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第一章 第二十四話:街

学園のある丘は、どうも都会の一等地で都市計画に組み込まれず、原型を留めている唯一の場所であると奈々華にも分かった。まるで仏閣のように暗黙の了解で不可侵とされているようだ。丘陵を下る斜面で、休日ということもあってか、自然景観を楽しもうと訪れた数人の観光客とすれ違った。


丘の、ほとんど山と言ってもいいような規模だが、麓に広がる街は中谷区なかやくと言って、かの英雄の名を冠しているかなりの歓楽街。丘の木立に負けまいと、高層ビルや商業ビルが立ち並び、鳥の囀りの変わりに、行き交う人々の喧騒が街を彩っていた。

「どこに行くの?」

はぐれてしまう、というほどの人波ではないが、油断していると仁の背中を見失いそうだ。

「……ううん。そうだな」

今二人がいる中谷中央通というのがメインストリートで、一本の大きな幹だとすると、そこから幾つもの枝が左右に伸びているのが、それぞれ何何通りと名づけられて、店や会社が入ったテナントビルが立ち並ぶ。仁はその内の一本、麓から見ると三番目の左の枝、曲がり角に視線をやった。その通りは、割合多く若者向けのブティックや古着屋が軒を連ねている。どうやら仁は坂城に被服や装飾品の類を贈ろうと考えているようだ。

「無難にネックレスとかかな……」

「……ポケットティッシュとかでいいんじゃない?」

通りには、新規オープンを控えるどこかのパチンコ屋の宣伝にと、ティッシュを配る若者が数人、思い思いに散らばって行き交う人々に渡している。そのアルバイト達に視線をやりながら、いいわけないだろと仁が苦笑いを浮かべた。


結局坂城へのプレゼントは、洋菓子の詰め合わせを選んだ。行列が出来ている菓子店なら、それなりの味だろうと安直に考え、人だかりの出来たケーキ屋に一時間並んで手に入れたものだ。奈々華まで一緒に並ばせてしまったものだから、自分も並ぶと言ってきかなかった、お返しに彼女の買い物にも付き合うことになった。

「……元気だなあ」

ガラス張りの店内は、路地からでも様子が見える。奈々華は女性店員と仲良く服を選んでいる。

「元気ですなあ」

女の子向けの服屋に入るのは気が引けて、外で待っている仁の独り言に答える声。いつの間にか、腰に妖刀があった。

「部屋に置いてきたはずなんだが……」

「我と主は一心同体。主が望めば、我が望めば、いつでも主の傍に馳せ参ずることが出来るのだ」

精霊とは改めて不思議な生き物らしい。

「へえ。簡単に言うと寂しかったわけだ?」

「無用心ゆえ……」

意地の悪い笑みを浮かべた仁に、にべもない返事を返して、村雲は急に低い声を出した。

「我にはどうも、主が妹殿に嫌われているようには見えないのだが」

仁がちらりと村雲に視線を落として、また上げた。

「俺にも見えないね…… あの子が何を考えているのか俺には、もう分からないよ」

恐らくは紛れもない本心。手の平を天に向けて、首をしきりに振る。


なおも村雲は言葉を重ねようとしたが、丁度奈々華がいくつかの袋を抱えて店から出てきた。お待たせ、お帰りと味気ない挨拶を交わす兄妹を、仁の腰から観察するように見守っていた。




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