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第五章 第百六十四話:鬼のこと

仁が帰宅すると、やはり奈々華は既に起床していた。柔らかい笑顔で迎える途中、仁の胸にあるものに目を止めて、表情を固めた。

「どうしたの、それ? どこから盗んできたの?」

「鬼の卵だよ。盗んできたわけじゃない。回収班の目を誤魔化して持って帰ってきただけだ」

奈々華は事情が飲み込めない。奇妙な数式に出会ったように、顔を難しくしている。

「それを盗んだって言うんじゃないの? 大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。仕事は辞めてきたから」

こういうことはサラリと言うのが肝要だと、仁は常日頃思っている。

「……え?」

「だから、仕事は辞めたからもう大丈夫だよ。餞別に頂いてきたのさ」

「大丈夫じゃないじゃない! ばれたらクビ……」

「そういうことだ。引責辞任をさせられる前に、先手を打って辞めるのがプロだ」

仁は奈々華に真相を話すつもりはないようだった。奈々華は何を言っていいやら、ただ憐憫にも近い感情を目に宿して兄を見つめている。

「さあ。腹が減ってるんだ。オムライスにでもしてくれ」

「落ち着いて」

冷静な声が返ってきた。


「それにしても、鬼が卵で孵るなんて知らなかったな」

奈々華と仁は、朝食を終え、テーブルの上にその大きな卵を挟んで話している。仁は緩慢な動作で村雲と静を振り返る。相変わらず壁に立てかけられたままだ。

「……我等は母も父もいない」

村雲の声には少しの寂寞があった。

「どういうこと?」

奈々華も最近はこの刀たちと違和感なく接することが出来るようになっていた。慣れって怖いね、といつか苦笑していた。

「我等は生前の記憶がない。恐らくは最悪の悪鬼ではあったのだろうが、何かに懲罰されて刀に宿ることを余儀なくされております」

「それを死って捉えるのか?」

「鬼の姿でいられるのは、ほんの数刻。死と呼ばずして何と?」

気位の高さが窺い知れる。本来なら誰の支配に下ることも厭い、己が忌々しき身と、それを強いた世界への憎悪を糧に生きるのが刀鬼。仁だからこそ、彼らは従っているのだ。

「……話しが逸れてるっすよ。あいつらは下等な鬼。まあ小鬼しょうきって我々は蔑称をつけているんすが、女の鬼は、卵を産み、男の鬼がそれを孵化させ、育てる」

静が珍しく口を開いた。

「あの大きさで小鬼かよ」

体の大きさの話しをしているのではないことはわかっていたが、どうにも軽口を挟まずにはいられなかった。

「まあ…… 人の手で壊すことは容易ではありますまい。何かの縁、孵して育ててみては?」

村雲が締めくくった。

「どうやって孵すんだ?」

仁は確かに因縁めいたものを感じていた。恐らくはフロイラインの策略で仁の上に卵が落ちてきたのだろう。あの時周囲に妖しい気配は感じられなかったが、もしかして木室か、平内が居たのかも知れない。そして成り行きとは言え、卵を鬼から奪い取る形となった。責任も感じないでもない。仁はこの卵を育てることに決めていた。

「なに…… 鳥と変わりませぬ。暖めればよろしい」

幻創痛が終わり、ようやく一人の寝床が帰ってきた矢先、新たな同衾相手が見つかった。


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