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第5話:恐怖! 無灯火爆走女!

「ごきげんよう、せせりさん」

「あ、れいな先輩! ごきげんよー!」

朝。

登校してきたせせりにほがらかな笑みを浮かべる女子生徒。

桃山中学3年1組、透翅羽すかしばれいな。

この中学の生徒会長だ。

「またゴミ拾いですかー?」

「ええ。こう言うのは日頃の積み重ねが大切ですからね」

「じゃあわたしも手伝うよ! このスーパーヒロインせせりにお任せあれ!」

胸をドンと叩くせせりにれいなは微笑む。

「よろしくお願いしますね」

「うん! れいな先輩のためならがんばっちゃうよー!」


挿絵(By みてみん)


「せせりーってれいな先輩と仲良いよな」

放課後、ハイビスカス少女隊の待機部屋で暇を持て余したしじみがふとつぶやいた。

「朝もれいな先輩とゴミ拾いしてたさー」

「れいな先輩はすごいんだよ。学校のことだけじゃなくて地域のことも考えてくれてる。本当にスーパーヒロインみたいな人なんだよ」

「せせりーがそこまで言うなんてよっぽどだな」

「だからよー!」

「で、スーパーヒロイン・ハイビスカス少女隊は今日も出撃はなし、かねぇ」

しじみがタブレットを手にヴィラネスの出現情報を探すがこれといったものがない。

ハイビスカス少女隊は主にこの桃山中学校区内の下級ヴィラネス――あるいはいつものイタズラ3人娘への対応が主な任務だ。

「上級ヴィラネスへの対処はしじみ達じゃできないしな」

「ベンチ入りしてるだけ十分ってことだば?」

「そうだな」

「そう言えば、友達のゆーみーから聞いたんだけど無灯ライダーって知ってる?」

「無灯ライダー?」

それは今朝、せせりが友人である、ゆみから聞いた話。

うちの近くに公園があるんだけど、夜にそのへんを通ると真っ黒い自転車に轢かれそうになるって噂が流れてるんだ」

「黒い自転車か」

「うん。全身黒ずくめで無灯火の自転車なんだって。だから無灯ライダーって呼ばれてるんだ」

「某高潔なヒーローと名前が似てるのはやめて欲しいな……」

「しょーがないじゃん。そー呼ばれてるんだから」

「たては達はどーするばー? 捕まえに行くばー?」

「とーぜん! せせり達はスーパーヒロインだよ! だった悪者はこらしめなきゃ」

「おー! たてはも頑張るさー!」

「待て待て指示もないのに勝手に動くのか? もししじみ達の手に負えない相手だったらどうする」

「って言っても、ただ自転車で走り回ってるだけの迷惑な人だよ? それ以上でもそれ以下でもないし」

「それはそうだが……」

もしもそんなに凶悪な相手であれば、とっくに誰かしらのスーパーヒロインが対処しているはずだ。

そういう話も聞かないというのであれば、あくまで迷惑な人程度でハイビスカス少女隊でも対処は可能なはず。

もっとも、せせりがそこまで考えて発言してるとは思えないが。

「もう1つ問題はある。その無灯ライダーってのが出てくるのは夜なんだろ。何時くらいだ?」

「わからないけど夜中って言ってたよ」

「早くても10時、普通に考えれば0時1時か。そんな時間に家を抜け出せると思うか?」

「……たしかに」

神妙な顔をしながら何かを考えこむせせり。

「家から抜け出すのは得意さー!」

「それはそれでどうなんだ……?」

たてはの無邪気な言動から相当なやんちゃガールなのが分かる。

「あ、そうだ」

ふとせせりが顔を上げた。

「また悪いこと思いついたな」

「悪くないよ。良いことだよ」


挿絵(By みてみん)


せせりはそう言うがまだ短い付き合いとは言えしじみは既に把握していた。

せせりがこういう顔をする時、本人にその気があるかないかは置いといて面倒くさいことを言い出す時なのだ。

「お泊り会しよう」

「おー! それいーさー! 誰んいくー?」

「あげは先生の家」

「……なるほど」

あげは先生からしたらたまったものではないだろうがその提案は理解できるものだった。

「お泊り会ということにすれば夜、家にいないことは不自然じゃない。誰かの家に泊まるとなれば抜け出す手間がある。だが独身のあげは先生の家なら迷惑をかけるのは最小限で済む」

