第一章 第八話:クラス
第一章:世界の在り様と赤の生き様
「21にもなって高校生か……」
死にたい、と仁は力なく笑っている。
「仁、気持ち悪い笑い方してないで、自己紹介をしろ」
坂城は容赦ない。先に自己紹介を済ませた奈々華が楽しそうに笑っていた。
教卓の前に立つ仁と奈々華の前には、期待と不安が入り混じった表情の同級生。二人に視線を送っている。二人が編入することになったのは、この学園の高等部一年三組。ちなみに十クラスあるらしいが、編入生というのは非常に珍しいそうだ。学校制度は大方仁たちのいた世界のそれと変わらないらしく、皆十六か十五歳。仁の五つ、六つ年下。
「城山仁です。えっと、主属性は黒。今紹介した奈々華の兄になります。皆さんよろしくお願いします」
奈々華とは双子と言う設定らしい。朝剃ってきたアゴヒゲも、顔の成熟具合も、全体から醸し出されるダメ人間のオーラも…… 全てにおいて無理があると、仁も奈々華も内心思っていた。
クラスの面々に明らかな動揺が走る。
ざわざわと、各自近くの席の者と会話を交わしている。てっきり仁と奈々華が双子という件、仁の年齢についてのことを話しているのかと思えば、端々に聞こえてくる囁き声の内容は仁の主属性についてだった。
「珍しいからな。仕方ない。私も木室から報告を受けた時は正直耳を疑ったよ」
坂城が小声で仁と奈々華に話しかける。
「静かに!!」
坂城が続けざまに、今度はクラスの生徒に向かって大声を張り上げた。鶴の一声と言わんばかりに、静まり返る生徒達を見て、仁はへえと感心したような声を出した。学園長自ら二人の紹介の場に立ち会うという雑務を買って出たのは、こういうわけだったのだ。これくらいの年頃の少年少女を一喝で黙らせるとは、よほど信望があるのだろう。
「仁、奈々華…… 一番後ろに席を用意してる」
教室の後方、二つだけぽつんとある空席を指差す。
「出来るな、お前。一番後ろは途中退席しやすいんだよな」
「私の授業でそんなことしてみろ…… 殺すからな?」
へらへらと笑っていた仁も、坂城の目が本気だったので、そのまま固まってしまった。
精霊魔術師達は、その属性によって適した職業に就き、社会に貢献していく。
黄は電力、赤は火力、緑は風力、青は水力…… ダイナモ代わりになったり、新しい技術発展に大きく寄与する。従来の科学技術と、魔法の力が相互に噛み合いながら、世界をより高次へと日々運んでいく。
その中でも、白は医療分野で多大な需要を生み出している。
「私、こっちだったらすぐに就職出来そうだね」
仁の隣の席、奈々華が小さく呟いた。ちらりと仁を見遣る。独り言ではなく、仁に反応を求めているのは明白だった。
「……」
仁はこの世界の仕組みを貪欲に聞き入っていた。聞けば、手触りも見た目も石にしか見えないこの学園の建物も、その材質は実際は違い、精巧に似せて作られているものらしい。
技術レベルは仁たちのいた世界よりも格段に上なのだということがわかり、仁は探求欲を強く刺激されていた。教壇の上、教鞭を振るう坂城も、彼の想像外の真摯さに感心したように口をすぼめている。
「お兄ちゃんは珍しい属性らしいから、難しいかもね」
「……ん、ああ。そうだね」
偶然噛みあった会話は奈々華の望むものではなかった。