内緒話
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雪が降り、肌に当たる空気が冷たい夜。
ひめるは、アニータと二人だけでよく集まる場所で話をしていた。そこで、ずっと気になっていたことを聞こうと思っていた。
「アニータは、学校行かないの?」
その質問に、アニータは少し驚いた顔をした。
ひめるは幼い頃、自分はみんなと違い学校へ行っていないことを不思議に思い、トールに頼んだことがあった。そのおかげで、今ではピオに先生になってもらって勉強ができるようになった。しかし、ピオと出会って間も無くして出会ったアニータも、同じく学校に行っている様子はなかった。
「――えへへ。ずるやすみ」
ひめるはアニータのその返事を少し疑った。が、深く聞かなかった。
「ーーそっか。」
少し沈黙が流れた。
研究所のことも友人のことも、ペンダントのことも、ひめるは知らないことばかりのだった。でも、聞こうともしなかった。それらがみんな、自分に対して”隠している”ような気がいつからかしていたから。
「ちょ、ちょっと。いきなりどうしたのさ」
気がつくと、アニータは、自分の服の襟のボタンを上から1つずつ外し始めた。焦ったひめるは、アニータとは反対の方を見るようにそっぽむいた。
「ーー隠していて、ごめんね」
その言葉にゆっくりとアニータの方へ振り返ると、アニータは襟を少しめくり、首の付け根にある歪な紋章を見せていた。ーー研究所の紋章。
ひめるは、驚いて声も出なかった。アニータは、外した襟のボタンを止めなおしながら、今までひめるに話したことのなかった自分のことを話し始めた。
研究所の入り口に捨てられていたアニータを、通りすがった研究員が拾ったらしい。それから、研究所を抜け出しては、イブのお店のお手伝いで街へ降りて、ひめるたちと出会った。
噂は本当だったとひめるは頭の中を整理している時に、ふと頭に過ぎったもう一つの噂。ーー自らが研究員であることを、外部に言ってはならない。
「だから、このことは2人の内緒ね」
ひめるは思いがけない事実に少し混乱している中、アニータはなんだか楽しそうだった。自分に秘密を打ち明けてくれたアニータに、ひめるは思いついたように首にかかる二つのペンダントを見せた。
「これのことを、何か知らない?」
アニータはそっとペンダントに触れ、指でなぞった。幼い頃にあった出来事と、少し前にそれにそっくりな青いペンダントが森に落ちていたということをアニータに話した。
「ごめんなさい。ペンダントのことは分からない」
アニータは、研究所でそのようなペンダントは見たことも、話を聞いたこともないと言った。ひめるの少し期待した気持ちは、一瞬で崩れた。
アニータは、ペンダントをひめるに返した。ひめるは再び手元にかえってきた赤いペンダントをじっと見つめた後、首かけ洋服の中にしまった。でも、青いペンダントはアニータに渡した。
「――内緒の約束として」
アニータは、嬉しそうにそれを受け取った。
降っていた雪は、気がつけばやんでいた。それから少し、二人はたわいも無い話をした。
ーー建物の影。一人と一匹の猫の姿に、楽しそうに笑う二人は気がつかなかった。
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読んでくれてありがとう。
地元が海に近いので、無人の船が止まる港で地元の子たちと話す放課後が好きでした。
大人になって地元に帰ることも少なくなり、連絡をとる子もいなくなりました。
時間が経ったんだなと思いますよね。




