偽善の悪
日本を震撼させる二つのニュースが日本中に流れた。
その二つと言うのは『家族皆殺し事件』・『家族集団自殺』
この事件には両方に家族の生き残りがいる。
家族皆殺し事件の生き残り、そしてこの事件の犯人。
菅下 静斎
家族集団自殺の生き残り。
宮上 響志
それが俺の名前である、
職業は週刊誌の記者をしている、今回の取材は編集長のイカれた企画が通り『家族集団自殺の生き残りと家族皆殺し事件の犯人の対談』
9月17日――。
これの為に俺は刑務所の面会室で菅下を待っている。
ガチャ
ドアがゆっくり開く
囚人服に身を包みガラス一枚越しの椅子にゆっくり座り込む。
「こんにちは、君が菅下静斎さんだね。」
「あぁ」
彼はそう呟きまた無言になる。
「えっと自己紹介がまだだね私が……」
「宮上響志……無景週刊誌の記者……まぁ俺と同じ職業のライバル会社。ですよね。」
「よく分かりましたね。」
「まぁ俺記憶力はいい方なんで、前に一度記者会見の場で貴方を見た事があったので。貴方も俺が貴方を知っている事は想像出来たでしょう。」
「はは、参ったな。貴方はなんでも知っていそうだ……」
「そっちの編集長はイカれてるね俺達で対談させるなんて」
「はは…何も言い返せませんね。」
自分の乾いた笑い声が狭い室内に響く。
彼の後ろにいる看守に目を向け、軽く首を振り合図をする。
すると分かってくれたのか看守は腕についている時計を見てこの部屋を出て行った。
「お金でも払ったんですか?」
「そんな事しませんよ、ただ申請書を書いただけです。」
「弁護士ならまだしも記者には珍しい事ですよ。」
「まぁそうかもしれませんね、菅下さんの会社では。」
「やめましょう、こんな事する為に面会してる訳じゃ無いですし。」
「そうですね…」
と言って私はバックからボイスレコーダーを出し、録音ボタンを押す。
「なるほど」
彼は看守を外に出した意味を理解したらしい。
「まずは事件の詳細に間違いが無いか質問に答えて下さい。」
事件の資料をパラパラとめくり質問を始める
「貴方の家族構成は父親が貴方が10歳の時に他界、母親が1人で貴方と弟を育てた、そうですね?」
彼はこちらをしっかりと見て「はい」と答えた。
「では次の質問です。貴方は、母親も弟が一緒に住んでいる実家に行き2人に毒を飲ませ、その家の包丁で2人を1回ずつ刺し、死亡したのを確認してから自分で警察に電話をし自首した。間違え無いですね。」
彼は少し動揺を見せ。
「いきなり核心に迫りますね。」
「まぁ面会時間も少ないですしね。」
彼の目が少し動き
「はい、間違いないです。」
「本当ですか?」
「えっ?」
彼は少し驚いた様子でこちらを見た。
「いやぁ本当に貴方が殺したと思えなくて。」
「何故そう思うんですか?」
「だって普通人を殺して自分から自首しますかね?」
「怖くなったんですよ。」
「怖くなったね…そんなドラマじゃないんだから、人を殺すにしても覚悟が必要だと私は思うんですよ、むしろ自分の身内なんて尚更でしょ」
「いいでしょ別に」
「急にですか?殺したあと急に怖くなったんですか?」
「そうですよ!」
「貴方多重人格者ですか?」
「は?」
「いや、そんな短時間で自分がやった事をすぐ変えるのかなって」
「変えたんですよ!」
「貴方はどっちのタイプの記者ですか?」
「は?どっちのタイプ?」
「えぇ、本当の事でも隠蔽して捏造して報道するタイプか絶対に真実を伝える為に動く記者か。」
「質問攻めですね」
「記事の為もあるんですけど普通に私が気になるので。」
彼は少し悩んだ顔をして答えた
