第41話:せせり、太る
「正月太り。年末年始は休みもあって親戚の集まりもあるから食べ物をたくさん食べがちだ。それはわかる」
「だよねぇ。しじみちゃんだってちょっと太ったでしょ?」
「いつもなら"んなワケねーだろ!"って怒るところだが今回は素直に認めよう。そうだ」
「でしょー? だからコレは仕方のないことなんだって」
「何の話してるばー?」
「たては、いいところに来たな。コレを見てどう思う?」
「……でーじでっかい、鏡餅?」
「失礼な」
「じゃああれさー! ましゅまろまん!!」
「本当失礼なんだけどー!! 人をお化けみたいに!!!」
「っていうか誰だばー?」
「わたしだよ! せせりだよ!!」
「だあるば?」
「だあるわけ」
「一体どういうことだばー!?」
「正月太りだってさ」
「正月に会ったときはそんな太ってなかったわけさ!!」
「アリスギアでおにぎり狂想曲の復刻してたから合わせてきたな」
「しじみちゃんのやってるゲームのイベントなんて把握してないからね!!」
「んでだ。この島袋せせり(伸)をどうするかっていうのが今回の課題だ」
「課題だなんて大げさな」
「その身体で戦えんのか……?」
「なんとかなるでしょ」
なんて話をしていると鳴り響くタブレット。
そう、ハイビスカス少女隊の出撃だ!!
場所は桃山中とはまた別の市内の中学校。
その裏道周辺にイタズラ3人娘はいた。
「来たわねハイビスカス少女隊! ……ちょっと待ちなさい」
いつものセリフでお出迎えしてくれるネジェストだが、当然のごとくせせりの姿を見て目を丸くする。
「ど、どうしたのかしら、そのツィーチュカの、その、まるっこい、身体は」
「正月太りだってさ」
「か……」
「か?」
(かわいい……)
その言葉を口にすることをギリギリ押しとどめたネジェスト。
どこか頬を紅潮させたままだが、気を取り直すように咳払い。
その長髪をかきあげると言った。
「ふっ、かかったわねハイビスカス少女隊。今回の標的はズバりアナタたちよ!」
「わったー!?」
「逆に今までこういう展開なかったの不思議だよね」
「たしかに……」
「暢気なことを言っていられるのも今のうちよ! さぁプシェジター、装置を起動させなさい」
「ポチっと」
瞬間、周囲の空間が揺らぐ。
それと同時にハイビスカス少女隊とイタズラ3人娘の距離が大きく引き離され――そして互いの姿は見えなくなった。
「これは……」
立っている場所は先ほどまでと変わらない。
だが何か変だ。
何も変わらないのに何かが変。
「3人は? どこかに隠れてる、のかな?」
「いや……これは」
「どうしたばー?」
しじみは周囲の様子をスキャンする。
「なんだ? 広いぞ」
「広い?」
「見た目と違って長い一本道が続いている。変だぞ」
「ここからまっすぐ進めばくすの木通りなわけさー」
「っていうかすぐ見えるよね」
「ああ。確かにまっすぐ進めば大通りに出られる――そう見える。けどスキャンしたら違うんだ。やたら長い一本道が続いてるっていうか……」
「とりあえず前に進んでみよう」
「行くさー!」
進めど進めど目の前に見える大通りまでの距離が全く変わらない。
確かに進んでいるが進めていない。
「これ戻ったらどうなるのかな?」
「スキャンした感じだと変わりねーぞ」
せせりのそんな疑問にしじみはそういう。
「行ってみるさー!!」
「ちょ、待て。体力を無駄にするな!」
そんな静止の声も聴かずに駆け出すたては。
せせりやしじみと距離をぐんぐんと離す。
見ている感じでは全く前に進めなかった今までと違い、確かに後ろへ戻ることができていた。
やがてその姿も見えなくなる。
「ベジェトルカー?」
「ちょっと待て、通信を繋いでみる。ついでに視界データも……」
しじみが目の前の空間に映像を投影した。
そこに映し出されたのはたてはのハイビスカスアーマーを経由した視界映像だ。
せせりやしじみも見知った何の変りもない道路や建物がたてはの視界に映っている。
だがしばらく進んだ所で異変は起こった。
ここから前に進めば下り坂があり、そこからこどもの国前に出るはずだ。
だがその坂やその先の道が見えるのにそこにたどり着けない。
そう、今までのせせり達と全く同じような状況に陥っていた。
「戻ることもできないか。ベジェトルカ、戻ってこい!」
「仕方ないわけさー……」
そこからたてはが戻ってくるのに大した時間は変わらなかった。
「どうやら両端以外の距離は改変前と変わらないらしいな」
たてはが戻ってくるまでの時間を計測しながらしじみがつぶやく。
たてはの移動速度や本来の距離をもとに計算した結果、たてはの移動した距離は元々の移動距離に変化がないことが分かった。
となると、この両端。
通りの出口付近で何らかの干渉が起きていることになる。
「それが分かったからってどうしようもないか……」
「どうする? 先に進む?」
「ほかにも横道あったよな。そこも調べてみるか?」
「何もしないよりいいわけさー!」
ということで道を少し戻り横道に向かって進むが今度も別の道にできることはできない。
だがちょっとだけ変化があった。
道を進んだ先、どういう訳か進んだ道とは逆の方向にある別の横道から元の道に戻ったのだ。
わかりやすく言うのならRPGなどでよくあるループするエリアのような感じか。
