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第二章 第四十六話:消化

第二章:雪解ける兄妹と青の苦悩



報酬は坂城が用意するものではなく、国連の魔法犯罪対策室という組織が払ってくれるそうだ。坂城は近藤の死体に残る魔力だったりを状況証拠として国連に提出した。概ね認められるそうだ。

<フロイライン>の幹部は軒並み、その首に賞金が懸けられていているが、近藤、つまり煉獄のヒューイットの賞金は日本円にして二十億という大金だった。額に不満があれば、近々直接労いに来るという国連のお偉いさんにしてくれ、と坂城は言った。何せ本当に倒せる人間がいるとは想定していない、ほとんど形骸的なものだから、交渉次第で仁の言い値を払うことに躊躇はないだろうということだった。


「いたいた、お兄ちゃん。探したよ?」

授業に出る必要も、義務もなくなった仁と奈々華は日々を漫然と過ごしていた。あれから二日。国連からの報酬が支払われるのは、早くても一週間かかるらしい。中庭でタバコを吸っていた仁は、奈々華に見つかってしまった。この二日間奈々華は金魚のフンよろしく、仁の後を着いてまわる生活を送っている。

「……」

たまには一人になりたくて、喋る刀も部屋に置いてきたというのに。

「……街に出ちゃったのかと思ったよ」

ザクザクと芝生を踏み鳴らしながら仁の下へ歩み寄る。中庭には晩秋の冷風が吹き荒れ、木々の残る葉を一掃しようと躍起になっている。襲撃のたびに張り替えられた芝生も、茶色い風景に溶け込んでいた。

「……」

仁は奈々華が自分に付きまとうのに、文句を言わなかった。弱みを見せた。甘えた。そう思っている。今彼女に強く出るのは、冷たくあしらうのは賢くない。そうも思っていた。

「どうしてそんなに俺の後を追う?」

愚問。

「…寂しいから? 一人で部屋にいるのは寂しいんだよ?」

「……俺も中庭に一人でいるんだが?」

「寂しいでしょ?」

別に、と答えようとして奈々華は表層的なことを言っているんじゃないのかもしれないと思った。もっと根本的な、慢性的な自分の孤独を指しているんじゃないかと。

「寂しいでしょ?」

「……」

「寂しいでしょ?」

再三。奈々華に背を向けたまま、仁は諦めたように頷いた。

「ああ。寂しい。奈々華ちゃんに会えないのはとても寂しいことだ。だけど…… 今は一人にしてくれないか?」

「ダメ」

苛立ったように振り返った仁は、奈々華の顔を見て言葉を失った。てっきり我が侭を言って困らす子供のような顔をしていると思った。奈々華は顔は笑っているが目は真剣だった。

「お兄ちゃん一人にすると、余計なこと考えるから」

西から吹く風が、仁のタバコの灰の一切れをさらってゆっくりと地面に置いた。

「……忘れろ、とは言えないけど、今は考えないで」

歪められた奈々華の顔。仁はかける言葉を探した。




坂城は誰もいない学園長室で一人、部下からの報告書と睨めっこしていた。坂城が秘密裏に動かしていた彼女直属の諜報員。その内の一人が昨日殺された。死体の傍にはこんな文書が落ちていたそうだ。

「我々フロイラインは、全勢力を以って、私立中谷精霊魔術学園を滅ぼすであろう」

タイプライターの無機質な文字。事実上の宣戦布告。赤の幹部を討ち取った代償。自衛への報復。

やがて坂城は神経質に、石造りの床にタップを刻み始めた。一休さんのとんちよろしく。しかし導き出される答えは、現時点で最も有効且つ現実的な方法だけだった。

「くそ! 国連め」

坂城は自らの右腕に刻まれた、制約の証を服の上から睨みつけた。だがやがて諦めたように目を瞑り、手の報告書をテーブルの上に放り投げた。


代わりに、大きく反動をつけてソファーに深く沈んでいた体を起こすと、携帯電話を手に取った。






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