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第二章 第六十四話:ベルベット・ワーズ

「私の家は代々この学園を管理していてな…… 勿論それだけではないのだが」

「何が勿論なんだ? 学校の理事だけでも十分儲かるし、立派な仕事だろ」

羨ましい限り、と顔に書いてある。坂城はそんな仁を数秒見つめて、やがて自白するように言葉を連ねるのだった。

「私の家もミリーの家も、富豪と言って間違いない。所謂箱入り娘ってやつだ」

「……」

「だけど、数年前くらいかな? この学園を二人で卒業してしばらくすると、彼女から音沙汰がなくなった。彼女の家にも行った。なくなっていた」

「お前飛び級したのか?」

仁の脇道の質問にああ、と小さく。

「さっきから、言葉の端々に自慢が滲んでるようなのは、気のせいか?」

「……気のせいではない。正直留年するなんてどうやればいいのかもわからん」

そう言ってにやりと笑う坂城はすっかりいつもの調子を取り戻している。仁はチクショウと怒りをあらわにしている風だった。だが本当は怒っているんじゃなくて、わざと彼女の調子に合わせて湿っぽくならないように気遣っていると、坂城自身は十分に理解していた。

「話が逸れたな。彼女からはそれっきり何の連絡も来なかった」

それでも、ここまでが限界だったらしい。彼女の顔が痛々しく翳るのを仁は眉をハの字に寄せて、心臓を刺されるような気持ちで見ていた。

「彼女が私の家に居たのは十歳くらいのときかな。一年ちょっとしか居なかった」

でも、と小さく逆接を繋ぐ。

「私は彼女が悪事の片棒を担ぐような人間ではないと知っている。信じている」

「ああ、俺もアイツが悪いヤツとは思えない」

仁の口から漏れる本音は甘い囁きとなって、坂城の心を殊更温めた。

「……家族諸共の失踪ってのが、鍵を握っているみたいだな」

仁は既にある程度、自分の頭の中で推論を組み立てていた。もしかしたら違うのかも知れない。本当に純粋にビジネスとして加入したのかもしれない。だけど……

もし家族を人質なり何らかの形で利用されて、成す術なく一員となっているのなら。

「勝手な願いだとはわかっている。だけど……」

皆まで言わずとも、仁が自分の言わんとしていることを理解してくれると、そしてその願いを断るはずもないと確信めいたものが坂城の胸にはあった。子供みたいに甘えている。だけどこの人ならそれを……

「分かってるよ。アイツは何があっても殺さない。俺だって別に人を殺したくてウズウズしてるわけじゃない。殺さないならそれが一番いい」

「ああ……」

坂城は目を瞑り、それを聞いていた。優しい言葉を一言一句聞き漏らすまいと、余計な情報源を遮断しているのだ。川のせせらぎを、鳥の美しい囀りを、人は目を瞑り聴覚だけで愛でる。

「任せとけ。俺からも事情を聞いて、もしアイツの本心がフロイラインに居たくないってんなら説得してみる。力にもなるさ。それでも駄目なら、捕まえてお前の前に引きずってでも連れて来る」

わざと何でもないように。まるで近所の野良犬を捕まえるようなトーンで。

「ああ…… 頼む」

居ずまいを正して、勿論感謝も十二分にあったが、坂城がぺこりと頭を下げたのは自分の顔を仁に見られたくなかったからだった。

タイトルですが、多分こういう用法はないです。

作者の造語です。あまりモヤっとしないで下さい。

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