【第1章】第2話 縄張り
―――それから何時間、何日経過したのか。
砂の感触。髪を撫でる何者かの気配。
ティアは瞼をゆっくりと開けた。
「……。生きてる……。」
目の前に広がる砂と、一面の星空。
暗いはずなのに明るいその景色は、
宇宙とは思えない異世界のようにも見えた。
(息ができる……?)
地球のように当たり前に吸っていた、あるはずのない空気が感じられる。
少し冷たいその空気は、懐かしく心地よかった。
「目が覚めたならそろそろ起き上がってくれると助かる。」
突然頭上から降り注いだ聞き覚えのない声に、
ティアはビクリと身体を震わせて飛び起きた。
目の前にいたのは20代前半と思われる、黒髪の青年。
右手首の甲側に青く輝く小さな宝石が埋め込まれている。
「新しい罪人さん。蒼の縄張りにようこそ。」
そう挨拶をする青年にティアは〈私は罪人じゃない〉と伝えた。
事情を説明すると、青年【ギル】と名乗った彼は顔をしかめる。
「……警察の野郎。点数稼ぎの為か、
それとも隠ぺい工作でもしたのか?」
そんな、と悲痛の声をあげるティアをなだめるようにギルは続けて言う。
「安心しろ。地球には帰れる。方法があるんだ。」
「本当!?」
パァっと明るい表情になったティアに対し、ギルは表情を硬くした。
「だが、すぐにとはいかない事情がある。」
ギルの向けた視線の先を見ると、
遠くの星空の中に赤いわっかのような何かが見えた。
「宇宙では、戦争が起こってるんだ。
ここ蒼の縄張りと、あそこに見える先にある紅の縄張りとの間で。」
ギルは申し訳なさそうに話を続けた。
「地球に帰るための装置が紅の野郎どもに奪われた。
あれがないと帰れないんだ。」
「そうなんだ……。」
俯くティアの頭にギルは手をポンと乗せる。
「安心しろ。すぐに取り返して帰してやるから。」
そこでティアに疑問が生まれた。
何故こうも簡単に信じてくれるのか。
自分が冤罪だという証拠はない。
ティアは恐る恐る聞いてみた。
どうして、と。
「長年の経験。俺はここで何年も戦争してるんだ。
人殺しした奴は目を見たら分かるさ。
あんたは殺人はともかくしてない。
嘘をつくときの目の動きもしてないしな。」
まっすぐ見るギルの表情はとても優しかった。
「まぁこれであんたが嘘が上手くて人殺ししてたらお手上げさ。
そんときゃもう少し俺が人を見る目をあげるために修行にでるわ。」
ははっと笑い、ギルは砂を払いながら立ち上がる。
そして先ほど見ていた星空とは反対方向の陸地を指さした。
「あっちに俺らの拠点がある。まずはそこに向かうぞ。」
ティアはコクリと頷き、同じく髪や服についた砂を払った。
そしてギルの歩く後ろについて、二人は蒼の拠点へと向かっていった。
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