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第一章 第十六話:行方

「ちょっといい?」

仁が振り向くと、髪を茶色に染めた化粧の濃い少女が腕を組んで立っていた。周囲には他に誰もいない。自分を人差し指で指して、俺? と目線を送る。仁は学園長室から出て、廊下を進んでいるところだった。

「そう、アンタ。見てたわよ。強いのね?」

挑戦的に歪められた口元が、小生意気な印象を与える。

「それはどうも……」

「丁度暇してたのよ。授業もなくなったし」

古代竜の襲撃によって、授業はなくなった。あったとしても、真面目に授業に出そうな風貌ではないが。

「あたしは、行方夕菜なめかたゆうな

「行くの行に、方向の方かな?」

「そうね。意外に博識なのね」

さもつまらなそさそうに、行方と名乗った少女が自分の手先を見つめながら答える。

「茨城かどっかにそういう地名があったろ? まあいい。用件は?」

行方はその質問には答えずに、自分のスカートのポケットから紙を取り出した。一丁前に名刺の風だった。新聞部、部長。二年四組 行方夕菜とある。

「新聞部、部長……」

「そう。聞きたいことがあるのよねえ」

そう言って、また気に入らない笑みを浮かべる。聞きたいことの予想は大体、つく。

仁が何故一般生徒であるにも関わらず、古代竜との闘いに駆り出されたのか。

何故斃しえたのか。主属性黒という非常に珍しい魔術師。

「ずばり、アンタ歳偽ってるでしょ!!」

「それかよ!」

完全に予想外の指摘に、仁は呆れてしまっていた。

「他のは聞いても答えてくれそうにないしね」

「まあ、口止めされてっからな」

「へえ、誰に?」

しばらく考えた後、仁は後方の学園長室を見やった。

「成るほど。歳のことも、学園長に?」

行方は再びポケットに手を突っ込むと、メモ帳のようなものを引っ張り出して、何かを書き込み始めた。

しかし、仁は行方の前に手の平を突き出して、拒絶の意思を表しただけだった。

「残念だが、これ以上は俺が怒られる」

これでもサービスしてやったほうだ、と行方に背を向けると、そのまま階段を目指して歩き出した。

行方は慌てて、その背を追っかける。

「待ってよ! 分かったわよ。もうアンタが怒られそうなことは聞かないから。お話ししよう?」

「……俺に何のメリットがある?」

「うわ、冷た! こんな可愛い子が声かけてんのに。ゲイ?」

「可愛い?」

「そこを疑問系で返してくるか……」

「……」

「ねえ、古代竜ってやっぱり怖かった?」

「……」

「やっつけた時はどうだった? 楽勝って感じ?」

「……」

黙って階段を下りる仁と、それを追いかけながら、雨霰と質問を投げかける行方。

「ねえ、無視しないでよ」

「……」

「妹さんと住んでんだってね。よ! シスコン!」

「……」

仁たちの居住スペースである、二階へと辿り着いた。廊下の壁にもたれかかり、仁はタバコを取り出した。寸分の躊躇いもなく、未成年しかいない学園の廊下で火を点ける。

「ちょっと!マズいっしょ!」

「……うるせえな。俺は吸ってもいいんだよ。部屋の中じゃ吸い辛いんだから、黙って俺にニコチンを吸わせろ」

「吸ってもいいって…… アンタやっぱり成人してんの?」

「そうだよ。こんだけ喋ってやったんだから、どっか行け」

その場に蹲るようにして座ると、しっしと手の平を行方に振った。行方の粘り勝ちだった。

「ううん。まあ今日のところは引き上げてやるわ。初っ端から嫌われても今後に影響するしね」

じゃあね、と歳相応に屈託のない笑みを残して、行方は廊下の中頃、自分の部屋に消えていった。

「アイツ…… あれで嫌われてないつもりか?」

その背中を見つめながら、仁は長くなったタバコの灰を廊下に落とした。





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