「真実を伝える方ですかね、何だかんだ真実が好きですから」
「ほう、」
「なんでニヤけてるんですか?」
「え?」
同じ意見で少し顔が笑っていたみたいだ。
「あぁ、私も同じ意見で似てるなって少し思ってしまったみたいで」
「似てないですよ」
彼も少し笑う
「確かに全く似てませんね」
するとドアが開き看守が入って来る。
「時間です。」
「もうそんな時間ですか、」
腕時計に目をやる入って来てからもう30分も経っていた。
「では今日はこの辺で今度来る時は私の事件の資料を貴方に渡しますね」
そして椅子から立ち上がる。
「お互いの資料を基に質問し合いましょうね。」
そう言って私は面会室を出た。
そして私は直ぐに帰るわけでもなく待ち合わせをしていた仲のいい警官と会うのだった。
9月18日――。
今回も前回と同様椅子に座って彼を待つ。
ガチャ
重い扉が開き彼が入って来る。
彼は少しこちらを睨みガラス越しの椅子に座る。
私は看守に目で合図をする、看守は少し頷き扉から出ていった。
私が声を掛けるより先に彼が口を開いた。
「俺は勘違いをしていたみたいだ、無景週刊誌自体が警察と関係を持っているんだと思っていたが、それは間違いで貴方個人が警察と深い関係にあったんですね。この資料を警官から貰いましたよ。」
すると彼はクリアファイルをテーブルの上に放り投げた。
「ひどいな放り投げるなんてまとめるのに相当時間掛かったんですよ、その資料。」
「ええ読みましたよ、本当に細かく貴方の事件が書いてある。」
「こっちには菅下さんの事件の資料が有ります。」
「何がしたいんですか?」
疑問が混じった目でこちらを睨み付けて来る。
「怖いな私はただお互いの事件の真相を知りたいだけですよ、いいえ貴方に真相を知ってほしい。」
彼は無言になる、前回と同じ様にバッグからボイスレコーダーを出し録音ボタンを押す
「私思うんですよ今回の貴方の事件よく出来すぎてる、貴方は慎重深い性格をしてるのに、何故こんなに証拠が全て残っているのか。」
彼は無言を貫いている。
「無言なんてひどいな」
彼はゆっくり口を開く
「貴方は何故か信用できない」
「何故?」
「まだ分からないでもいつかそれが分かる時が来る予感がする」
そう言って彼はこちらを見て来る。
「ふっ」
少し笑ってしまった、気を取り直して
「じゃあまずは事件のおさらいから入りますか」
と言って私はさっきまでの話を切り上げ本題に入った。
「家族皆殺し事件、巷では貴方の事件はこう呼ばれています。」
「呼び名なんてどうでもいい、真実なんだから。」
彼は下を見ながら言った
「そうですか。事件当日貴方は実家に行き母親と弟を殺害そうですね?」
「ええ、そうですよ。」
「凶器はなんですか?」
「は?そこの資料にどうせ書いてあるでしょ」
彼は不思議がりながら私が持っている資料を指差した。
「ええ、確かに書いてありますが、貴方の口から聞きたいんですよ。」
「実家にあった包丁ですよ」
「そうですね貴方の指紋が検出されてますもんね。」
「そうに決まってます。」
「でも貴方の指紋は少しだけなんですよね」
「そりゃその時初めて触ったからね。」
「ほう。」
「なんですか?」
「貴方あの家のキッチンはご存知ですか?」
「は?」
彼はそんな突拍子の無い質問に疑問の目をこちらに向けた。
「だから、貴方の実家のキッチンは知っていますか?」
「2回言われなくても質問の意味は分かってます、何故今ですか?」
「いいから答えて下さい。」
「はぁ…リビングを抜けて左手にコンロ、右手に冷蔵庫、食器棚ですけど」
