表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
224/243

終章 第二百二十四話:もう一回

ミルフィリア・A・高坂は部屋の戸口を鋭い目つきで睨んだ。何せ足音が聞こえなかった。突然透明人間が部屋の前で顕在化し、ノックしたかのようだった。電話口の相手に「切ります」と短く伝えて、部屋の向こうの相手に「どうぞ」と短く伝えた。当たりはついていて、やはり数時間前に地下への鍵を渡した男だった。いつもヘラヘラと軽薄な笑みを口の端に乗せている青年は、ここぞという時にとても切れるしキレるので、取り繕ったような笑みを返した。

「誰と話してたんだい?」

「部下ですよ。と言っても私のではなく、遊案のですが」

へえ、とわざと興味なさそうに。世間話の類だった。ミルフィリアとこの青年は鍵を渡した、返した、はいさようならというような味気ない間柄ではなかった。

「俺のアメリカ行きがなくなったことが関係してるのか?」

仁は申し訳なさそうな顔。妙に板につくそれは、彼の処世術として凝り固まっているのだった。

「貴方が気に病むことでもありませんよ」

柔和に笑う。

「遊案に会っていきますか?」

「おいおい」

「ラストチャンスだと思うのですが?」

ミルフィリアは口元は締めず、目だけ力があった。仁は小さく溜息を返した。

「何が気に入りませんか? 私より幾らか女らしい体をしているでしょう? 気立てもいい。私なんかより男を立てる術が生まれもってあります」

「……いちいち比較するのは、俺がもし奈々華のお守りがなかったらお前を選ぶって言って欲しいのか?」

「違いますか?」

「そうだよ。多分、どちらかというとお前の方に惚れてる」

「妹さんとは結婚できませんよ?」

「そういう対象ではないよ、流石に。勿論。でも…… 今はダメだよ」

「いつならいいんですか?」

「それは奈々華に聞いてくれ」

「……最低ですね」

矢継ぎ早に飛び交う質疑応答。仁は休憩するように前髪を深く長く、掻きあげた。

「会っていってください」

「俺にはお前がわからんよ。どうして妹と変わらないような存在をわざわざ傷つけるような相手と鉢合わせる? どうしてお前と俺がくっついても良しとする?」

「一つ目は、貴方をあの子が好いたから。簡単なことです。チキンの貴方と違って、欲しいものはどうやっても手に入れたがる子です」

「……」

「二つ目は、あの子の特殊性。私と貴方が結ばれるということは、あの子と結ばれるということでもあるからです。私と貴方が絡み合っているところに、あの子が裸で加われば、貴方はあの子を抱くでしょう?」

「生々しいな」

苦笑い。

「悲しきは男の性かな」

「一番でなくても良いんです。あの子にとって家族であり、仲間ですらあれば」

「随分と都合のいい女なんだな」

「そう思うなら遊びでもいいから抱いてやればいいでしょう?」

ミルフィリアの足が動く。二人のプライベートルームの扉が開かれる。ミルフィリアの笑みは、娼婦が誘うような妖しさがある。仁は吸い込まれるように部屋へと足を踏み入れる。しかしその目には強い光があって、彼女は悟る。悟って尚、切れない想いがあって、口を開いた。

「最後のチャンスですよ。本当に」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