第五章 第百八十二話:カラ元気と精霊の園
色とりどり、という表現が正しいのかはわからないが、黒を除いた全ての属性の精霊が居た。勿論飼育の面からも安全面からも下級精霊がほとんど。飼育員はその精霊達のパートナー、即ち魔術師ということになる。開園当初は主に魔術師以外の一般人をターゲットとして想定していたらしいが、最近は精霊との接し方の実地として魔術師も参考までに訪れるケースも多いらしい。
ここ「国立蓮の台精霊園」は日本有数の広さと、飼育している精霊の種類が豊富なことで知られている。造り自体は仁や奈々華の知る動物園とほとんど変わらない。箱庭のように手入れされた環境で愛くるしい姿を振りまく小動物然とした精霊。特殊な環境を整備する必要のある精霊、比較的体が大きな精霊などには屋内の個別ブースが設けられている。客の入りはかなり良いらしく、仁は表情には出さないが椅子に腰掛けたまま、ぼんやりと園内を見回している。二人は園内に唯一ある軽食を出す店で小休止していた。店、と言っても屋台のようなもので、席は全て白いプラスティックのテーブルと椅子。野ざらし状態だった。
「可愛かったね」
仁の対面に腰掛ける彼の妹は、この精霊園に着いて以来はしゃぎっぱなしだった。
「ラッキーラビット?」
チラリと右腕のミサンガを見やってから。ウサギの体にネズミのような毛のない長い尾を垂らした様は、本音を言うと仁はあまり可愛いとは思わなかった。
「可愛かったよね」
繰り返す。無理に作った笑顔は、仁の心を痛める。ああ、と短く返してから、再び通りに目を向ける。かすかに憂いを帯びた横顔に、奈々華は少しだけ見惚れる。
「……君は強いな」
顔を合わせないまま、仁がぼそりと吐いた。はしゃぎまわる子供、笑い合う恋人達。通りの喧騒に掻き消されそうだった。
「……」
奈々華は仁の心境をほぼ正しく理解していた。彼はおそらく自分を不甲斐ないと思っている。妹がせっかく先の諍いを忘れたように、明るく振舞っているのに、自分はいつもどおり接しきれないでいる。負い目や気遣いがどうしてもそれを遮っている。
だけど奈々華だってふっ切れたわけでもなく、まして仁を許しきったわけでもなく、自分を許しきったわけでもなく…… つられるようにして、脳裏に焼きついた悲しい情景が浮かび上がる。兄の唇が、坂城の頬に触れて……
「ねえ、お兄ちゃん」
快活な声は出なかった。仁もまた窺うようにして奈々華の顔を見た。冴えない顔、奈々華が見たくない顔、奈々華が強いている顔。奈々華は思わずテーブルに目を落とす。発泡スチロールの受け皿は肌を見せ、二人が買った焼きソバもホットドッグもなくなっていた。視線を辿った仁がそれらを引っつかんで立ち上がる。捨ててくるとだけ残し、奈々華の返事も待たずに歩き出した。次第に遠くなる仁の背中。反対側から店に歩いてくるカップルが楽しそうに笑い合っていた。
「私は強くないよ……」