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終章 第二百三十九話:摘みきれない黒の萌芽

背後に何かの気配を感じて、素早く刀を後ろ向きに振るう。何かを斬った。そのまま振りぬいて横向きに距離を取る。右前を確認すると、ミルフィリアの精霊、小さな竜。青い体色をした俊敏そうなそれが、首から噴水のような血を吹き上げながら倒れ込むところだった。動脈を斬りつけたようだった。その更に後ろにミルフィリアが苦い顔をしているのが見えた。左前には同じように、血溜りを作る老いた体。思考を意識的に止めていることを、頭のどこかは認識していた。彼女等は俺を殺すというのだから、仕方がないんだ、と。それだけを繰り返していないと、憎しみと迷いがどっちつかずで、どうしても体の自由を奪う。振り切った刀ほど俺の心は明瞭ではない。

介抱のように木室を看取って、坂城は立ち上がった。ミルフィリアがその横につく。二人とも能面のように表情がなかった。冷たくて他者を再認識させて、打ちひしがれたような気持ちになった。ダメだ、これ以上考えてはいけない。坂城の肩の上、宙に巨鳥がホバリング。ミルフィリアは双竜。片割れの竜が光る。ミルフィリアも光る。この光は知っている。終わりを告げる光。いいのか? 朗らかに笑ったミルフィリアの顔、拗ねたように片頬を膨らませる歳相応の顔、まるで走馬灯のように俺の頭を巡る。そしてそれを塗りつぶす黒い感情。魔霊合激か。厄介だが、不用意に距離を詰めれば坂城の鳥が迎撃してくる。やらせるか。部下を平気で捨て駒にする戦場の指揮官もかくや、冷たくて吐き気がする。そしてそのなけなしの良心すら塗りつぶす黒い感情。坂城がその禁忌の完了を今か今かと待ちわびるように白い球体を手の平に浮かべた。いいのか? 無垢に笑った坂城の顔、助けてくれと懇願する子供のような泣き顔、愛してくれと飢えた瞳、まるで走馬灯のように俺の頭を巡る。そしてそれを塗りつぶす黒い感情。白の魔法か。魔霊合激を得たミルフィリアと共闘の中で放たれたなら、避けるのは骨が折れそうだ。愛する者を裏切る人格破綻者もかくや、穏やかで胸が悪くなる。そしてそのなけなしの良心すら塗りつぶす黒い感情。

だってコイツ等は、俺の知らない顔をして、俺の知らない声で笑って、俺の知っている人間を平気で殺したんだぞ。ヒメネスの敵討ちなんて言わない。彼が、優しい彼がそれを望むとも思わない。奈々華を守るためだなんて言わない。俺が殺すんだ。憎いから殺すんだ。

腹から何かを叫んでいた。自分の耳でも何を言っているのかわからない。きっとそれに言葉として意味はない。言葉になる前の感情。鱗の生えたミルフィリア。もうアレはミリーじゃない。静かに巨鳥に指示を出す坂城。もうアレは坂城じゃない。左目が痛い。ズキズキする。神経痛のようなそれは間違いなく俺の意思。後ろからは三つの死体が近づいてくる。俺には奪う力しか、壊す力しかない。もういいや。何でもいいや。スイッチが切り替わったみたいに、再び俺の心の中で黒い炎のようなものが燃え盛るイメージが湧き上がった。

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