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第四章 第百三十七話:ドS少女

本来、特定の生徒と別段に懇意にするのは、教育者としてよろしくない。そんなことも忘れて、二つ返事で了承した坂城ではあったが、学園の責任者としての自覚がないわけではない。

「あくまで監督です。テストを控えたこの時期に遊び呆けようなど、直接会ってガツンと言ってやらなければいけませんしね」

「語尾が踊ってるわよ? 本当にわかりやすい性格ねえ」

あきれたミルフィリアもまた、仁に誘われて断らなかった口。結局、仁と奈々華の城山兄妹、ミルフィリアと坂城、それに祐を加えた五人で遊園地に行くことになった。坂城もミルフィリアも、祐が加わった意味を十分に理解しているのだが、どうしようもなく坂城は心を躍らせている。

「そんなことはありません。ただの監督ですから」

「へえ。じゃあもし二、三とかで別れて、二人きりになっても小言を言い続けて鬱陶しがられるの?」

「……」

ぐうの音も出ないといった顔。ミルフィリアならそうするのだろうが、坂城はそこまで気が強くはない。彼のためを思えばそうするべきなのかもしれなくても。

「本当に好きなのね?」

「……はい」

「どういうところが?」

にやりと嫌らしい顔で尋ねるミルフィリアの冬休みの退屈しのぎは、このように従姉妹をからかうことだった。

「それは…… その。何度となく命を助けてもらったし、父と母が遺してくれたこの学園を命懸けで守ってくれるし、その……」

言いよどむ。宿題を忘れた生徒のように真っ赤になっているのだから、上手く頭も舌も回らないのは当然だ。冬の太陽を取り込んだ室内はただでさえ少し暖かいような気がする。

「それだけでもないのでしょう?」

「……優しい」

笑みを濃くするミルフィリア。ちょっと大丈夫かと心配になるほどに顔を赤くする坂城。

「私は何も見返りを用意できないのに、不平一つ言わず守ってくれる」

「ふむふむ」

「アイツは馬鹿だし、へたれのダメ人間です。だけど……」

絵の具を塗ったように赤い顔で、思いのたけを吐きつらねる。いつしかミルフィリアも好奇よりも愛情を持ってそれを見ている。

「私は彼にしてもらった分を返したいんです。彼が望むことを何でもしてあげたい。それだけのことをしてもらっているんです」

「そうね」

笑みの質がとても優しいものになる。小さな子供が正しいことをしようとしているのを見守るよう。

「ううん…… 私がそう望んでるんです。彼と共に歩む未来を……」

坂城はそう締めくくり、目を閉じて、胸の中にある大きな想いを大切に、大切に噛みしめていた。



「暇だよお」

ヒメネスはぐったりと長机の上に体を放り出した。冷たい木の表面にピタリと頬をつけ、上目遣いに仁をみやる。ストーブを稼動させている職場は、石油の匂いが充満し、むせかえるような熱を帯びていた。

仁が一人前と認定されて以来、広畠は時折ヒメネスと組ませた。彼も現場を預かる人間なのだから、それなりに忙しいだろうし、常に仁についているわけにもいかない。パイプ椅子をロッキングチェアーのようにゆらゆらさせていた仁は、苦笑を交えてその視線を見返す。十六だという相棒は、歳の割りに世間ずれしていなくて、純粋で真っ直ぐだった。仕事中といえどダレてしまうくらいに。

「またトランプでもやる?」

「やだ」

即答。トランプをはじめ、色々なボードゲームをやったが、ほとんどが仁の圧勝に終わった。数々の敗戦を思い出したのか、ヒメネスの眉が寄る。さすがに泣き出したりはしないが、目に見えて不機嫌になるので、仁としてもこの返事は助かった。変なところで鋭くて、手を抜いてもすぐにばれてしまい、余計に不機嫌になるので始末に終えない。

「スクランブルってのは中々ないんだね?」

頻繁にあっても困るのだが。ヒメネスは頬を机につけたまま頷く。正確には擦りつけたわけで、接地面がギュッと鳴った。

「……」

「……」

しばしの沈黙。やがて仁が徐に口を開いた。

「ねえ…… ヒメネスがもし、もしもだよ? 誰かを傷つけるようなことをしてしまったら、ヒメネスはどうする?」

「謝る」

間髪入れずに返す。突然の話題転換にも動じないのは、それが世界の真理だと、人と人が繋がっていられる唯一の手段だと疑わないからだ。

「謝っても許してくれなかったら?」

「許してくれるまで謝る」

「……」

むくりと顔を上げたヒメネスは小首を傾げる。当たり前のことを聞く目の前の青年が不思議でならないのだ。単純なことであり、絶対のことであり、困難なことである。

「そうだよね」

「うん! そうだよ」

そして屈託なく笑う。仁もつられて優しく笑う。

「……そうだよな?」

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