第四章 第百三十二話:青の猛攻
「それで? 用って何ですか?」
「愛の告白」
坂城なら、仁の思惑通りに狼狽してくれたのだろうが、その姉は一味違う。
「それで? 用って何ですか?」
何事もなかったかのように再度。学園の一階にある職員室。用事があると一報入れた仁は、ミルフィリアにそこに来るよう指示された。今二人が居るのは、来客用のスペース。ガラスの洒落たデザインのテーブルを挟み込むようにして黒いソファーが向かい合っている。そこに対面同士に座った青年と少女は、生徒と教師。スモークの貼ったガラスで間仕切りされてはいるが、職員室の人間が会話を聞こうとすればいくらでも出来よう。そして新居を始めとした噂好きの職員の一部は実際そうしていた。だから先程の仁の返答の後、間髪入れずひそひそと話す声が仕切りの向こうから聞こえた。
「……その、祐君はどうしてる?」
「どうしてるとはどういう意味ですか? 元気にしているんじゃないですか?」
ミルフィリアは高等部の二年生、特に進級の査定が厳しい中等部の三年生、小等部の六年生を相手に教鞭をとっている。
「そうじゃなくて……」
「進級は問題ないどころか、多分ペーパーは貴方なんて比べ物にもならないですよ」
「そうか…… まあそれもあるんだが」
そこまで言って、出されたマグカップに口をつける仁。彼としては仕切りなおしの意味を込めたのだが、ミルフィリアに小言を言う隙を与えてしまった。
「他人のことより、自分のことを心配したらどうですか? 遊庵が嘆いていましたよ? 私も休み前に行った小テストの貴方の答案を見ました。何ですか? アとかイって。第五、第六問は記述問題ですよ? やる気あるんですか?」
「あるわけがないだろう?」
旗色が悪くなっても反省を見せるような男でもない。誇らしげな顔で言い切る。
「何を威張っているんですか? バカなんですか? あとそのどや顔、むかつくからやめてください」
「うるせえなあ。俺のことは良いんだよ」
「よくはないでしょう。貴方本格的に留年ですよ?」
意外にミルフィリアは小言が多い。坂城や奈々華に比べても、より上昇志向が強いのかもしれない。完璧主義なのかもしれない。出された珈琲は苦くはなかったが、仁の顔は今や完全に苦みばしったものを口に入れたようになっている。
「いいんですか? 来年は知り合いの中学生と同級生になって、妹の下級生ですよ? どこまで落ちぶれれば気が済むんですか?」
そして容赦がない。相手をボコボコにするまで口撃の手を緩めることを知らない。
「だあもう! 今はとにかく俺の質問に答えてくれよ。祐君はちゃんとクラスに馴染めていそうか?」
わずかな間。ミルフィリアは、その質問には答えずに、先程の仁と同じように自分の分の飲み物で唇を湿らせた。仁はその間、彼女の動作を見つめていた。
「……自分で聞けばいいでしょう?」
冷静な声。妥当な答え。仁は後ろ髪に手を入れて困ったような表情を浮かべた。やがてそのままの表情で口を開いた。
「それがさあ……」
昨日あったことを話し始めた。