そしてさらに変化があった。
今までと同じ方向へ進んだ時、いままでは前に進めなかったのが景色が一変。
真逆の方向--つまりはたてはが先ほどまで向かっていたこどもの国前を背にした位置へ転移していた。
これもさっきと同じようにRPGでよくあるループ状態を考えればわかりやすい。
「なんか変化がある条件みたいなのがあるのか?」
「正解を選んだら、とか……?」
「とにかく探ってみるわけさー!」
ここで3人はループの発生したルートを"正解"と定義しループが発生するようにいろんな道をいろんな順番で通り、進んでいく。
さすがに疲労も溜まってきたところでハイビスカス少女隊の3人はイタズラ3人娘の姿を発見した。
だが3人とも疲れた様子で地面に腰を下ろしている。
「まさかな……」
「もしかして、出れなくなった?」
せせりの問いかけにイタズラ3人娘は静かに頷いた。
「やったーが作ったんじゃないばー!?」
「ふっ、抜け方まではわからなかったのよ!」
「そう自信満々に言われてもねぇ」
「機械を壊したら止まるかなーって思ったんだけどねー」
「ダメ」
そういうプシェジターの手にはこの空間を生み出した機械--の残骸が握られていた。
「もしかしてわたし達……もう出られない?」
沈黙が周囲を包む。
この機械を使用したイタズラ3人娘がその解除方法をわからない上に機械そのものも破壊された。
となるとせせりの言う通り、脱出するのは非常に困難なのは言うまでもない。
「それでも進むしかないかもな」
「どうして?」
「こうやってイタズラ3人娘とも出会えたんだ。ってことは風景がほぼ変わらないだけで進んでいるってのは確かだろ?」
「確かに……」
「ほかにできることもないわけさー」
「確かに……ってなると歩くしかないってわけかー。ネジェスト達も一緒に行くよね?」
「くっ、仕方ないですわね。一先ず足を進めましょう」
「体を動かした方が頭も回るっていうしねー!」
「打開策。見つけよう」
「決まりだね!」
ということで足を進めるが当然、変化も打開策も浮かばない。
そんな時だ。
「やぁ、楽しそうだね」
なんて声が聞こえた。
その声は――
「ゲイザー!!」
そう、最近どういう訳かイタズラ3人娘に手を貸しているスーパーヴィラネス、ゲイザーだった。
「ボクの用意したダンジョン、楽しんでもらえてるかな?」
「ぶー、たのしくなーい! 景色かわらなーい! 出口みつからなーい!」
「これお前の仕業か!」
「どーいう目的だばー!?」
「ははは。正月回に出番がなくてモヤモヤしてたからね。ちょっとした嫌がらせだよ」
「メタい!」
「それなら私たちだって地の文で倒されただけよ!!」
「だからメタい!!」
「それでこれがあなたの仕業なら、どうやったらここから抜けられるの!?」
「そうだなぁ。時空とか切り裂いたら出られるんじゃない?」
冗談のように笑うゲイザーだがせせりは真剣に考えこむ。
「なるほど……時空を……」
「なるほどじゃねーよ。できるわけ……」
ここまで口にしてしじみは考えを変える。
「いや、できるかもしれない」
「本当に!?」
目を輝かせるせせりにしじみは迫真の真顔で頷いた。
その片手でたてはやイタズラ3人娘に"何も言うな"と静止の合図をしながらだ。
「ああ。ハイビスカスアーマーとそしてイルゼの力を使えば空間を切り裂くくらいなら可能だろう」
そういうしじみの身体からわずかにイルゼが満ちていく。
それは彼女がその思考をフル回転させ冷静に状況を分析していることを示していた。
だからと言って実際に時空を切る手段を思いついたわけではない。
しじみの考えているのはいかにしてせせりをその気にさせるかだ。
「超高速の斬撃で空気を切り裂く--凄腕の剣豪ならできる技だ」
「そうなの?」
「ああ。600年前の剣士とかはできてたんだ」
「すごーい!!」
※嘘です
「その技は空気をぶった切っているということだ。そこにイルゼの力を力を乗せれば、更に切れ味は増し、空間くらいなら容易く切れる」
「なるほど」
しじみの言ってることを本当に理解しているのかはわからないが何やら納得している様子のせせり。
「いいかツィーチュカ、イルゼを高めるんだ」
「うん」
せせりはバーベナストレートを構え、静かに心を集中させる。
「ツィーチュカ、切れるか?」
「切れる!」
「切れるか!?」
「切れる!!」
「全集中でぶった切れ!!」
「アイドルの呼吸!!! フリードリーミン!!」
しじみにおだてにおだてられたせせりの一撃。
それは確かに――その空間を切り裂き終わりのない迷宮を解き払った。
「な、まさか本当にやったの!?」
「うわヤバ」
「すごい……」
イタズラ3人娘もまさかの展開にそんな言葉を漏らす。
「本当に切るなんてやっぱり脅威だね。キミたち」
そういいながらもゲイザーに動揺は見えない。
それもそうだ。
ゲイザーは未来予知能力を持っている。
となればこの展開もむしろわかりきっていたことだろう。
「楽しみも終わっちゃったしボクは帰らせてもらうよ。ツィーチュカ、ちゃんとダイエットするんだよ」
「おおきなお世話だよ!」
ふざけた助言を最後に残し、そしてゲイザーは姿を消した。
「くっ、私達も撤退するわよ!!」
「わたし達も帰ろうか」
「んで、ダイエットだな」
「付き合うわけさー!」
「むぅー」




