第9話:迷走Mind
「そうだ、仮想敵を作ろう」
「急にどうしたせせりー」
放課後。
いつものように待機部屋でくつろぐ中、せせりがいつものように変なことを思いついた。
「前回キャラ付けしようと思って大失敗したのを覚えてる?」
「忘れたい」
「だからよー」
「過去から目を背けちゃダメ! 学ばなきゃ!」
「で、どんな学びがあったんだ?」
「だから仮想敵だよ! 言い方がアレだったら"目標"って言ってもいいかもね」
「思ったよりまともな意見出して来たな……」
「でも今更さー」
「今更もガラムマサラもないの! 悪いことじゃないんだし」
「つまりだ、しじみ達が越えるべき相手、目指すべきポジションの相手を想定してどう活動するのか考えるってことでいいんだな?」
「そう! それでわたし達はどんなポジションを目指せばいいと思う?」
「そうだな……身近でなおかつ高みにあるスーパーヒロインって言ったらなる姉とかいるけど」
「ミス・ファイアかっこいいばーよ!」
「ミス・ファイアはだめです」
神妙な表情でせせりはそう言った。
「なんでだよ」
「だってミス・ファイアだよ? ちょっとガチ過ぎるでしょ……炎とか出すし……」
「そりゃまぁ、なる姉は異能力者だし実力もあるし今のしじみ達とじゃ天と地の差だが」
実際、その火力は凄まじく手足を凍らされても火炎を発生させたりと伊達に市内人気ナンバーワンとは言われていない。
「鍋とスッポンさー!」
「それを言うなら月とスッポンな」
「で、それ以外のスーパーヒロインというと……」
「マミンカ・マリンカーっ!」
「もダメです。そもそもマリンカさんは戦闘系のヒロインじゃないし、あの人のブログ見た!? 閲覧数もコメント数もヤバいよ!!??」
「勝ち目Zeroだばー?」
「まぁ、同じスーパーヒロインでもジャンル違うしな」
マミンカ・マリンカはネットでの活動や様々なスーパーヴィラネスの情報を収集、発信しスーパーヒロインへ情報を提供する司令塔とも言えるスーパーヒロインだ。
「なる姉もダメ、マミンカ・マリンカもダメとなると他にどんなスーパーヒロインが残ってるんだ?」
「無糖ライダー?」
「無糖ライダーはスーパーヒロインとしてはせせり達より後輩でしょ!」
実際、無糖ライダーはかつて無灯ライダーを名乗り夜道を歩く人々を脅かすヴィラネスだった。
しかし、ハイビスカス少女隊に敗北後、心を入れ替えスーパーヒロイン無糖ライダーとなったのだ。
「そもそもスーパーヒロインだからってスーパーヒロインを仮想敵にするとは限らないの!」
「たては達はスーパーヒロインじゃあないばー?」
「スーパーヒロインだよ! でも、もっと狙うべき枠があるってこと!」
「スーパーヒロインなのにスーパーヒロインとしての枠を狙わないってなんだよ。どの枠を狙うっていうんだ?」
「それはもちろん大人に子ども、おじいちゃんおばあちゃんお隣さんにも愛される――そう、マスコット枠だよ!!」
バーン! と黒板が衝撃で震える。
それはもちろん、せせりが黒板を右手ではたいたからだ。
「マスコットってーと、ゆるキャラとか……?」
「それも近いね。で、近所にどんなマスコットがいると思う?」
「天ぷらのプーラくん!」
「なにそれ……」
「ちょっと調べてみる……」
しじみもピンと来てないのかスマホを取り出し検索をはじめる。
「コザの銀天街のゆるキャラだってさ」
「銀天街ってあのなんかすごいところ?」
「そうそう。ミュータンから奥に行ったとこの」
「みんな知らんばー?」
「逆にたーてーはなんで知ってんだよ」
「美味しそうさー!」
「ああ、そういう……」
「じゃなくて、もっといいのがいるでしょ!」
「いいのっていうと?」
「同じオキナワ市を活動圏にしていて市を象徴するような役割を期待されたキャラクター! そう、わたし達ハイビスカス少女隊の仮想敵は――」
「仮想敵は?」
「エイ坊だよ!」
「エイ坊!? しじみ達の仮想敵エイ坊なの!?」
「そうだよ」
