青いペンダント
***
晴れた日の朝。
“――カランカラン”
店の扉を開け、桃色のぶちの柄がある白猫を抱えたイブは、開店の準備をしていた。
桃色の癖のついた髪ーーイブ。性別不詳。
「さあ。みんなにおはようしておいで。モノ」
イブの腕から下ろされた1匹の猫ーーモノは、元気よく走って噴水広場へ向かった。イブは、晴れた空を見上げたあと「OPEN」と書かれた板を扉のドアノブに掛け、店を開店させた。
ひめるは、いつもの朝の買い出しで家を出た。その時に、不思議な格好をした人とすれ違った。
その人は片手に紙袋を持ち、ガスマスクにフードを深く被っていて顔が見えなかった。
”ーー?”
ひめるは、ふと立ち止まって振り返り、その姿を見つめた。
いろんな人がいる。それぞれがいろんな考えや思いで、また別の人と関わる。この街の人も、もちろんそうである。
「ひめるー!」
イブの店の前で植木鉢を抱えた女の子が、ひめるに手を振る。白色のピアスが揺れ、長い白髪を丁寧にまとめている女の子ーーアニータは、ひめるに手を振っていた。
立ち止まっていたひめるは、アニータに呼ばれて駆け寄ろうとしたが、たまたま目に入った出店の売り物の中に、ひめるのペンダントと似ているものを見つけた。
青いペンダント。似ているが、形もチェーンも少し違う気がした。しかし自分のペンダントに似たものを見つけたのは、これが初めてだった。
「ねえ。お姉さんこれって」
ひめるは気になって店主に聞いてみた。
「どうせ拾ったもんさ、持っていきな」
気前のいい店主はそう言って、ひめるに青いペンダントを渡した。
「ーーこれ、どこで拾ったの?」
さらに気になったひめるは、店主に教えてもらった場所へ向かうため走り出した。
「おはようアニータ」
ひめるは、片手にジョウロを持ったアニータの横を走り去った。
「おはよう。ーー?」
ひめるは最近、この街に違和感を感じることがあった。
街を抜け、森に入り、少し坂になった道を歩いた。店主に教えてもらった場所に着き、辺りを探索した。
『立ち入り禁止』
するとそこには、立ち入り禁止区域表示の看板と錆びれたチェーン。
「ダメなんだよ。そこいったら」
後ろからアニータがついてきていた。
「怒られるよ?」
その意味はひめるも知っていた。この街では常識だ。
この先には、研究所がある。限られた人間しか立ち入りができない。しかも、そこでは極秘に勤務する必要があって、従事していることを他人に伝えてはならず、体のどこかに埋められた紋章を隠しているという噂もあった。
研究所には、関わってはいけないと昔から友達や街の人から言われていた。
“ザーーー”
森の木々が風で鳴いていた。
“ーーー”
そして、再び静寂が訪れた。
「私、先に行ってるね」
アニータは、立ち止まったままのひめるを不思議に思う目で見つめた後、先に街へ降りた。
「――戻ろう」
ひめるは、立ち入り禁止のチェーンの奥の道を見つめ、街へ引き返すことにした。
”ザザッーー”
木から何かが落ちた音に、ひめるは足を止めた。
大きな古い木の下に、下駄が片方だけ落ちている。近寄ってその木を見上げると、太い木の枝に、着物姿の女性が仰向けで眠っていた。
***
少年とすれ違った後、フードを深く被ったガスマスクの少女は立ち止まり、少年の方を振り返った。そしてじっと、走り去る少年の姿を目で追った。
パーカーのフードを脱ぎ、ガスマスクを額まで持ち上げると、ぺろぺろキャンディーを口へ運んだ。
再び歩き出すと、ポケットの端末が鳴った。
画面に表示された着信相手を確認すると、ガスマスクを被り直し、端末を耳に当てる。
「ん」
「ヤッホー。元気―?」
「ん」
「なーにしてんのー?」
「――観光」
通話相手は、画面に表示されていく文字を目で追っていた。
「いいなー。僕にも見せてよー」
ガスマスクの少女は、手に持った端末で辺りを写した後、ついでに内側カメラにして自撮りをした。
「また、君はそんな趣味の悪い被りもの被ってるのー?」
カメラモードを通話に戻した。
「でも、楽しそうだなー。ありがと。今度僕も連れてってよ」
「――わかんない」
「えー残念」
ガスマスクの少女は、手に持った紙袋の中身を見つめた。
「――お土産ある」
「ほんとー?やったー!」
その反応に、ガスマスクの少女は少し考えたあと、
「あげないけど」
「なんだよー。じゃあ言わないでよー。まあ、だと思ったけどねー」
「ん」
「じゃあ、気をつけて帰ってきてねー!」
通話を終了したガスマスクの少女は、”セイ”と表示された通話画面を閉じ、端末をポケットにしまった。
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読んでくれてありがとう。
イブの店行ってみたいですね。その日におすすめのカクテルをイブに入れてほしいです。
キャラ作りって苦手で、名前も容姿も考えるのにかなり苦労しました。
よかったら皆さんの好きなキャラとか場面を教えてくださいね。参考にしますので。