「包丁は何処にありましたか?」
「そりゃいつものコンロの下の扉の裏に…あっ。」
彼はそう言っている途中で黙り込んでしまった。
「そうなんですよ可笑しいですよね?貴方の実家はこないだキッチンをリフォームしたばっかり。包丁の位置も変わっている。凶器を取った場所ぐらいおぼているはずですよね。」
彼はまた無言を貫き始めた。
「貴方やっぱりとんでもない秘密を隠してますね。」
「なんも隠して無いですって!」
「じゃあ今はそれでいいですよ、今は…ね。」
9月19日――。
「さぁ今日は逆にしましょう」
「逆?」
「ええ、昨日は私が資料を元に質問した、なので今日は貴方が私に質問して下さい。」
「するわけないじゃないですか。」
「何故?真実を解き明かしたく無いんですか?」
「私は警察でも無ければ、探偵でもない、私の仕事は誰かが調べた真実を伝えるのが仕事。まぁ元ですけどね、それにここで質問しても貴方が答えるのが本当かどうか分からない、真実には辿り着けないんですよ。」
「私は嘘なんて吐きませんよ、それに私は本当の真実を知っています。」
「なら何故私に質問させようとするんですか?貴方が自分で事件の真実を発表すれば良いじゃ無いですか。」
「そんなのつまんないに決まってる俺は貴方に真実を暴いて欲しい、別の事件だけど全てが逆の貴方に。」
「全てが逆?」
「ええ集団自殺と言っているが本当は俺の為に死んだんだ。」
彼は言葉の意味を考えているようだった。
「俺の為に?何を言ってんだ?」
「少し言葉を変えるか…」
少し息を吸い無音の面会室に宮上の言葉が響く
「俺の家族は自殺したんじゃ無い俺が殺した。」
(何言ってるだ?コイツ?自分で殺した?自分の家族を?)
面会室に無音が続く
「あれ?おかしいなもっと反応あってもいいのに?」
なんにも言葉が出てこなかった、込み上がって来る怒りそんな感情が心の中で暴れる
「嘘をつくなよ、この資料に集団自殺ってお前が書いたんだろ!」
「私は嘘なんてつきませんよ。まぁその資料いや世間に出回ってる方が嘘なんだよ。だってそうでしょ貴方の事件も菅下さんが犯人って書いてあるけど本当は違う、貴方の家族が集団自殺をしたんだ」
彼は化けの皮が剥がれた様にさっきの態度とは全く違う。
そして彼は続ける
「俺は家族が嫌いだった、そう殺してやりたいって程にね…でも俺の家族は真逆の考えだった、その事を知ったのは奴らを殺した時に分かった。まず最初に兄貴を包丁で刺し間髪入れずにその包丁で母親を刺した。そしたらなんて言ったと思う?」
笑った顔でこちらに質問して来る、しかし俺が質問に答えないと顔で分かったのか彼は続けた。
「まぁいいや、そう包丁で刺されたのにも関わらず、『逃げなさい!』だってよ!ハハ!いやぁ〜あの時は流石に笑ったね!笑いすぎて腹が千切れるかと思ったね!しっかり急所を刺したのは分かってたし、直ぐにコイツらは死ぬと思ったから家を後にしたんだけどそこで!」
ある考えが浮かび口から言葉が出てしまった。
「宮上響志を犯人にしない様に自殺の偽装工作…」
彼は不気味な笑みをし
「そう!俺を人殺しで捕まらない様にする為に家にあった睡眠導入剤をありったけ2人で飲みお互いに1本の包丁で刺しあって死んだ。しかもニュースでは俺は家族集団自殺の可哀想な生き残りとして注目された。」
彼の気持ち悪い笑みはずっと続いている。
「そんな時に家族皆殺し事件が俺の耳に入った…あんたのだよ」
そう言って彼は俺を指差しながら言った
「少しドキってしたね遂にバレたかって思ったからね、でも違った菅下静斎ってのが犯人だったでも俺は既視感を感じた」