せせりの表情は大真面目。
ふざけているわけではなさそうなのがなおさらしじみの頭を抱える原因となる。
ちなみにエイ坊とは「エイサーのまち」ということでオキナワ市をアピールするキャラクターだ。
「人気はまだあっちの方が上だけど、わたし達の方が勝ってる部分はある。そこでなんとかあのポジションゲットしようって思うんだ」
「勝ってる部分とかあるのか……? コッチは半分自警団みたいな超地域限定型スーパーヒロイン、対する向こうは市のキャラクターだぞ」
「たてははわかったさー!」
「マジでか。何なら勝てるんだよ」
「戦闘力さー!」
「いやいやいや、確かに勝ってるかもしれないけどまさかそんな……」
「そう。戦えば勝てるよね?」
「マジで市のアピールキャラに武力で挑むの!?」
「世の中は弱肉強食だよ」
「焼肉定食!」
「しじみ達ってスーパーヒロインだよな……?」
その時鳴り響いたタブレット。
「出撃か」
「いくよ!」
「りかー!」
場所は中央パークアベニュー。
「商業の中心地」として作られたというそのショッピングストリートにイタズラ3人娘の姿があった。
「おーっと速い速い! いつもはおとなしいプシェジターがものすごいスピードを見せているぞォ!」
やたら熱の入ったネスミスルの実況が響き渡る。
そして通りをセグウェイのようなものに乗り、ものすごいスピードで駆けるネジェストとプシェジター。
周囲の人々をものともせずレースに興じているようだった。
「そこまでだ!」
そんな2人の真正面に立ちはだかるのはハイビスカス少女隊だ!
「「「ハイビスカス少女隊、イッツショータイム!」」」
「来たわねハイビスカス少女隊!」
そう言いながら直立姿勢で突っ込んでくるネジェスト。
「うわっ、何あのやたら速いセグウェイみたいなの!?」
「与那国おばーの店とかで買えそうだな……」
「だからよー」
咄嗟に回避したそこを狙って、今度はプシェジターがセグウェイのようなもので突っ込んでくる。
「くっ、速い……!」
「まだまだ、まだいるよー!」
更に追い討ちをかけてくるのはやはりセグウェイのようなものに乗ったネスミスル。
やはりやたらと速く、その動きを捉えづらい。
せせりはバーベナストレートを、しじみはスプリームトリスメギストスを、たてはは両腕520%を構えイタズラ3人娘のかわるがわる仕掛けてくる体当たりを防ぐ。
だが、ハイビスカス少女隊はすぐにあることに気付いた。
「スピードは脅威……だけど」
「ああ。それ以外の攻撃をしてこないな」
「だからよー。なんでだばー?」
このスピードにいつも通りの片手剣による剣撃や足技、魔術を織り交ぜれば間違いなく脅威。
そうでありながら、イタズラ3人娘はしっかりと両腕でハンドルを握りしめ得意の攻撃を織り交ぜてこない。
「いや違う。してこないんじゃなくて――できないんだ!」
しじみはそう結論付ける。
その理由はイタズラ3人娘の固く握りしめた両腕とやや強張った口元だ。
「それにあくまで直線移動しかできない。となると、わかるな?」
「うん。正面から待ち受けて――」
「たっぴらかすさー!!」
「なっ、避けないの!?」
目に見えて狼狽るネジェスト。
ハイビスカス少女隊の3人とイタズラ3人娘が交差したその瞬間――イタズラ3人娘はスピンし、クラッシュした。
「やっぱりちょっと衝撃を与えればクラッシュするくらいギリギリの状態だったんだな」
「セグウェイっぽいやつも壊れたし、今日はもう帰りなさい!」
「だある! あきらめるさー!」
「ぐっ、覚えてなさい!!」
今日もイタズラ3人娘の悪だくみは阻止された。
そんな様子を3つの人影が見つめていた。
「あの子たちがオキナワ市のティーンヒロインチームね」
「へー、ケッコーがんばってるんじゃナイ?」
「そうかな? なんか、ぬるくない?」
「ま、そこはしょーがナイっしょー。ワッターと比べたら、ねェ?」
「その通りね。それじゃあ挨拶に行きましょうか。せっかくの"同期"なんですもの」