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第7話:怪盗ネトピール 謎の挑戦状


「ビックワン行こうぜ」

放課後。

ハイビスカス少女隊の待機室に来るや否やしじみがそう叫んだ。

BIG1(ビッグワン)って近くの?」

この桃山中学の近くにはBIG1といディスカウントショップがあった。

せせりはそれを思い浮かべたのだが……

「違う違う、ビッ"ク"ワン! グの方じゃなくてクの方!」

「……なにそれ?」

「せせりーは知らんばー? 与那国のおばーがやってるお店のことさー」

当然のようにたてはもそんなことを言い始める。

そんな店など知らないせせりは混乱するしかない。

「一応確認するけど、BIG1にりかりか――の方じゃないんだよね」

「違う方だな!」

「紛らわしい名前……」

自分のよく知るお店とは別のものだと判明し、せせりは戸惑いと同時に興味も出てきた。

「そのお店、おもしろいの?」

「変なのがたくさんあるんだ。説明するより見たほうが早いし……行こう!」

「だある! 行くのひさびささー!」

「そうだね、面白そう!」

ということでハイビスカス少女隊の3人は噂の個人商店ビックワンへと足を運んだのだった。

外見は今ではめっきり減ったまさに個人商店のたたずまい。

四角い形のほどよく劣化した建物はどこかノスタルジックさすら感じられる。

その正面にはかすれた文字で確かに「ビックワン」と書かれていた。

「ここが噂の……」

そう言えばせせりも家の近くにこんな建物があったのを思い出す。

そこもかつてはこの店と同じように商店を営んでいたと両親に聞いていた。

「こんな感じなんだ」

思わず足を止めてしまうせせりに構わず、せせりとたてはは勢いよく正面のガラス戸を開いた。

「おばー、いるー?」

店内は薄暗く、営業しているとは思えない。

棚には奇妙な部品のようなものが置かれ、なんだかんだ売り物なのだろう、値札が付けられている。

「おばー? うおっ」

「あっ」

不意にしじみと――そして誰かの声が店内に響いた。

「お、ふーみーじゃん!」

店の奥から出てきた1人の女子生徒。

小柄でどこか気の弱そうな少女。

「誰?」

桑古くわこふみ。同じクラスなんだ」

挿絵(By みてみん)

