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第四章 第百四十一話:家族

「父さんがああなってしまったのは、きっと僕にも原因があるんだ」

祐の独白に、仁は否定も肯定も紡げなかった。知らないから。近藤の葛藤も、祐の葛藤も、全ては察することしか出来ない。

「誰かが支えてあげなければいけなかったんだ」

仁に奈々華がいるように、近藤には祐がいるべきだった。それが出来なかったのか。

「僕は母さんがいなくなった原因を責めた」

近藤の妻がいなくなって、辛いのは彼だけではないのだ。まだ幼い少年に母親が去った原因を責めるなというほうが無理だろう。祐が組んだ手は白くなるほどに、力がこめられていた。

「僕は子供だった。父さんの苦悩も知らないで…… 事実を知ったときにはもう父さんは」

誰のせいでもないよ。そんな言葉さえ、安易にかけることは出来なかった。彼の大人びた言動は、その後悔の反動なのかもしれない。そう思うと、どうしようもなく悲しかった。

「自棄的にギャンブルに手を染めるようになった。そうだな…… アンタに似てるかも知れない」

急に俗的な話しになって、思わず仁が苦笑する。

「俺のはそういうもんでもない。趣味さ」

祐もくすりと笑ってくれた。それがたまらなく仁には嬉しかった。

「……人を殺すようになった」

嬉しい気持ちは霧散し、きりきりと胃が痛む思いに変わる。

「フロイラインは子供が多いんだって。だから……」

まるで自分が責められたように、口をついて弁護の言葉が出る。祐は何か言いかけて、口を閉じる。頼んでいた料理がようやくやって来た。盆をテーブルに乗せたウェイトレスが足早に去っていく。祐はボンゴレにフォークを刺してグルグル回すが、口に入れる気はないようだった。仁も遠慮がちに珈琲をチビチビ口に入れるだけ。

「知ってるよ。だけどそれは言い訳にしかならないよ……」

人を殺した事実は、どんなに言い訳を連ねても変わりはしないのだ。そんなことを仁は重々承知している。しているのに、言い訳が口をついて出たのは……

「アンタが白の幹部を殺したのと似てる」

自己弁護か。仁は自嘲の念が絶えない。ここに来てまだ自分の行動を正当化しようとしているのか。皆の手を汚させないために。自分のためだろう?

「アンタが何を思ってああいうことをしたのかは知らない。だけど僕は…… どうしようもなく父さんを思い出した。こういう風に一人で抱え込んでカッコつけてたんだなって」

「……近藤さんを真似したからね」

「そうなんだ? でもそれがカッコイイなんて思ったら、大間違いだよ?」

「……」

「アンタにはあんなに親身になってくれる妹さんがいる。僕が今日来たのもあの人の熱意にほだされたからだ…… 何のための家族なんだ?」

それは仁に対してか。亡き父にか。

「何でも一人で抱え込むのは馬鹿のすることだ」

父さんは馬鹿だった、と付け足す。仁は鉛を飲み込んだ気分だった。奈々華が抱きしめてくれたのは、そんな兄が見ていられないからだったんだ。そんなことにも気付かない自分は彼の言うとおり、本当に馬鹿なんだろう、と。

「……」

「ねえ、父さんは幸せだったかなあ?」

白い歯がのぞき、薄い唇をきつく噛む。それだけが彼の気がかりなのだろう。

「……」

そしてその答えは、もういない本人にしかわからない。それでも願う。彼が彼の妻と出会い、祐を授かり、満ち足りた日々を送ったのは、決してその後に起こる悲劇の伏線ではなかったはずだ。

幸せだったさ。最後はとても悲しいものだったけれど、彼が生きたそれまでは…… 君や君のお母さんと過ごした日々は嘘じゃない。そうであってくれ。そうだと言ってくれ、近藤さん。



いくらかあって、祐がやがて落ち着きを取り戻す。

「父さんは誰かに止めて欲しかったんだと思う。だからこれでよかったんだと思う…… 最近はそう思うんだ」

誰かの大切な人を奪う修羅へと変わり果てた自分を、ミイラ取りのミイラとなった自分を。その言葉が嘘ではないことを示すように、一口フォークを口に入れた。小さく咀嚼してから、こくんと飲み込む。

「少なくとも父さんはアンタを恨んで逝かなかっただろう?」

言質を取るような言い方は、実は自身に対して言い聞かせているのかもしれない。

「……ああ」

だから仁も力強く肯定した。誰かの命を奪うということは、自分の命も奪われても文句は言えない。見苦しく救いを求めた仁でさえ、今となってはその覚悟がある。

「だから…… 僕もアンタを赦すんだ」

また同じような声音。きっと感情はまだ、仁を赦しきってはいないのだろう。だから理性を働かせている。それでも前には進んでいる。帰ってくる近藤を共に弔い、線香を上げられるようになれたら…… 

サンドイッチをつまんだ仁の手はぐっしょりと汗で濡れていた。

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