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第二章 第五十一話:機密

「……確かなのか?」

顎を引いて低い声を出した仁を、やはり無表情のまま見つめる行方は、ややあって重い口を開けた。

「表の世界、つまり顔も経歴も主属性も分かってる。真っ当に生きる二つ名持ちの魔術師はその身に制約の証を刻まれる」

「制約の証?」

今まで黙っていた奈々華が小首を傾げて鸚鵡返しに尋ねる。

「……二つ名を冠する魔術師は、例外なく優秀…… つまり簡単に人を傷つけることが出来る。逆にそれを止める人間はそうはいない」

「なるほど。話が見えてきた」

「え? どういうこと?」

奈々華だけ置いてけぼり。仁の勘がいいのか、奈々華の勘が悪いのか。

「中々豪気でしょ? 自分達は悪と通じておいて、他人には正義を求める……」

クスクスと笑う行方は自棄気味に見えた。

「……魔法犯罪対策室ってのは?」

「表の顔。フェイクって言ってもいいかも。対外もどうしてもやらなきゃいけないしね」

仁が近藤を破ったことが、万に一つ、現に起こっている。まるでパチンコ屋の景品交換所のようだと仁は思い浮かべた。払い出しだけは別の組織のような偽装。


そして悪は何ら制約を受けることなくその隆盛を極める。


「もう一つ…… 雷帝ってのは?」

行方はもうさして驚くこともなく、そこまで知ってるの、と静かな声。

「AMCの創設者。現在もその総括に当たる人物と目されているわ」

「……」

「……本当は一般人が知りえていい情報じゃないのよね。だからアタシも墓まで持っていくつもりだったんだけど」

一般人では知り得ない情報をどうして彼女は手に入れたのか。仁は一瞬行方自身に興味を覚えたが、すぐに改めて彼女の言葉の続きを待った。

「恐らくは、フロイラインと何らかの関係を持っているとアタシは睨んでる」

関係と言う言葉を出すまでに僅かな逡巡があった。

「……或いは創設に携わった。そして今も影響力を持つ……」

「滅多なこと言うもんじゃないわよ」

困惑に眉を寄せ、行方は視線を左右に振る。会話に置いていかれ、興味を失った奈々華がシャルロットと遊んでいるのが見えただけだった。後は仁と彼女、中庭には三人の姿以外は見えない。

「お前はそう考えているんじゃないのか?」

「……」

顔は口ほどに…… 雷帝に気を許すなとは、近藤の忠告はどうやら的を射ているようだ。

「どうして学園長に聞かなかったのよ?」

疑問と言うよりは、責めるような口調。損な役回りには違いない。

「……何だかアイツに聞いても難しそうだったから」

事実その判断は正しい。坂城に聞いても答えに窮しただろう。そういった判断を過たないことが仁の賢さだとしたら、行方には随分酷な話だ。

「アンタのこと侮ってたかもね。その通りよ。学園長もまた二つ名を戴く魔術師。表立って国連の陰口を叩ける立場じゃないわね」

或いは答えてくれたかもしれない。仁に少なからず負い目を持つ彼女なら多少の無理をしてでも。けれどまた泣かしてしまうのは、正直仁は憚られた。

突然、パンと一本締めをするように手を合わせた行方は、いつもの彼女に戻っていた。話は終わりということらしい。


「聞かれてばかりじゃ癪だから、最後にアタシからも聞かせて」

去り際、行方が思い出したように首だけ振り返って言った。仁は彼女の質問には可能な限り答えるつもりだった。こくりと冷静な顔で頷いた。

「煉獄のヒューイット…… 倒したってホント?」

それまで傍観者だった奈々華が、素早く顔を上げた。

「……」

僅かな沈黙。やがて仁が諦めたように目を瞑った。

「正確じゃない…… 殺した」

「お兄ちゃん!」

悲鳴のような奈々華の声に、ゆっくりと瞼を上げて行方への答えとした。

そう、と短く言葉を残した行方の背中からは彼女がその返答に何を思ったか判断がつかなかった。



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