桃山中学1年4組、桑古ふみ。

しじみが特に仲のいいクラスメイトの1人だった。

「ふーみーも来てたのか」

「あ、うん、時間あったから……」

「なんか買ったの?」

「えっと、今日はとくには……」

「ふぅーん、かわいい子だね」

2人のやり取りを見ていたせせりはそんなことを口走る。

「えっ……な、なに、言ってるんですか……」

「わたしは島袋せせり! よろしくね」

「山内たてはさー!」

「え、えっと、桑古ふみです。よろしく……」

何がせせりの琴線に触れたのかはわからないが、握手を交わしなんやらご満悦のようだ。

「せせりーは危険人物だからな。気を付けろよふーみー」

「そんなことないもん。わたしは聖人君子だもん」

「自分で言ったらだめだばーよ」

「たてはちゃんに言われた……」

なんていつもの様子で騒ぎ始める3人にふみの表情にも笑みが浮かんでいた。

「えっと、それじゃあわたし、用事、あるから……」

「あ、そういえばおばーは?」

「奥にいるよ。じゃあ、ね」

「おう。またなー」

「今度お話ししよーねー!」

「だからよー!」

ふみを見送ったあと、しじみは手慣れたように店の奥へ進む。

そして、カウンターの後ろにかけられた暖簾のれんをくぐった。

「あ、いたいた。お邪魔してまーす」

そこには――いた。

明らかにいい年をした、優しげな笑みを浮かべるおばあさん。

それがこの店の主人。

与那国のおばーだった。

「あい、見ない顔がいるね」

「友だちのせせりーさー」

「島袋せせりです」

「何もないけど、ゆっくりしていってね」

「はーい」

おばーは何もないと言うが、何もないことはなかった。

いやまぁ、用途が不明なものばかりで使い道がない以上、何もないとも言えるのかもしれないが……。

「おばー、コレなにー?」

しじみが取り出したのは、スプーンが風車のように取り付けられた機械。

「全自動バター塗り機さぁ」

「バター塗り機……?」

たてはが軽率にいかにも「押してください」と言わんばかりの赤いボタンを押す。

すると、ものすごい勢いでスプーン車が回りはじめた。

おそらくは、スプーンにバターを盛り回転させることでパンにバターを叩きつけるられるようになっているのだろう。

「なんかうさんくさい発明家の発明みたい……」

「そこがいいんだよ」

「だある」

そのお店にあるのはそんなノリのものばかりだった。

やたら射出力が強化されている某危機一髪。

ピタゴ○スイッチの要領でコーヒーをいれるコーヒーマシン。

光る、鳴る石敢當いしがんとうなどさまざまだ。

「おばー、これちょうだい!」

そんな中、何か目当てのものを見つけたのかしじみがよく分からないドラゴンのイラストが描かれた箱を持ってくる。

「なにそれ……裁縫セット?」

「秘密」

カウンターでお会計をする時、しじみが何かに気付いた。

「おばー、置き手紙あるよ」

それは確かに置き手紙。

真っ黒い封筒に白字で「NETPÝR」と書かれている。

「ネト……ネットパイア?」

「ネトピール、だな。こうもりって意味だ」

「なんか悪そうさー」

「ネトピール……聞いたことがあるな。なんでも、物を奪うのに長けた怪盗系のヴィラネスだ。わざわざ活動記録までネットで公開してるんだ」

「ネットでアピールしてるんだね。ネトピールだけに」

「でもなんでこんな手紙があるばー?」

ネットで有名な怪盗ヴィラネス。

その手紙がここに――となれば答えは一つしかないだろう。

「もしかして、予告状!?」

せせりの真っ当は予感は順当に当たった。

開かれた手紙の中に記された文言は、確かに怪盗ネトピールからの予告状だったのだ。

「ムロクッチをいただく。怪盗ネトピール……って書いてあるけど、ムロクッチって何?」

「聞いたことないな。おばー、なにー?」

「これかねぇ」

そう言いながら与那国のおばーが取り出したのは卵形をした小さな機械。

というか……

「た○ごっちじゃん」

「パチモンっぽいけどな」

「だからよー」

見た目はほぼた○ごっちだった。

違うのは、本体をひっくり返すと平たい尾のようなものがあるところだろうか。

それに画面の上につぶらな瞳がデザインされている。

山椒魚ムロクか……」

そう、山椒魚サンショウウオのようなデザインをしたた○ごっちこそが、目的の品ムロクッチだった。

「なんでこんなのを……?」

「わからないねぇ……孫のように大切にはしているけど……ねぇ、ミリエ」

『ココロあたりありません』

「「「シャベッタァァアアアアアア!!!」」」

「さすがおばー、実はこれ何気にすごいアイテムなんじゃ……」

「ちょっとお話ぐわぁーできるだけさぁ」

『そうです。イマドキ珍しくありません』

「やたらハキハキ喋るし……たてはーより頭良さそう」

「だからよー! って失礼だばーよ!」

「ネトピールはこれを狙っているんだ……よし、与那国おばー! わたし達がスーパーヒロインを呼んでくるから! 今夜、警備してもらおう!」

「それじゃあお願いしようかねー」

そう――つまりは、ハイビスカス少女隊の出動だ!

挿絵(By みてみん)

そして夜。

お泊り会の名目(いつもの手段)で夜の合流を果たしたハイビスカス少女隊はビックワンの周囲に張り込んでいた。

「でも、大丈夫なのかな……やっぱ怪盗って言うからには気付いたら盗まれてる! なんてことが……」

「怪盗ネトピールの手際は確かだが自己顕示欲が強いからな。派手な演出で堂々と姿を見せるはずだ」

「目立ちたがり屋さー!」

そしてしじみのリサーチ通り、それは確かに堂々と姿を現す。

不意に周囲一帯の電灯が示し合わせたように掻き消えた。

「これは……まさか」

今時珍しい暗闇が周囲を包みこむ。

そんな中でもかろうじてその姿は捕らえられた。

ビックワンの屋根の上、暗闇の中にマントをひるがえすその姿が。

挿絵(By みてみん)

