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第一章 第二十一話:叱られし者

学園長室を後にした仁は、またもや廊下で会いたくない人物に出会った。

「おっす。何か怒られたみたいね」

「……またお前か」

行方がにやにやと気色の悪い笑みを浮かべながら、仁の方に歩み寄ってくる。話せ、話せと目で訴えかけている。相変わらず肌の原色を留めていない紫のアイシャドウに仁はうんざりした視線を返した。

「昨日のサボリと今日の無断欠席をな……」

幾つか情報を撒かないと、行方はテコでも動かないのを昨日一日で十分に理解させられた仁は存外あっさり折れた。廊下に敷かれた高級な絨毯の模様に視線を落としながら吐き捨てるように喋った。

「あちゃ~。アンタそういうことするタイプ?」

声ほどに行方の表情は呑気ではなかった。

「何だ、お前まで俺に説教か?」

「まあねえ。また色々聞こうと思ったけど、やめた。何でそういうことしたの?」

「昨日夜更かししてね」

「それは今日のことでしょう? じゃあ昨日は?」

ずいと更に仁に詰め寄る。気圧されて仁が一歩、二歩たたらを踏むように後ずさった。

「……」

「あたしなりに色々調べさせてもらったんだよねえ、アンタのこと。クラスで浮いてるそうじゃん? まさか僕友達が出来ないの~。辛いから逃げ出したの~なんて言うんじゃないでしょうね?」

「……」

「ガキ」

鼻で笑う行方に、仁は一瞬視界が点滅するような怒りを覚えた。

「俺よりガキに言われたくねんだよ」

「アンタさあ…… どういう経緯があったか知らないけど、納得してここの学生になったんでしょ? そのくせ、ちょっと嫌なことがあったら逃げ出すんだ? ガキ以外の何者でもないわよ!」

仁の舌打ちが誰もいない廊下に響く。だが行方は仁の反論を待ってはくれない。

「いい? この学園はレベルの高い魔術師が揃う名門なの。皆魔術の実力を日々磨くことだけを考えてる。毎年の進級試験に落ちて、退学していく子もいるの。つまり…… アンタはやっかまれてるのよ」

「だから何だよ?」

「魔術の実力が伴わないヤツに向けられる軽蔑に較べれば、何てことはないってことよ」

行方が手の平を天に向ける。理解に苦しむとでも言いたげな態度。

「……そんなの聞いてねえよ。ただ学生生活やってりゃいいんだと思って……」

「だからガキって言ってんの! 皆より優位なんだから、男ならガチャガチャ言ってないでドーンと構えるくらいの度量を見せたらどうなの?」

「さっきから言いたいこと言いやがって……」

「アンタの行動は学園全体の士気に関わるのよ。第一アンタ自分から歩み寄ろうとした? 聞いてなかった? 属性が皆と違うから? 甘えてんじゃないわよ!」

仁の反論が追いつかないほどに、行方はまるで原稿でも読むようにすらすらと罵倒の言葉を容赦なく浴びせる。

「ガキ。ほんとガキ! どうせ自分は古代竜を倒したから、ちょっと我が侭やっても大丈夫だとか思ってんでしょ?」

いーっと歯を見せていやいやをする。

「……」

すっかりやり込められた仁を見て、行方は下唇を突き出して、やれやれと頭を振る。

「まあ、アンタには感謝してないこともないからこういうこと言ってんのよ。優しいところもあるしね。本当に救いようのないヤツだったら無視するし」

「……」

「はあ、あたしってばお節介だな」

「ちょっと考えてみるよ。お前が俺のこと思って言ってくれてんのは分かったし。その…… ありがとう」

いくらか頭も冷え、先程の坂城に続いて行方にまで忠告を受けて、仁も思うところがあった。行方に向かって小さく頭を下げる。

「……っ! けなされて礼言うとか、マゾか!」

行方は気恥ずかしくなったのか、厚いファンデーションの上からでも分かるほどに顔を上気させて、階段の方に走って行った。



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