そう彼が言ってる通りだ俺とコイツの事件は全く逆だが少し似ている
「俺も記者だ、菅下…いやアンタの事件を調べようとしたら皆んな手伝ってくれた。まぁそうだよな周りから見れば、家族を愛していたのにも関わらず、家族が自殺してしまった可哀想な奴が別の家族でも家族を殺すのは許せないって思って貰えたんだろうね…色々仲のいい警察からアンタの事件を聞く事が出来たよ。」
俺の中で1つ繋がった
「だからこの資料が俺の所に来たのか?」
彼は指を鳴らし
「だいせいかーい!いいね段々とお前も全貌にたどり着いて来てるよ!さぁどんどん行こうか!!」
彼は最初にここに来た時とはもう別人の様に見えた。
「そして俺はお前の事件の全貌を推理した。お前は俺と違って家族に嫌われていた、お前は家族を愛していたが、家族はお前を殺したい程憎んでいたんだと思った、」
手が震える、今まで少し思っていた事を全て彼に言われているからだ。
「でも何故お前を殺さず自殺を選んだのか?それが1番の謎だった。そして俺はとある結論に至った…お前の家族は静斎が家族を愛している事を知った、殺すよりも愛している家族が死んだら死ぬより辛い事なんじゃ無いか?しかも自分達が死んだのを静斎の罪にすれば刑務所で死ぬ事もなく、苦しむと。」
全て言われた…俺が黙っていた事を。
「可哀想な奴だよなお前は!家族が好きでこんな真実を突きつけられても家族に泥を塗らないように自分が犯人になるとかどんな偽善者だよ!あー笑いが止まらねぇ!」
「いいんだよ俺が犯人で!俺が殺した!」
「嘘つくなよ…人を殺してない奴が人殺しを名乗るなよ。」
冷たい言葉に言い返せなかった
「本当に真逆だよな俺たちお前は家族に嫌わられ家族に犯人に仕立て上げられた、それに対して俺は家族に愛されて犯人だったのを庇わられた。」
「何がしたいんだよ…こんな真実を突き付けてお前は何がしたいんだよ!」
彼は数秒無言になった後言った。
「復讐。」
「復讐?誰に?」
「家族に。」
訳が分からなかった。
「何言ってんだよ家族を殺して復讐は終わってんだろ!」
「いいや、それは違うね今回の俺の事件で俺が気に入ってないのって何処か分かるか?」
「気に入ってない?」
「あぁそうだ。俺は今まで親の考える様に動くのが嫌いだった、だから家族を殺した。」
1つの考えが浮かぶ
「お前まさか!?」
「そうだよそのまさかだよ。」
「だからそれがずっとあったのか。」
俺は彼が考えてる事が分かった、俺が口にしようとした瞬間彼は話した。
「そう、俺はこのボイスレコーダーを警察に持って行き自首する。そうすれば家族が偽装工作をしてまで守りたかった俺は守られない、これが復讐だよ。」
さっき迄の彼とは違うやけに落ち着いている。
「悪いな菅下静斎お前の家族の罪も一緒に暴くお前が守りたかった物を俺が…」
それからの事はあまり憶えていない彼は面会室を後にした次の日に事件の再捜査が決まりその3日後裁判がまた行われる事が決定し。
宮上響志は無期懲役が言い渡され、
菅下静斎は釈放された。
11月15日――。
俺は記者を辞める。しかし最後にいい仕事が出来る気がした。
面会室で起こった事を記事にし最初で最後の世間の人がほぼ読む記事を書く事が出来るだろう。
俺は今後記者を辞めて精神科医になろうと思う、宮上の様な奴を増やさないよう、家族環境で悩んでる子がいなくなる様に願う、いや俺がそれの力になりたい。
完
初めて投稿します、桃下響と申します。
この作品を楽しんでくれたら幸いです!
これからはたまに上げてこうと思います。