「出た。みんな、やられる前にやれ! 先制攻撃だよ!」

「問答無用ってヤツね。ヒロインらしくはないがせせりーらしくはあるな」

「まるでヴィラネスさー!」

とか言いつつ嬉々として飛び出す3人。

類は友を呼ぶとでもいうべきか。

先手を打ったのは飛び道具を持っているしじみ。

「幻想弾!」

イルゼの輝きがネトピールを照らす。

「これがスーパーヒロイン? 子どもじゃないの」

余裕の言動。

いや、それ以前に――

「私たちが来ることを知っていた……?」

しじみがつぶやく。

そう、その言動からは明らかにハイビスカス少女隊の出現を確信していた。

それ以上にこんな3人組しかいなかったことを不審に思っているような節すらある。

「ムロクッチを盗ませたりはしないんだから!」

「ムロクッチ――これのことかな?」

そう笑うネトピールの手には確かにムロクッチがあった。

「なっ、いつの間に手に入れたばー!?」

「いつの間に? そうだね、とっくの昔に、かな?」

「とっくの昔に?」

「あーあ、女の子たちがスーパーヒロインを呼ぶって言ってたから期待したのに。ザンネン」

「コイツ……まさか、わた――彼女たちが店に来た時点で既におばーと入れ替わってたのか……っ」

これらの言動から考えられるのはその結論。

ネトピールはムクロッチを盗むため、遅くとも夕方の時点では与那国のおばーに成りすましていた。

そしてわざと予告状を客の目の入るところに置くことで通報を誘発したのだ。

盗むというだけなら簡単にできていたはず。

だがそこにもう1つまみ、スパイスを欲しがるのがこの怪盗ネトピールだった。

「こんな未熟なヒロインと遊ぶ気にはなれないわ。じゃあね」

「させるか!」

幻想杖スプリームトリスメギストスから幻想弾を放つしじみだが、軽々と避けられる。

「外れたっ! けど、今のは"照らした"だけだ」

「たっくるす!!」

いっきに飛び出したたてはが両拳を固め、思いっ切り振りかぶった。

「おおっと」

「それだけじゃないよ。ツィーチュカ、一閃!!」

そして閃くバーベナストレート。

「なかなかの連携ね」

とは言いつつ、涼しい顔。

「ちょっとは楽しめるかしら? 地面に引きずり下ろせたら遊んでアゲテもいいけれど」

「ならお望み通りにっ!」

せせりの機動力はこの3人の中でもピカイチ。

軽い動作でネトピールへ陽動を仕掛ける。

「引きずり下ろすさー!」

そしてたてはの大胆さは3人の中でピカイチ。

両腕を520%巨大化させ、ネットのようにネトピールを捕らえんと広げた。

「すごい技だけど、わかりやすいわ」

「ならば横やりを入れて複雑にするだけだ!」

そして自称頭脳担当しじみの一撃。

「これが複雑? 3人もいてこんな――」

不意にネトピールは背後から迫る気配に思わず身を飛びのけさせた。

視界には確かにハイビスカス少女隊の3人がいる。

だがもう1つ、確かにその気配は背後にあった。

「これは――っ!」

目の端に映ったのはゆらめくマント。

「マントが独りでに動いている……っ」

「ブルーソーサラーの独立支援機能オストだっ!」

そういうしじみの首元には、いつも纏っているアーマーが消えていた。

しじみのハイビスカスアーマー、ブルーソサラー595の特徴である首回りの装甲は取り外し、支援機オストとして使うことができるのだ。

それでネトピールを地面に引きずり下ろす!

「やるわね。でぇすが、この程度で捕まるほどヤワじゃない!」

今度ひるがえったのはネトピールのマント。

そして姿が掻き消える。

「逃げた!?」

「待て――探知波波及……反応は、ある! 共有する!」

「たすかるばーよ!」

しじみの頭部についているレドームが駆動し、周囲をスキャン。

ネトピールの位置を2人に知らせる。

とはいえ、レーダーの位置と実際の位置を照らし合わせて効果的に戦えるほどの実力は今の3人にはない。

とにかく逃がさないようにするので精一杯だった。

「もっとわかりやすいのないのー!? 暗視とかサーモグラフとか!」

「心眼とか明鏡止水とかほしいさー!」

「……ッ、仕方ないか。早速になるがあの機能を使うしか……」

「何かあるの!?」

「実は今日、ハイビスカスアーマーを強化したんだ」

「マジだば!? なんかでーじワクワクしてきたさー!」

「あの機能を効果的に使えれば――あるいは」

「出し惜しみはなしだよ! しじみちゃん、どうするの!?」

「任せろ、コッチでプログラムを一括送信する! 強化コードGAMING、発動!」

そして、しじみの施した強化とやらが発動する!