「あげは先生って独身だったんだ」

「だからよー」

「まぁでも彼氏いるようには見えないもんね」

「だからよー」

なんて失礼なことを言うせせりとたてはの傍でしじみは冷静に考えを巡らせる。

「あげは先生の家に泊まるとなれば必然的に先生からの許可も必要になる。許可を貰えるならハイビスカス少女隊の出動もできるだろうし……あとはどう許可をもらうかだな」

「問題はそこだよねー。なんかいい脅しのネタない?」

「真っ先に脅す方向でいくな!」

一体せせりはどういう育ち方をしたのかなどとしじみが考えを巡らせても仕方がない。

実際問題、あげは先生との交渉材料は必要だった。

「とりあえず、ストレートに聞いてみるさー!」

ということで職員室からあげは先生が連れてこられる。

「なるほどね」

話を聞いたあげは先生は考え込むように口元へ右手を当てた。

「確かにいつかは通常のヒロイン活動もしてもらわないといけないけど……」

「お、マリンカさん即レスじゃん」

思考を巡らすあげは先生をよそに、スマホに目を落としていたしじみがそんな呟きを漏らす。

今回の件についてしじみはマリンカに伺いを立てていた。

マミンカ・マリンカは県内でも数少ないAランクスーパーヒロイン。

スーパーヴィラネスなどの情報を収集し、拡散するのが主な活動なのだ。

「しじみちゃん何してるの?」

「マミンカ・マリンカさんにちょっと聞いてみたんだよ。無灯ライダーのことをな」

「マリンカに? 何て言ってるかしら?」

しじみの言葉にあげは先生が反応する。

「ハイビスカス少女隊で対応しても問題なさそうだってさ」

あげは先生はしじみのスマホ画面に表示されたマリンカからの返信に目を通す。

「なるほどね、わかったわ。でも監督役としてあたしも同行するわよ」

「諒解!」

かくしてハイビスカス少女隊の出動が許可された。

正義の味方も好き勝手はできないのだ。

そして夜。

あげは先生の暮らすアパートの一室。

「そろそろ良い時間だけど……」

あげは先生がスマホ画面を確認する。

時刻は午後11時。

マリンカから提供された無灯ライダーの頻出時刻だ。

「えー、もう時間なのー?」

ゲームコントローラーを握りしめ必死にボタンを連打しながらせせりは不満を漏らす。

「まったく、人の家にスイッチがあるからって……」

あげは先生の家にゲーム機と某大乱闘ゲームのソフトがあるということを知ったしじみが人数分のコントローラーを持ち込んだことによりゲーム大会が開かれていた。

「ほら、車に乗りなさい!」

「ぶー、仕方ないなー」

「盛り上がってきたのにな」

「だからよー!」

「何のために来たのよあなた達!」

車に乗って十数分。

ハイビスカス少女隊の3人はせせりの家の近所にあるという公園の近くに辿り着く。

静まり返った住宅街で周囲に人の気配はない。

こんな時間に中学生がうろつくのは問題があるということであげは先生が私服でうろつくことになった。

ハイビスカスアーマーに身を包み、息を潜めてその様子を見つめるハイビスカス少女隊の3人。

あげは先生はしばらく周囲をうろついているが噂の無灯ライダーは姿を見せる気配がない。

諦めて帰ろうかと思ったその時がお約束の時だ。

「きゃっ!?」

不意にあげは先生が声を上げる。


挿絵(By みてみん)


