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第一章 第三十六話:死線

狼ともハイエナともつかない、四速歩行の動物を模しているようだった。コアはどてっぱら辺りに浮いている。そこから炎が生み出され、四本の足と、頭、胴体を形成している。前回の巨人と同じ精霊。禍玉まがたま・赤。無限に炎を生成する装置として、科学の躍進に寄与する精霊。武器として転用した場合の恐ろしさは、坂城が身をもって承知していた。

「……とりあえず、仁には連絡を入れておいた。戻るまで耐え忍ぶぞ」

坂城は先程の仁との会話を思い出していた。少し引っかかる言い方。首を振ってそれを頭から追い出すと、目前に迫るイヌ科の炎に照準を合わせて、詠唱を始めた。


攻守共にバランスの取れた戦法。

坂城の水棲トカゲ、木室の雷馬が相手の動きを止めて、後ろに控える精霊魔術師の集団、教員達が順々に詠唱を始める。半分が防御に備えて待機。二人の精霊が受け切れなかった炎が詠唱中の無防備極まりない仲間達を直撃することのないように目を凝らす。半分が攻撃。精霊と仲間を信じてただひたすらに精神を統一し、詠唱を行い、魔法を繰り出す。

最初は上手くいっていた。

だが、徐々に最前線の精霊たちの体に火傷が目立つようになり、後方まで炎が飛んで来る率が高まってくる。防御に回る人間の数が、攻撃側を上回り、戦闘開始三十分もしないうちに手数が圧倒的に足りなくなっていた。もう目を瞑っているのは坂城と、木室二人。

「クソ…… 城山は何をしてるんだ」

防御の要としてチームを牽引する社が、汗でずれる眼鏡を直しながら悪態をついた。

また一人、炎を受けきれずにもんどりうって地面を転がっていく。敵の口から吐き出される炎の弾丸。もう雷馬の方は芝生の上に転がったまま、ピクリとも動かない。水棲トカゲの方も時間の問題といった様子。魔術師達に降りかかるそれらは今や霰のように間断ない。最も後方にいる救護班、と言っても白の魔術を教える新居あらいと言う教師一人だが、に運び込まれる教師達は、皆一様にヒドイ火傷を負っている。


メイスンの体が衝撃に耐え切れず、芝生の上を回転しながら教師達の最前列に突っ込んだ。

倒れ伏したまま動くことが出来ない。炎の獣が勝ち鬨でもあげるように、天に向かって口を大きく開くのが見えた。遊んでいる。遊ばれている。教師達の間に絶望が蔓延し始める。皆の戦慄が坂城にも伝わり、何かを叫ばないと、自分も飲み込まれそうだった。

「皆! 士気を保て! まだ諦めるな!」

しかし、教師達は顔を上げない。炎の獣がゆっくりと教師の一団に向かって歩を進める。目と口を形作る炎が揺れ、いみじくも禍々しく笑っているようだった。

「クソ! 仁……」

獣の動きが止まった。ピタリと。ビデオテープの停止ボタンを押したように、メデューサにでも睨まれたように全く動かなくなった。地面につけかけた片足が宙に浮いたまま。

「な、何が起こったの?」

木室ほどの経験豊富な魔術師にも納得のいく説明がつかない事態。困惑する教師達を余所に、獣は教師達の一団が控える中門の手前、芝生の切れ目あたりでなおも止まったままだ。


次の瞬間、獣の姿を形作っていた炎は跡形もなく消えた。宙に禍玉だけが浮いているだけ。

その黒ずんだ球体も、坂城たちが反応する間もなく、一度大きく浮かび上がると、学園の外へと飛び去っていった。後に残されたのは困惑と安堵の入り混じった表情を揃える学園の教師達だけだった。


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