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終章 第二百二十七話:精神年齢

妙に疲れた顔をして部屋に戻ってきた仁を、カティが迎える。腰の辺りに巻きつくようにしてじゃれつかれる様は父親そのもの。奈々華が遅れて「おかえり」と挨拶。仁は前回の教訓もあって、先に早めの風呂を浴びてきた。しかしそれはそれでまずかった。

「どうしてお風呂なんて入ってきたの?」

いつもどおり振舞ってくれる奈々華を、素直に仁は有り難がれない。

「……気持ちを切り替えるためにね」

「ふうん」

目を合わせない兄に、それでも奈々華は追及はしなかった。ある程度納得できる理由ではあったから。仁とて嘘はついていなかった。

「ぐずぐずしてるお兄ちゃんも結構好きだけどな」

「酷い言われ様」

やっと疲れた顔に笑みが灯る。カティを抱っこしてやり、仁はコタツに足を突っ込む。腹の上の子供まで布団をかけてやると、そこだけ山が出来上がる。「寒い」と言いたいのか、中に潜っていたアイシアが不満そうな声で鳴いた。奈々華は兄の食事を用意するべく甲斐甲斐しく台所へと立った。


「思えばこの部屋も狭いよな。人間二人、鬼一匹、猫二匹、刀一本…… てかすげえカオスだな」

食後温かい茶を三人分。猫舌の仁と子供のカティの分は必要以上にぬるい。配給を終えた奈々華は仁の対面に座って足を突き合わせる。こうして慎ましいスキンシップで日頃は我慢しているのだから、突然現れた子供が膝の上に座っているのが気に食わないのも仕方のないことかもしれない。まだまだ小さな子供だから爆発していないとも言えるが。

「突然どうしたの?」

「いやなんか、色々振り返っちゃってさ」

そう言うと、少し遠い目をする。

「手詰まりってこと?」

「なぜそうなる?」

懐古という名の現実逃避。仁が難しい局面にぶち当たると確実にやること。

「何かあったの?」

「あ、いや。その、まあ…… やることがなくなったんだよ」

近藤の遺体は取り返した。十分かどうかと問われれば、決して力強く頷けないが、近藤親子に対して今仁に出来る限りのことは尽くしたことになる。そもそも死者にしてやれることは少ない。これは奈々華には内緒だが、坂城との関係にも変化、いや決着がついた。とても双方が幸せになれる形ではなかったが、それでも今の仁にはあの答えしか出せないのだから仕方がない。そもそも異世界人にしてやれることは少ない。

「あとは待ちゲーだね。パチンコだよ、パチンコ」

不謹慎ではあるが、言いえて妙なのかもしれない。こちらの意思は一切介入出来ない。残りのフロイラインが攻めてくるのを待つだけ。それがいつになるかはわからない。

「ううん。本当にそうかな。出来ることはないかな」

「……出来ればない状態が良いな」

いつもの不精とは違って、真剣な雰囲気がどことなくあった。


「今日は上で寝てくれないか?」

「ええ?」

嫌がる奈々華。カティが生まれてから、兄妹はその赤子を囲んで寝ている。

「ちょっと考えたいことがある。出来たらカティまで引き取ってくれると嬉しいくらいだ」

まあすぐに寝付くから居ても大丈夫か、と自己完結気味。

「ダメだよ。私にはある程度しか懐かないもん」

それも世話をしているから、という認識程度かもしれない。子供は案外賢く、誰が自分の為に動いてくれるかを正しく理解している。

「それはお前がちょっと冷たくしてるからじゃないか? 坂城のベッドには眠っていたぞ?」

「そんなこと……」

奈々華とて子供を可愛がるくらいの器量は持っている。だけど確かに、ふとしたときに無条件の愛情を注いでいるかと問われると頷ききらない。

「ていうか、お兄ちゃんは大丈夫なの?」

「お前、俺を何歳だと思ってる?」

「十一歳くらいかな」

丁度カティと同じくらいの年恰好。

「んなこと……」

仁とて大の男としてのプライドがないでもない。だけど確かに、ふと辛いことにぶち当たったときに無条件の愛情を注いでくれるこの妹に頼っていないかと問われると頷ききらない。

「意外とそれくらいかもね。精神年齢は」

「ほうらね」と奈々華。逸早く、もう文句を言わせないとばかりに布団にもぐりこむ。

「まあ…… 流石に妹に欲情したりはせんか」

口の中だけで呟いて、仁は諦めの境地もかくやと、カティを連れ立って奈々華が待つ布団に体を滑り込ませた。

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