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- 花の下にて -  作者: 薬剤師のやくちゃん
12/27

湖の底

挿絵(By みてみん)




肌に当たる冷たい風、季節は冬になろうとしていた。


「俺も見た」

ひめるは、ピオとコウカと湖のほとりで集まっていた。

「ピオも見たのか。俺は後ろ姿しか見てないけど、あの着物の人誰だったんだろう」

ピオとコウカの会話に、ひめるはあの日出会った着物姿の彼女のことを思い出した。

「着物の人?」

「ああ。すぐいっちまったから、声はかけられなかったんだけどな」

「え、あれは」

「おっ!きたきた」

ピオが言いかけると、下駄の音とともに和傘を咲かせたレンがきた。

「ごきげんよう」


***


ーーその前日。アニータは、ピオとある場所へ遊びに行く約束があった。

ひめるは、2人が並んで歩くのを見かけた。しかし、ひめるに気づいたピオは得意げにピースをし、森の奥へ入っていった。ふくれっ面のひめるは二人に声をかけることなく、振り返って二人とは逆方向へ歩くことにした。

トールや街の人から、森には入ってはいけないと言われている。それなのになぜ、自分以外は許されているのか。あるいは、自分が許されない理由があるのか。ひめるは、花祭りの出来事が頭によぎったが、考えてもそれ以上は分からなかった。


「足元、気をつけて」

一人分の狭い道を歩く。

二人が向かった先には、車椅子に座ったマコトがいた。マコトは、地下へ降りる階段へ2人を案内した。ピオとアニータは階段を降りた。それを満足そうに見届けたマコトは、湖へ向おうとしていた。

道中、マコトは紫色の髪の少年を見かけた。少年は、空気に触れるように何かを探っているようだった。

「―ー君」

マコトに気づいた少年は、驚いた表情をした。マコトは続けて言った。

「ーーごめんよ。ここは、関係者以外立ち入り禁止なんだ。言われてないかい?」

「ーーああ。ごめんなさい。すぐ戻ります」

少年は、柔らい笑顔でそう言った後すぐ森の奥へ姿を消した。


長い階段を降り、暗い静かな通路を進む。足音を立てながら足を進めると、目的地の部屋が見えてきた。部屋の中が見えると、アニータは足早にその部屋に入った。

天井も壁も、部屋全体が水層のその部屋で、アニータは立ち尽くした。壁にもたれかかったピオは、その姿を後ろから何も言わずただ見つめていた。

地上から光が差し込む透き通った世界で、魚は優雅に泳ぎ、サンゴや石に隠れていた小さな生き物たちは頭を出した。ここは、マコトが管理する湖の底。アニータのお気に入りの場所だった。

「ーーここが好き」

アニータがぽつんと呟いた言葉は、水槽の中へ溶けていくようだった。

「人間は、海から生まれたという説もある。俺たちもどういうわけか、安心するのかもしれないね」

しばらくの間、その静かな部屋でアニータはただ立ち尽くしていた。


「今日はありがとう。マコトさん」

地下から戻ってきた二人は、湖を眺めるマコトさんにお礼を言った。

「おう。またおいで。大歓迎だよ」

二人は、みんなと合流するため広場へ向かった。


マコトは、湖を眺めた。

「――お前さんが帰ってきてから、あいつは、お前さんの監視でぴりぴりしてるんだぞ」

「わっちはこうやって、のんびり昼寝をしているだけじゃ」

木の上からは、着物の裾と編まれた黒髪が見えていた。

「それが、あいつをぴりぴりさせてるんだよ。しかし、相変わらずそこが好きだな」

「あぁ。ここの方が、ーー落ち着くんじゃよ」

気だるそうな彼女の言葉に、マコトは湖をじっと見つめた。

「まぁ俺も、ここが落ち着くようになっちまったしな」


“――ガシャンッ”


車椅子が倒れる音に、広場へ向かった2人は気がつかなかった。


***


“カランカラン”

「いらっしゃ、ーー」

「ごきげんよう。イブ」

その夜、イブの店に訪れたのは着物姿の彼女だった。

「ーーはぁ。まったく、うろうろしないでよ。ヤナギ」

「しかし。もう、よいのであろう?」

ヤナギは、カウンターに腰掛けた。ため息まじりのイブは、二人分の同じお酒を作る。そこに大きめの瓶に入った粉末を入れ、くるくるとかき混ぜた。

できあがったお酒は、ヤナギのお気に入りのお酒だった。上機嫌なヤナギは、グラスを手に持った。

「ーーさあ、始めようではないか」

グラスを掲げたイブは、不気味に笑った。

「――“仰せのままに。”」

二つのグラスは、カランと音を響かせぶつかった。

「くれぐれも、邪魔しないでよね」

「わかっておる」




挿絵(By みてみん)




ーーーーーーーーーー

挿絵(By みてみん)

読んでくれてありがとう。

水族館で泳ぐ魚は綺麗だなって思うのに、スーパーで見るとしっかり食べ物に見えます。

不思議です。

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