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第一章 第二十七話:矜持と一陣の風の狭間

「仁! ヤツの核が心臓の辺りに見えるか?」

坂城の言葉に、仁は首だけで答えた。巨人の拳を軽く刀でいなして、体を横に流す。すぐさま炎の拳が張り替えられたばかりの芝生を燃やした。高熱と運動量で仁の顎から汗が滴る。

「どうすればいい!? 実体がなけりゃ斬れないぞ?」

仁の刀は炎の体を通すことは出来ない。鉄も高温の炎の前ではゼリーのようにふにゃふにゃになってしまう。体は酔狂ではなく、このことを計算に入れた鎧の役割を担っているのだった。

今度は蹴り。既に焦土と化した地面から、足の部分を仁に向けて勢いよく蹴り上げる。

二、三バックステップ。ちりと仁の前髪の毛先が火の粉に焼かれる音がした。

「……時間を稼いでくれ」

「何をするんだ?」

意思も口もない巨人が、両手を広げ、顔を天に向ける。咆哮しているようで、坂城は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

「避けろ!!」

巨人の頭が振られ、その頭の部分が炎の塊となって、仁目掛けて一直線に飛ぶ。

坂城の言葉に機敏に反応した仁が、辛うじて芝生の上を転がりながらかわす。

クソ! と悪態をつきながら立ち上がる。立ち上がったときには、頭の部分がトカゲの尻尾のように容易く再生されていた。一撃でも当たれば灰になってしまう攻撃を避け続ける。精神力のいる作業。おまけに

核を壊さない限り、今見る限りでは無限に炎は生成される。

「……大精霊魔法を唱える。洪水をヤツにぶつけるんだ。炎の体が消えた瞬間を狙ってくれ!」

「大精霊魔法?」

「説明はあとだ!! ほら、また来るぞ! とにかく時間を稼いでくれ」

今度は頭だけではなく、両手の部分の炎も空中で重なり、一つの大きな炎の砲弾となって、仁に襲い掛かる。またしても地面に這いつくばる仁が、坂城のほうに視線をやると、坂城の体は青く輝いていた。

目を閉じて、自身の神に祈りを捧げるように口を動かしている。

仁は瞬時に坂城が詠唱とやらを始めたのだと気付き、巨人に向かって手を振った。

「こっちだよ~。お兄さんと一緒にあそぼうよ」

人語を理解しないようだが、挑発されたことだけはわかるのか、巨人が猛然と仁に向かって体当たりを繰り出す。闘牛士よろしくそれを横っ飛びでかわした仁が、なおも巨人に向かって手を振る。刀を鞘に納めて、すっかり回避だけに専念していた。

「お早く頼むぜ?」

少し縮れた前髪を軽くいじりながら、仁は集中の中にいる坂城に呟いた。



「水よ、我等に生命と叡智を与えたもう大いなる自然の恵みよ。今一度静かなる怒りを、猛威に込めて解き放て!!」

祝詞の最後は、猛々しく勇ましく。

坂城の全身が一度まばゆいばかりの青い光に包まれたかと思うと……

坂城の前方数メートル先、突如発生した大質量の津波が巨人目掛けて押し寄せる。荒れ狂う水の壁。透明のはずが、向こう側も見渡せない圧倒的水量。

距離を取っていた仁にはかすりもせずに、巨人の体を飲み込んでしまった。

津波のようで、鉄砲水のように鋭く

「今だ!!」

我に帰った坂城の大声よりも早く、津波が引いたその瞬間に合わせて、仁は駆け出していた。

宙にぽかんと間抜けに浮いた小さな球体目掛けて…

カッコつける余裕さえあった。

くるりと一回転体を捻り、抜刀した村雲を思いっきり水平に振るった。

バシュ!!

鋭い音をあたりに残し、球体は真っ二つに分かれ、それぞれが地面に落ちた。固まったマグマのように色を失い黒ずんだまま、うんともすんとも言わなくなった球体を仁が、坂城が見つめた。


「やるじゃんよ!」

先に口を開いたのは仁。少年のように明るい笑顔を坂城に向ける。

「君のおかげだ」

素直に感謝を述べる坂城は、胸に手を当て、先ほどの詠唱の時のように目を瞑った。

まるで、大切なものがそこにあるかのように……

キンっと刀を鞘に納める音すらも心地良いと言わんばかりに、目を開いた坂城は優しく、仁が見たこともないような顔で微笑んでいた。



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