【第1章】第7話 大魔道士
「ギル!大丈夫!?」
ティアはギルの姿を確認すると同時にギルの元へと駆け込んだ。
突然抱き付かれたギルは一瞬驚くが、
ポンとティアの頭に手を置いて落ち着かせる。
「お前は何か心配事がある度に誰かに抱き付く癖でもあるのか?」
むぅっとした表情を上目遣いでするティア。
その後すぐに拗ねたように自身の右下の方へ目を背けて呟く。
「ここに来て初めて知り合った人だから、死んでほしくないだけだもん。」
だから、つい抱き付いたんだ、と付け加えて離れるティアにまたギルは笑顔を向ける。
「そうか。ありがとうな。」
「…何か嬉しくない。」
むくれるティアにポンポンと再度撫でた後、
先程の状況をティアの後ろにいるセーラに伝えた。
「……ということだから、後処理は気にしなくていい。」
そう言うギルに対して、苦笑交じりで首を振る。
「そうは言っても書類でのやり取りがギルドには残ってるの。
お片付け出来たらそれでお仕舞、じゃないのよ?」
「そこら辺はあんたの仕事でもないだろ。」
「今ギルドは忙しいの、この仕事を回せる人材はすぐに用意できないから。」
だから私がやるのよ、とセーラはため息交じりで伝えた。
「悪いな、手伝えなくて。」
「そもそも手伝う気ないでしょ?」
「ばれたか。」
と悪びれる様子もないギルに再度大きなため息をついた。
「ティア。」
その様子をただ見ていただけだったティアに対し、ギルは一声かけた。
「行く場所ができた。着いてきてくれるか?」
ギルが居ない場所に留まるのは気が重かったので、二つ返事で答えた。
―――
「……それで、どこへ向かってるの?」
ティアが質問を投げかけたのは、あれから20分が経ってからであった。
ギルドから街に出て、路地に入った裏手にあった場所は、
表通りより少し物々しく、スラムのようにも見えた。
ギルはそれには答えず、目線の先にある建物へ指を差す。
他の建物と同じ白を基調としているが、
表のドアは漆黒で、そこだけ色が失われたかのような建物だった。
表に看板が立て掛けてあったためそれを確認すると、
【制御研究所】
と書いてあるようだった。
「制御施設?」
ティアがそう言うと、ギルはただ頷きその建物のドアを開ける。
キィイと鈍い音が鳴った後、ゆっくりと開いたそのドアの先には、
1人の小さな女の子が腕を組んで待ち構えていた。
「よく来たのぅ、ギルバート。そして新たな同志よ。」
にやりと笑うその少女は水色の髪を肩の上で揺らしながら手を差し伸べる。
「情報が早いな。」
ギルは無表情のまま少女を見下ろし、腰に手をかけた。
「我を誰じゃと思っておる!歴代きっての蒼の大魔道士アルマ様じゃぞ!」
えっへん、と鼻をならしながら自慢げに反り返るアルマには何も反応せずティアに伝える。
「しばらくはこいつに魔法の制御を習え、
内容は聞いてねぇが魔法だったんだろ?」
「あ、うん。」
そう言ってティアはアルマにお辞儀をした。
「よろしくお願いします、アルマさん」
「固くならずとも良い!気軽にアルマと呼ぶがよい!敬語も要らぬぞ!」
では、遠慮なく、と続けてティアはアルマの手を取った。
「ありがとう、アルマちゃん。」
うむ!とアルマはティアの手をぶんぶん振った後、
案内する、と一言伝えて奥へ連れてこうとした。
「あ、そうそう。」
アルマはふと振り返り、ギルに伝えた。
「おぬしは後で我の部屋へ来るんじゃぞ?」
「……わかった。」
返事を聞いてにっこりと笑ったアルマはティアを連れて行ってしまう。
「……相変わらずの可愛い物好きだな……。」
ため息をつき2人の後を追うようにギルは歩き出した。
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