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第四章 第百五十八話:エンドライン

「何すか? 改まって」

奈々華は浴場に行っていた。いつ何時発作が起こるかわからない状況ではあったが、彼女も女の子だ。後ろ髪を引かれるような思いで部屋を後にした。

「昼間の件だよ。静は中谷の精霊だったんだろう?」

「そうっすけど。それが?」

「……広畠さんといい、このショッキングブルーといい」

皆まで言わずとも、当然分かっているであろうことを、皆まで言わせる。憤りをあらわにする仁を見て満足したのか、やがて静は「冗談すよ」と折れる。

「聞いたでしょう? ストレスも一要因だって」

「ああ」

ある程度、仁にも察しがついていたが、確認はしたい。

「あの人は罪を一人で背負って生きていましたからねえ」

仁の予想通りだった。彼に心休まるときは一瞬たりとも訪れなかったというわけだ。

「それで正気を保っていたのか?」

「さあ」

素っ気ない返事。仁は短くなったタバコを灰皿に押し付ける。グリグリと必要以上に擦った。

「さあってなあ」

「わからないんすよ。あの人は誰にも心を開きませんでしたから。狂っているようにも見えたし、正気のようにも見えた。冷静な目で幼子の首も刎ねるし、狂ったようにペットの死に涙したりするような男でしたからねえ」

「……」

「そもそもそんな境界はあやふやなんじゃないすか? どっから正気でどっから狂気か旦那は峻別できるんすか?」

その通りだった。出来やしない。だが反論したい気持ちにもなる。

「狂えって言っといて、それはないんじゃないか?」

「ははは。そうっすね。でもあっしは適当なことをよく言います。旦那の精霊っすからねえ」

「どういう意味だ?」

少し凄んでみても、クスクスと含み笑い。表情もわからない上に、飄々とした性格は掴みどころがない。

「それより…… そんなこと聞いてどうするんすか? 中谷さんみたいに生きるんですか? それともあの幻創痛と同じようなまやかしに頼って立ち直るんすか?」

言いにくいことも無遠慮に言う。世渡りとは無縁の孤高の精霊に、人の感情の機微を説いても詮無いことはわかっているので、仁はぐっと堪える。

「俺に中谷のような生き方は無理だ。お前じゃないけど狂っちまう。それと…… あの子はまやかしじゃないさ。家族だ」

それだけは譲れない、と声に力がこもる。それでも日和った様子もなく、静は言葉を重ねる。

「じゃあその家族のためなら、これからも血にまみれることを厭わないんすよね。これから先もっともっと過酷な試練が待っていると思いますよ? それでもその手にあの子を抱いて進むんすか?」

「……」

「狂うなと言ったあの少年の言葉はどうなるんすか? どう受け取っているんすか? 罪を重ねるなって意味かもしれませんよ?」

「……言葉通りさ。狂わないように、修羅の道に墜ちないように、奈々華を守ることだけを考えて生きるんだ」

クスクスと笑いは一層強くなる。

「もう墜ちてるでしょう。復讐に駆られて緑の少女を殺したじゃないすか。もう狂っているかもしれませんよ。境界はあやふやですからねえ」

「……ならそれでいいさ。祐君の定義じゃ、きっと近藤さんのようになることが狂いなんだ。だったら俺には当てはまらない。奈々華と共に生きるから」

「言葉遊びですねえ。まあいいですけど…… そんな決意表明をするためにわざわざ話しかけたんすか?」

今度は仁がクスクスと笑う。

「そうだよ」

「……」

静が何を考えているのかはわからない。どうでもよかった。元々これは会話ではなかった。一方的な、そう、決意表明だ。

「まあ、全てが終わったとき、果たして旦那に後悔がないか、じっくり拝見させていただきますよ」

それきり静は、いつものインテリアに戻った。


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