の途中で立ち止まり、地域の住人たちとフレンドリーに話す様子も見かけるが…、おばさんもおじいちゃんも、気さくに犬の背を撫で、何も不思議に思っていない様に見える。


 一見ごく普通の、穏やかで平和な、朝の風景なのだが。


 犬だけが、明らかにおかしい。

 どう見ても、明らかにおかしい。


 だが、誰一人として反応するものはいない。


 ……どういうことなのだろう。


 新種の犬?

 ロボット犬?

 何かの撮影?

 近辺では当たり前?


 犬好きを装って、『何犬ですか?』と聞いてみようか。


 だが、そこまでするほどでは…ないと思う。

 見ず知らずの他人に声をかける勇気も…ない。


 気にはなるが…それだけだ。


 首を突っ込んで、おかしな事になるのはゴメンだ。


 見知らぬ他人が、自分に対してフレンドリーに対応してくれるとは限らない。

 不信感を持たれて、警察沙汰になってもまずい。


 ……あれはおそらく、犬なのだ。


 そう、あれは…、犬なのだ。


 違和感を拭えないまま、自分を納得させ…いつものようにおじさんとすれ違う。


 横目で犬を確認しながら、朝日に照らされている前方の地面に目を落とす。


 …今日もいい天気だ。

 自分の影が、長く、くっきりと地面に伸びている。


 この道は朝日を遮る建物が何もなくて…晴れた日は背中がポカポカして、暖かさを感じるんだ。真冬の寒さも、日が出てさえいればずいぶんしのげて……。


 そう思ったのも、つかの間。


 大きな影が、背後から、広がり始め。



 眩しい太陽の光が遮られ、地面に…暗い、影が……。



 何だこれは、珍しいこともあるんだなと…。


 何が、光を、遮ったんだろうと。



 振 り 向 い て 

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