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第四章 第百四十三話:強襲

料理の皿も半分以上、その白が見える頃、祐は突然顔を上げる。それまでも真剣な表情をしていたが、それとはまた違う。明らかに剣呑な雰囲気を纏っている。

「……ヤツだ」

「ヤツ?」

鸚鵡返しの仁も、その表情を見て事態の変化を知る。

「緑の幹部。近くにいる!」

叫んだと同時に、仁の体が風に包まれる。ふわりと浮き上がったかと思うと、そのまま目の回るような勢いで店内から弾き出される。直後、二人が座っていたテーブルに竜巻のような膨大な風の塊が押し寄せ、包み込み、粉々に破壊する。路上に放り出された仁は、元はテーブルだった木片が、天に召されるように巻き上げられていくのを見ていた。周囲は阿鼻叫喚の図。魔術による攻撃から一般人は身を守る術がない。我先にと店外へ飛び出していく客や従業員に、跪く仁は見えていない。誰かの膝が仁の肩にぶつかる。そこで仁ははたと我に帰る。

「祐君!」

周囲を見回す。恰幅のいい老婦人、壮年のシェフ、ポニーテールのウェイトレス。目的の人物の姿が見えない。まさか今の攻撃に巻き込まれたのでは、と嫌な想像が巡る。

「こっちだよ」

声は背後。仁が振り返ると、涼しい顔でたたずむ祐。攻撃の直前に巻き起こった風は、祐のもの。二人を安全地帯へと逃がしていたのだ。仁はじわじわと胸を焚きつけるような焦りから解放され、ほっと頬を緩める。

「敵は?」

「……待って」

祐が目を閉じる。人の気配を探ることが出来るという緑の魔術師。店内の人間の避難は滞りなく終了していて、辺りには既に静けさが戻っていた。祐の世界。張り詰めた空気に仁の体は総毛立つ。

「いた。あっち!」

祐は指差すより早く顔を左に向ける。道なりに進んだ先に観覧車があるはずだ。

「かなり離れてる。化け物か。こんなに正確に……」

祐もまた才能溢れる魔術師だ。普通はいくら近くに来たとしても、フロイラインの幹部ともなると、並みの魔術師では気配など探れない。しかし現時点での彼我の実力差をすぐさま感じ取っていた。それすらもまた才能ではあるのだが。

「観覧車のほうか」

ぐっと顎を引いた仁は既に臨戦態勢。その横顔に視線が注がれているのを感じて、仁はまた優しい顔になった。

「大丈夫。君はここにいて。あちらさんが用なのは俺だろうからね」

祐の不安をいち早く気取っていた。いや、そもそも彼を同伴して戦地に赴くつもりはなかった。しかし祐は静かに首を横に振る。

「僕も行く。第一相手が移動したらアンタになす術はない。そしたらまた奇襲だ」

正論。

「でも……」

彼を危険な目に遭わせるわけにはいかない。仁の顔に焦りが浮かぶ。

「言ったろ? 何でも一人でやろうとするな。人には役割ってものもあるんだ」

目に強い信念がある。仁には本当の意味で理解は出来ていない。誰かに守られるだけの切なさ。苦しみを、痛みを分かち合えない悲しさ。それは彼が強すぎるための弱さ。それでも理解しようとしている。近藤が辿れなかった、祐が辿りたかった道。

「ダメだと言われてもついて行くよ?」

「……わかった。道案内を頼む」

二人の急ごしらえのタッグは、風に包まれ、そして空の向こうへと消えていった。

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