挿絵(By みてみん)

「これが強化型ハイビスカスアーマーGAMINGだ!!」

そう自信満々に言うしじみだが、

「ぎゃー、目が! 目がぁ!」

「でーじ眩しいさぁー!!」

せせりとたてはは突然、目まぐるしく色味が変わる虹色の発光に目を焼かれ悲鳴を上げていた。

「この光で相手の位置を――」

「目がチカチカしてそれどころじゃないー!」

「相手もこれで目がやられてるはず……」

「全く、バカな子たち」

「逃げられそうさー!!」

「くっ、頼んだオスト!」

探知波で相手の位置を把握し、独立操作できるオストによる妨害でなんとか逃げ出すことは防いでいたが――

「逃げられるのも時間の問題か」

「てかコレ消して!」

「……仕方ないか」

眩い虹色発光も収まったが、また瞳が闇になれるのに少々の時間はかかる。

「無灯ライダーとの戦いの経験を活かしたつもりなんだがなぁ」

「全然活きてない!」

「そもそも光にも弱くないさー。アイツたてはと同じ部類な気がするばーよ!」

「バカってこと?」

「目じゃなくて感覚で暗闇の中を動いてるのか……」

「そういうわけだばーよ」

「そういえば蝙蝠ネトピールって名前だもんね」

「こうもりみたいに超音波で感知してるってことはないだろうが……ん?」

その時しじみが何かに気づいた。

「ミスレシュカ?」

「さっき近くまで自転車が来ていた」

「そんなのあったばー?」

「自転車のライトの光が見えたんだ。けど、急に消えた。なぜだ」

「横道に入ったとか……」

「……後もう少しだけ粘ってくれ! もしかしたら……」

「逃がすわけにはいかないからがんばるけど……」

「暴れるさー!!」

奇妙な自転車乗りは確かにそこにいた。

スーパーヒロインとスーパーヴィラネスの戦いを前にして引き返すでも首を突っ込むでもなく、自転車のライトを消して傍観している。

その動きは奇妙だ。

そしてしじみは、その相手を知っていた。

いや、みんな知っている。

深夜、自転車、そしてライト――となればその相手は――

「あーもう、つまらないわ。それじゃあサヨナラ。小さなスーパーヒロインたぐひぃッ!!??」

急に響いたネトピールの叫び声。

そして金属がきしみ、そして思いっ切り何かにぶつかった――いや、轢いた音。

「なになになんなの!?」

漆黒の自転車、漆黒の装束、ヘルメットの下から除く金髪。

「あのまっくろくろすけ、見覚えがあるさー!」

「やっぱり――」

「悪への慈悲はシュガーレス! Blackブラック Coffeeコーヒーなスーパーヒロイン! "無糖"ライダー登場!」

「無灯……いや、シュガーレスな無糖のライダー!」

「久しぶり! ハイビスカス少女隊のGirl(ガール)たち! ……で、轢いちゃったけどいいの?」

「悪への慈悲はシュガーレスなんでしょー。かっこいー!」

OF COURSE(オフコース)!」

「ネトピールは確保したさー!」

「ベジェトルカでかした!」

「でもなんで無糖ライダーがこんなところに……?」

「あなた達に敗れてから心を入れ替えてHeroine(ヒロイン)としてVolunteerボランティーアをしているの。今日はPatrolパトロールをしてたってわけ」

「ネットでも噂になってるな。夜、困ってる人がいると颯爽と現れて颯爽と消える謎の人助けヒロインがいるって」

しじみが無糖ライダーをあてにしたのはその情報を手に入れていたからというのもあった。

「じゃっ、コイツは私に任せて! 中学生は明日に備えて休みなさい。Restレスト!」

「でも、おばーの様子も見ないと!」

「そうだ。あげは先生に知らせたが……」

「いつの間にしたばー?」

タイミングよく店の中からあげは先生とマミンカ・マリンカが現す。

「大丈夫よ! 与那国さんは無事確保したわ」

「ええ。そちらも事件は解決できたようですねぇ」

万が一の時を考えて、あげは先生がマミンカ・マリンカへと情報を伝えていた。

しじみがネトピールの手法を把握した時点で報告を送っていたこともあわさり、おばーの捜索もすぐに行うことができたのだった。

「よかった……」

「これで文句なしの解決、だな」

「だからよー!」

盛り上がるハイビスカス少女隊の姿をマミンカ・マリンカとあげは先生眺める。

「ハイビスカス少女隊、着実に成長していってますねぇ」

「って言ってもまだまだよ。今回だって乱入者がいなければどうなってたか」

「見込みはあるとわたしは思いますよぉ」

「そうだといいけどね。スーパーヒロインとしての逆境は、こんなものじゃすまないものね」


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