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第四章 第百三十四話:向きあう仁

仁の回想を聞き終えたミルフィリアは、すました顔をしていた。優雅にカップの中身を啜る少女と、示唆を待つ青年は、まさしく教師と生徒。どちらが年上かわからない。

「祐君が正しいのでしょうね」

まずは善悪をはっきりさせた。そこについては仁も納得している。

「貴方には言われたくないでしょう。学園一のはぶられ者ですし」

不名誉な称号ではあるが、事実。仁に対人関係を円滑にするための何かしらのアドバイスをされたところで、何らの説得力も感じない。

「……無理に近藤の代わりをしようとはせずに、友達のように付き合えばいいんじゃないでしょうか?」

仁には確かに祐に対してそういうきらいがある。「導け」という言葉は、愚かな仁には抽象的過ぎた。

「それすらも困難なんだが……」

「それは貴方の思い過ごしではないですか? 彼も少し貴方の評価を改めてきていると思いますよ?」

「そうだろうか」

満身創痍で学園を、大切な者達を守る姿に、何ら心動かされないはずがない。それが父親の命を奪った男でも。

「現に助けたことに関しては礼を言っていたのでしょう? そういう関係を続けていけばいいのです」

「そうだろうか」

「ええ、きっと」

彼もまた迷いの中にいるのかもしれない。自分の父を殺めた人間が、止むに止まれぬ事情があったと知っている。そして自分をどうにか気にかけようとしている。感情を正しく汲めない人間ならば、突っぱねるだけだ。もしかしたらもう仇討ちに襲い掛かってきて、行くところまで行っているかもしれない。祐はそうではない。だからこそ、自分を助けてくれたことに感謝し、裏の意図を察して拒絶した。あの時、仁の頭には純粋な厚意とその裏の意図が混在した。



仁はまた黙ってしまったが、ミルフィリアは小言を言い切ったわけではない。ただその質は変わった。

「仁さん、腕にしているソレは何ですか?」

突拍子もない話題の転換に、仁は呆けた顔をした。しばらくあって、右手のミサンガに目をやった。

「奈々華がくれた」

「……少し変態だとは思っていましたが」

「そうじゃねえ! これは確かにそういうもんだけど、俺はお守りだと思ってしているんだ」

「なるほど…… 重度の変態だったと」

「何でそうなる!」

なおも反駁を続けようとした仁であったが、相手の顔を見て言葉に詰まった。ミルフィリアは眉を曲げて、悲しんでいるようにも見えた。彼女の沈んだ顔を見るのは初めてではないが、いつ見ても気分のいいものではない。

「奈々華が徹夜して編んでくれたんだ。あの子も自分があまり俺の役に立てないのを気にしている。多分無事な自分と俺が繋がっていることで、俺の無事も手繰り寄せれると考えたんだと思う」

全然違う。

「……まあそういうことなら仕方ないですね」

ミルフィリアの顔がいつものクールなものに戻る。

「ていうか、俺が何をしていようと関係ないだろう? もしかして妬いてる?」

「水よ。大いなる水よ……」

「わ、待って! 俺が調子に乗りました。確かに乗りました。すいませんでした」

発光していたミルフィリアが常態に戻る。その間には、顔に差していたほのかな朱も消えていた。

「わかればいいのです……」

仕切りなおすように咳払いを一つ。

「奈々華さんと同じように扱ってみてはどうですか?」

「え?」

時々、ミルフィリアは話をコロコロ変える。脈略のない話し方は、彼女に限っては頭の回転が早いせいかもしれない。

「祐君です。純粋な思いやりを持って接していれば、きっと上手くいきます」

隔絶してなお、仁に愛情を抱いていた奈々華とは勝手が違う。けれども方向として間違っているとはとても思えない。ミルフィリアの言いたいことはそういうことだった。

「そうだね…… あの子は賢い。すぐには無理でも、例え許せないことがあっても」

仁は思った。仮に奈々華を奪われた自分が、彼のように居られるだろうか。無理だ。冷たいのとは違う。だけど理知を以って激情を抑え、バイアスも憎悪も片時置いて、自分の目で相手を判断する。恐らく仁がもっと非道な人間なら容赦はしなかったろう。

「こっちが導いて欲しいくらいだよ」

小さく呟いた仁は、自分に渇を入れるように、カップの中身を豪快に呷った。そしてミルフィリアに礼を言うと、席を立った。

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