「出た!?」

そう、確かに出た。

ものすごい勢いで走り去る真っ黒の無灯火自転車。

そしてそのライダーも全身黒ずくめ。

間違いなく噂のヴィラネス、無灯ライダーだ。

「結構早いぞ」

「追いかけるさー!!」

呆気にとられるせせりとしじみを尻目に、さっそく駆けだしたのは疾走する本能たては。

暗闇に溶け込む無灯ライダーの姿を野生の感で追いかける。

「ミスレシュカ、皿!」

「レドームだ!」

ミスレシュカことしじみの頭部に装着されたレドームを稼働させた。

それにより味方の位置を把握し、情報を共有することができる。

「真っ直ぐ進んでるな。シマブク公民館の方に向かってるぞ!」

「わかった! 先回りするね」

せせりは助走をつけると手近の民家の屋根に飛び乗り、駆けだした。

せせりのハイビスカスアーマー、イエローサムライ2000GTは機動力が高い。

強化された身体能力。

そのスピードを遺憾なく発揮できる広々とした空を行き、一気に無灯ライダーの自転車を追い抜く。

「ちょっとまったー!」

「ッ!! Superスーパーheroineヒロイン……ッ」

キーっとブレーキ音が周囲に響いた。

最初は暗がりでよく見えなかったが綺麗な金髪が揺れているのが分かる。

それに流暢りゅうちょうな発音――外国人の女性だ。

咄嗟に自転車を反転させ駆け出すが、

「ベジェトルカ!」

後ろからはたてはが追いかけている。

「ベジェトルカ?」

「あー、ベジェトルカは膝にバリカーを受けてしまってだな……」

「バリカー?」

「車止めだ。公園の前とかに逆Uの字したやつあるだろ」

「逆U字工事だね」

せせりのリアクションをしじみは無視。

それでもちゃんと無灯ライダーのいる地点目指して駆けている。

しじみの視界。

暗闇の中に歪みが見えた。

いや違う。

しじみに向かって駆ける無灯ライダーだ。

「くっ、見えづらいッ!!」

街灯もチラホラあるが無灯ライダーはそういうのを把握しているのだろう。

可能な限り暗く、人の視線から逃れやすいところを選んで走っていた。

更にはこの暗闇にあって明瞭めいりょうに見えているかのような繊細かつ大胆なドライビングテクニック。

ただの迷惑なライダーとしてはそのテクニックはピカイチだ。

「このアーマー、見えやすくする機能ないの!?」

暗視ナイトヴィジョンとかサーモグラフとか……わっかんね!」

「なんでー!」

「けど、幻想弾で――!」

しじみは虚空から幻想杖スプリームトリスメギストスを取り出すと幻想弾を発射する。

そう。

幻想弾の発光で無灯ライダーの位置を把握しようということだ。

「目がチカチカするぅ!」

「何とかしろ!」

せせりはイルゼフラッシュの眩さに翻弄される。

しかしそれはせせりだけじゃなかった。

「無灯ライダーの動きが……なるほど」

無灯ライダーも今までよりフラつくような様子を見せることが増えている。

相手はこの暗闇の中、見えているかのように縦横無尽に駆け回っていのにだ。

いや違う。

だからこそだ。

「光には弱いということか……」

と言ってもフラッシュを乱発しては相手の目を慣らしてしまうことになる。

「ならば――効果的に使うべきか」

「でも相手の位置が分からなかったらどうしようもないじゃん!」

せせりの言うことも一理あった。

さすがに夜目も効いてきたとはいえ、相手の自転車捌きは脅威。

ヘタに出し惜しみしても相手を逃がしてしまう要因になり得る。

「少しでいい、目だけじゃなくて音でなんとか相手の位置を把握しろ!」

「そういうのカッコいいけどさぁ!」

「少しでいい。相手を捕まえようともしなくていい。この辺りから逃がさないようにだけしろ!」

「何か考えがあるんだよね?」

「当たり前!」

「信じるよ!」

しばらく敢えてフラッシュを焚かないことで相手の目が暗闇に慣れるまで待った。

暗闇に目が慣れる現象は暗順応あんじゅんのうと呼ばれる。

完全に暗闇に目が慣れるまで30分はかかると言うが、無灯ライダーはすぐにでも安定した走りを見せていた。

もしかしたら無灯ライダーはその時間が他人と比べて規格外に短いのかもしれない。

「それに外国人は日本人より暗いところをよく見えるって言うしな……ネット知識だが……」

まとめサイトで得た知識をあてにしていいのかしじみは迷いながらも、無灯ライダーが光に弱いのは事実だ。

ならばそう長く待つ必要もない。

後は正面に回り込み――


挿絵(By みてみん)


「ザーブレスコヴィー・グラナート!」

幻想杖スプリームトリスメギストスを上空に向け、幻想弾を射出する。

それは強烈な閃光で周囲を照らした。

その名の通り閃光弾ザーブレスコヴィー・グラナートのような光を放つ。

「@#$%!」

「うわっ」

自転車の急ブレーキ音と悪態をつくような無灯ライダーの声が響いた。

それと同時に閃光弾に目を焼かれたせせりの悲鳴も。

これではせせりが無灯ライダーを確保するのは難しい。

それはしじみも把握していた。

しじみが待っていたのは――

「つっかまえるさァー!!!!」

たてはだ!

バリカーに膝をぶつけて悶絶していたたてはだったが回復。

光を目印に合流し、そして――無灯ライダーを確保した!

公園の端で無灯ライダーが正座をさせられている。

顔を隠すための帽子とゴーグルを取ったその下は美人な外国人の女性だった。

「クレア・フォスターと言います」

クレアと名乗った女性はとても流暢な日本語で無灯ライダーとして悪事を働いていた理由を話す。

「近所のショッピングモールで働いているのですが、仕事が上手くいかずストレスが溜まっていたんです」

「ということはストレス解消のためにこんなことしてたんだね」

「はい。普段、通勤は自転車でしているんですがこの前たまたま電灯が切れてて。そしてたまたま夜道を歩いてた人を驚かせてしまったんです」

「なるほどな。それが気持ちよくてつい……ってことか」

「ハイ……」

「現代社会の犠牲者さー」

「何分かったようなこと言ってんだ」

「ストレスを解消したい気持ちはわかるけど、こんなことしたらダメだよ。一緒にカラオケ行こう?」

「なんでヴィラネスをカラオケに誘ってるんだ」

「そもそも今の時間じゃ中学生は入れないばーよ」

「じゃああげは先生が行こう?」

「なんでよ!?」

「アナタたちは中学生なんですか……?」

クレアの問いに思わずギクりとする3人。

一応、彼女たちの素性は明かしてはならないことになっている。

中学生という情報は些細だが何につながるかわからない。

もっとも今回はいい方向に作用したようだが。

「中学生がこんな立派にスーパーヒロインをしてるのに、私は……」

決意をしたようにクレアはぐっと拳を握りしめた。

それはほんの些細な事件だったかもしれない。

けれどこれはハイビスカス少女隊の大事な一歩。

これから待ち受ける、様々な試練に挑むための大事な一歩だった。


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