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第三章 第百五話:汚れ仕事

坂城は険しい表情のまま、顎に手をあてて考え込んでいた。結局今からまた授業のやり直しのようなことをするのは、非効率に過ぎるということで、仁は塾の講師は見切った。その決意を聞いた坂城は、ずっとそういった調子なのだった。

「どうしたんだろう? 電池が切れたのかな?」

奈々華は別段気にした風でもなく、動かなくなったオモチャを見るよう。

「ゼンマイじゃないのか?」

呑気にうけあう仁。坂城がキッと二人を睨んだ。考え込みながらも聞いていたらしい。

「誰のために悩んでいると思っているんだ。全く。そんな調子で来年の進級試験は大丈夫なのか?」

中谷精霊魔術学園は、年に一度の進級試験でその成績が決まる。泣いても笑っても一発勝負。坂城の見立てでは奈々華は進級は問題ない。仁はかなり怪しいといった所。

「……まあいい。今は君の償いについてだからな」

償いという表現は、坂城は何の気なしに使ったが、妙に正確だった。仁も奈々華も黙って続きを待った。

「本当はコレは紹介したくはなかったんだが……」

勿体つけるような茶目はなく、ただその言葉はその意味どおりだった。

「何なんだ?」

「はぐれ精霊狩りだ」

短い言葉。

「いつか授業でやった?」

ああ、と一つ頷いて、坂城は説明を始めた。

「授業で行ったのはあくまでも氷山の一角を突いただけだ」

「まあ、そうだろうな」

現在十人に一人の割合で魔術師がいるという。いくらなんでも学生のボランティアで狩りつくせるほどのレベルではないはずだ。

「専門の機関がある」

国から援助を受ける組織。独立行政法人という呼び名が相応しいのかは知らないが、仁はそれに近い組織なのだろうと位置づけた。

「何だ。おあつらえ向きじゃねえか?」

「大岩の辺りまで戻ってこようとする精霊と同じとは思わないほうがいい」

坂城は苦々しく言う。

「もと居た世界に戻ろうという殊勝な心を忘れ、人間に迷惑をかけることに何ら躊躇いを持たない、或いは、積極的にそうしようとする気性の荒いものばかりと聞く」

「なるほど」

それが紹介したくなかった理由か。どうする、と坂城が顔を近づける。断って欲しいといわんばかりの表情だった。

「やるよ…… 紹介してくれ」

他により良い仕事があるようには思えない。仁は心配げな友と妹に、鷹揚に頷いてみせた。



それから一時間と少しで、一台の軽トラックが学園の前に停まった。坂城の話しでは万年人手不足ということらしかったが、新人を一人派遣すると言っただけで、このがっつきようは尋常ではない。白い車体から、青年が降りてくる。どうやら外国人のようだ。

「こんにちは。お話しを伺いまして、研修地まで案内する者ですよ」

所々イントネーションがおかしい。語尾も不安だ。東欧系なのだろうか、黒い髪に彫りの深い顔立ちをクシャッと人懐っこく歪める。この場には仁一人だった。奈々華は当然、一緒に働くと言ったが、それを制して自室に帰した。あの説明を聞いて、妹を連れて行こうなどという思考は働かない。

「よろしくお願いします。ええっと、城山仁です」

「シロヤマさん」

「仁で結構です」

仁が他人に対して自分の呼び名を指定したりすることは非常に珍しい。この外国人が日本語がそれほど達者ではないことと、彼が悪い人間には見えなかったことがそうさせたのだった。

「ジンさんですね」

そんな気遣いを知ってか知らずか、青年はもう一度破顔した。まだあどけなさを残す笑顔。仁よりも年下かもしれない。仁はそこから、彼の指示に従って軽トラックの助手席に座った。



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