表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
- 花の下にて -  作者: 薬剤師のやくちゃん
22/27

虹の始まり

挿絵(By みてみん)




***


白い空。雨が上がった後の、午後。

ひめるとピオとコウカは、狭い路地裏で集まっていた。換気扇の上で、モノは空を見上げていた。

雨の匂いがした。湿気が頬に当たるのを感じた。

ピオに呼ばれた二人は、じっと、ピオの言葉を待った。


「研究所に入ろう」


「「え?!」」

入る?ひめるも考えたことはあった。アニータもトールも、なぜ研究員として働いているのか。ーー自分も、入ることができるのか。しかし、その方法が思いつかなかった。

「入るって、お前。ーーはー?」

「あそこには、何かある。今までに違和感を感じることは何度もあった。でも、“ルール”のせいで、みんな見てみぬふりしているんだ」

「そりゃ、――そりゃあそうだけど。研究所には、奴らが働いているんだぞ。俺らは生き物を殺したり、物を壊したりすることを仕事としてしたいわけじゃないだろ?」

花祭りの記憶が頭によぎる。確かにあの日、街を荒らし、混乱を招いたのは研究所の人たちだろう。なぜそんなことをするのかも、彼らは一体何者なのかも。ひめるは研究所のことを知らなかった。

「確かに俺らは、生き物を大事にしない奴らみたいな連中にはなりたくない」

「だったら」

「だから、俺たちが研究所の奴らに教えてやるのさ。ーー優しさを」

「はー?!」

ピオは冷静な表情で続けた。

「ともに共存して生きていけるために、協力しましょう。ってね。ハルトが求めていたように」


“君も研究するといいよ”

“君自身が君を助けるんだ”


急に頭に浮かんだ光景は、雪が降る日、誰かの腕の中にいた。


「おんもしれえ!」

コウカの声で、ひめるは我に帰った。

「奴らの基地に乗り込んで、俺らの生き方を教えるってか?はっはっはっ面白そうだな!」

コウカは豪快に笑った。

「ひょー!なんかワクワクしてきたぜー!」

コウカはそう言いながら、ひめるとピオの周りを走り始めた。

安堵したような表情のピオはそれを見ながら、状況について行けていないひめるにつぶやくように言った。

「なあ」

「ーーあ、ごめんごめん。僕、全然話について行けてなくて。あ、ーーあはは」

「アニータがなぜ死ななきゃ行けなかったか」

地面の一点を見つめたピオは、血走ったような目つきに見えた。

「なぜ、奴らが、アニータの死を喜んだのか」

あの時の光景と歓声が、鮮明にフラッシュバックする。

「気になるだろ?」

「――僕もずっと考えていたさ。――あの時の光景が頭から離れないんだ」

ひめるは俯きながら、今まで目を逸らし続けてきたことと向き合う。トールのことも、まだ解決できていない。それでもまだ、自分の判断でアニータを失ってしまったことや脳裏に焼き付いた光景が怖くて、うまく言葉に表せない。

ひめるとピオの間で少し沈黙が続いた。


「大丈夫」

振り向くと、いつもみたいに笑うピオがいた。

「今決めなくてもいいさ。君の整理が出来次第、また、答えを聞かせてくれ」

ピオはひめるの背中をぽんと叩いた。ピオは穏やかだった。それがいつものピオだった。

「ーーピオはすごいね。でも、――ごめんよ。――僕はまだ少し怖くて」

ひめるはピオと自分を比べて、情けなくなった。

「いいんだよ。ほら。おーい、コウカ。いつまでそこで腕立てしてんだよ」

ピオは立ち上がり、コウカの方へ走って行った。


気づけば、雨は止んでいた。遠くで二人の声がした。

「あれ、雨もう止んでんじゃーん。よっこらしょーと」

ピオは、片腕で腕立てしているコウカの背中に座った。

「っておーい。俺は腰掛けじゃねー!よーし、行くぞー!」

眠っていたモノが目を開け、しなやかに体を伸ばすと、イブの店の方へと帰っていった。

コウカはピオを背中に乗せたまま腕立てを続け、二人は笑っていた。


空に、うっすら虹がかかっていた。

ひめるは、もうこれ以上失いたくなかった。失うわけにはいかなかった。

「ねえ、僕も乗せてー!」

ひめるも立ち上がり二人の元へ走り出した。




挿絵(By みてみん)




ーーーーーーーーーー

挿絵(By みてみん)

読んでくれてありがとう。

虹を初めて見た時のことは覚えていないですが、今となっては科学とか物理現象とか。知らなければ、もっと美しかったのかなって思うことが増えました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