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第二章 第六十三話:温情

「それで? 話って?」

奈々華が待つ部屋へ帰ろうとした仁は、部屋の近くの廊下で仁王立ちしている坂城を見つけた。道中何を聞いても話さない坂城に誘われる形で、学園長室まで来ていた。どかっとソファーに腰を沈めた仁は、いつもより遠慮がちに座る対面の坂城に目をやった。

「わかっているのだろう?」

質問に対して質問。俺はエスパーじゃないと冷たく言い放った仁に、悲しそうな瞳を向ける坂城は随分幼く見えた。

「……」

「……ミルフィリアを殺すなってか?」

坂城は俯いてしまった。

「馬鹿だろ? お前」

「馬鹿とは何だ!」

情緒不安定。俯いたかと思えば、仁の悪口に過敏に大声を出す。

「私だってな、色々考えたんだ。君を巻き込み、挙句契約を延長してもらい、その上戦闘の仕方にまで注文をつけるなど!」

最後のほうは半べそをかいている。どうやら彼女なりに仁への配慮とミルフィリアへの何らかの感情の間で葛藤を抱きながら数日を過ごしたようだ。仁はその配慮を受け取り、穏やかに笑った。

「……あのなあ。迷惑だと思うんなら、最初から呼ぶな」

うぐっと言葉に詰まる坂城。まさに正論だった。

「でもなあ、俺は前にも言ったがもう迷惑なんて思ってない。第一もう関わっちまった」

呉越同舟。一蓮托生。乗りかかった船。袖口で目元を拭い、坂城は顔を上げた。

「……泣きついてこいって言ってるだろ? お前の我が侭くらい屁でもねえんだよ」

坂城はじっと息を殺すように、黙って仁の顔を見つめたきり。

「何でも一人で抱え込もうとするな」

俺が言うかね、と心中。そこまで言っていつものヘラヘラ軽薄な笑みを浮かべた。


自分が思うよりも何倍も相手が自分を思ってくれている。気にかけてくれている。坂城は拭った目頭がまた熱くなるのを感じていた。胸が締め付けられるように痛み、仁の顔から視線を外せなくなる。話は終わりだと立ち上がろうとする仁を、どうしようもなく行かせたくなかった。まだここにいて欲しいと思った。

「ミリーは、私の従姉妹だ」

ちくりと胸に痛みが走る。自分勝手な感情を満たすため、仁の厚意を、従姉妹への思いを利用している。そんな坂城の内心を知ってか知らずか、仁は上げかけた腰を再び牛皮のソファーに落ち着けた。

「……」

「共に暮らしていたこともある。親御さんの事情でしばらくウチが預かったんだ」

ポツポツ、自分の頭の中を整理しながら…… 罪悪感と折り合いをつけながら。

「小さい頃の話だが、よく遊んでもらった」

仁が訝しげな顔をする。

「私より二つほど上でな…… 優しく賢い人だった」

「ちょっと待て…… お前今いくつだ?」

そう言って、仁は今まで坂城個人に関する話を自分がほとんど振ったためしがないことに気付いた。

「十七だが?」

仁が顔を引き攣らせる。

「嘘だろ…… ほんとだとしたら、老け……」

「老け?」

顔は笑っているが目は笑っていない。仁は逃げるように視線を部屋の調度品に向けた。新しく買ったのか、黒とも灰色ともつかない暗色を基調にした前衛的な絵画が部屋の右側の壁に飾られていた。

「老け、なんだ?」

「ああ、いや、その…… それにしても奈々華と同い年だとは知らなかった」

「老け顔と言おうとしたんじゃないのか?」

「そうかあ。若いみそらで立派なもんだ」

仁は絵画がよほど気に入ったのか、坂城と顔を合わせるのが怖いのか、齧りつく様に壁から目を離さない。

「誤魔化すな!」

意外に根に持つタイプらしい。

「悪かったよ。美人だから多分歳が分かりにくかったんだよ」

「び、美人」

仁の取ってつけたような世辞に、律儀に顔を赤らめる。存外言われ慣れていないらしいと、仁は目玉だけ動かして思った。

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