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第4話:これが伝統の大特訓!?


挿絵(By みてみん)


「いやー若人わこうど達よ、よく集まった!」

とある日曜日。

部活生達がトレーニングに励む中、ハイビスカス少女隊の3人は校門前に集められていた。

「休みの日なのになんで学校に来ないといけないのー?」

「学校は休みでもスーパーヒロインに休みなし! いつでもヴィラネスに対応できるようにしとかないと」

不満で頬を膨らませるせせりに言い聞かせるのは知花ちばなあげは。

この桃山中学校の教師であり、ハイビスカス少女隊の"顧問"だ。

「ですけどヴィラネスの出現情報はないですよね?」

「何もヴィラネスと戦うだけがスーパーヒロインの仕事じゃないわ。さっきも言ったでしょ? いつヴィラネスが出てもいいように備えるの」

「つまり、何するばー?」

「決まってるでしょ! 特訓よ!!」

学校を飛び出しハイビスカス少女隊はランニングをしていた。

「さぁ気張って走りなさい!」

「先生だけ自転車ずるーい!」

「まぁまぁ、先生はしじみ達と比べて高齢なんだ。体力がないんだから許してあげなさい」

「誰が高齢者よ!」

「先生いくつだばー?」

「いくつでもいいでしょ!」

なんて雑談をしながらランニングは進んでいく。

「まだ走るのぉ?」

「これは山中やまちゅうヒロイン部お約束の洗礼なのよ! 私だってあなた達と同じくらいの頃はこうやって休みの日なのに呼び出されて……」

「先生も中学生だったばー? しに意外ー」

「ちなみに何年ほど前の話ですか?」

「人の年齢を割り出そうとしないの!」

なんて言い合いながら辿り着いたのはとある公園。

「着いたわね」

あげは先生の口振りからランニングはここに来るためのものだったらしい。

「ここは?」

「遠足で来たことあるな。確か市営運動公園の……」

「そ、コザ市営の――アスレチック広場とか言ったかしら」

「動き回るにはよさそーさー!」

「その通り! 今日はここで一杯特訓してもらうわ!」

「特訓って言っても公園だよね」

「何も特別な機材や場所がなくたって特訓はできるの。そう考えたらここは十分恵まれてるわ。例えば――」

あげは先生が目を向けた先。

そこに"それ"はあった。

公衆トイレのほぼ正面に位置する何もない広場。

いや、違う。

近づくにつれ、それは姿を見せてきた。

「わぁ、これって……」


挿絵(By みてみん)


それは巨大な滑り台。

上から覗き込む感じそれなりの高さと急勾配きゅうこうばい

大人ですら滑るのを一瞬躊躇(ちゅうちょ)してしまいそうだ。

「最初の特訓は体力と精神力! この滑り台を滑り降り、そして駆け上がる! さぁわかったらGO! GO!」

有無を言わさずせせり、しじみ、たてはの3人はあげは先生に突き落とされる。

「うー、おしりが痛ーい!」

「はい次は登る!」

「滑り台を登るのー?」

「そうよ! 思いっきり駆け上がってきなさい!」

「はいたーい!!」

さすがこういう身体を動かすことは得意なたては。

あっという間に滑り台を駆けあがり、そしてまた滑る。

「でーじたーのしー!」

「さすが肉体労働担当……」

「せせりだって負けてられない! いっきまー!」

負けず嫌いのせせりも勇んで滑り台を駆けあがった。

「ったく、仕方ないな……」

その後をしじみも追いかけ、滑り台を駆けあがる。

それを何度か繰り返す内、最初に根をあげたのはしじみだった。

「やっべ、もう無理……っ!」

「さすが引きこもり担当だね」

「誰が引きこもりだ!」

「足が疲れたら腕を使う!」

あげは先生が指で示したそこには、二本の綱が垂れ下がっている。

もちろん、あげは先生が用意したわけではなく備え付けのやつだ。

普通はこの綱が垂れ下がっているところから登る。

それか反対側にある出っ張りのところから登るのだ。

「へぇーい……」

力のない声を上げ、しじみはトボトボと綱へと手をかける。


挿絵(By みてみん)


「さーってそれじゃあ次の特訓行くわよ」

「まだやるのぉ~?」

「だから飲み物もおごってあげたでしょ」

あげは先生の言う通り、せせり達3人の手にはペットボトル。

運動をしたら水分補給は大切なのだ。

「今度は派手に身体を動かす特訓じゃないわ。そのかわりかなりの集中力が必要になるけどね。あと、人によっては度胸も」

「集中とかたてはの一番苦手なやつさー!」

「だろうな」

「ということで次の特訓は集中力と度胸! 虫探しの時間よ!」

「えっと……虫を、探すのかな?」

「その通り! これだけ自然に溢れたこの公園なら色んな虫がいるでしょう。それを探す特訓よ!」

人によっては度胸も試される。

それはそういうことだった。

「あげは先生、さっきの特訓は体力増強というわかりやすい理由もあり納得できました。ですが、虫探しは何の特訓になるんですか?」

「集中力ってだけだと納得しなさそうね。これはあなた達の能力イルゼを伸ばす特訓でもあるのよ」

「イルゼをですか?」

「そもそもイルゼっていうのがどういう能力なのか聞いてるかしら?」

「せせりは純粋さのことだって聞いたけど」

「そうね。それはある意味間違いではないけれど――もっと詳しく教えてもらった人は?」

あげはの問いにしじみが静かに手を挙げる。

「普通の人では干渉できない存在に干渉する能力だと聞きましたが」

それはハイビスカス少女隊に誘われた時に教えてもらったこと。

「そう。イルゼっていうのは幻想。いつの間にか人々が忘れてしまった存在――妖精だとか悪霊マジムンだとか神だとかそういう存在を認識して、触れることができる能力がイルゼなのよ」

「それってつまり、妖精とか神様っていうのが本当にいるってことなの……?」

「そもそもあなた達の戦っている3人娘。彼女たちは広義的にはマジムンと呼んでもいい存在でしょうね」

「普通の人ではあの3人組に干渉できない?」

しじみはずっと違和感を覚えていた。

あのイタズラ3人娘、悪事自体がそこまで大きいものではないということを除いても他のスーパーヒロインの標的にならないのはおかしいと。

「そ。そもそも倒せないのよ。あなた達みたいにイルゼ能力を持つ少女達以外にはね」

「ですが、それが虫探しとどうつながるんですか?」

「妖精や悪霊が人々に認知されないのは、存在するレイヤーが違うからなの。あの3人娘は意図的に存在を誇示しているから誰でも見ることはできるんだけど」

あげは先生は言葉を続ける。

「つまり普通、レイヤーの違う相手を認識するには視点をズラす必要があるわけね」

「視点をズラす、ですか」

「そのやり方が似てるのよ。虫を探すときと」

虫はその多くが外敵から身を守るため、周囲に溶け込むような姿をしている。

一見何もいないような場所でも、少し見方を変えるだけでその姿を発見できたりする。

そういう見方を変えるというのがこの特訓の理由だった。

「ということでさっそく探してきなさい!」

「虫なんて小学生の頃に探したっきりだよー」

「去年まで小学生だったろ」

「ていうかしじみちゃんは虫とか平気なの? ダメそうだけど」

「見るだけなら何とか……触るのは、試してみないとわからんな。せせりーは平気なのか?」

「もちろん! むしろ大好きだよ! スズメバチとか食べてみたい!」

「スズメバチって食べれるばー?」

「食べ物の話になるとすぐ飛びついてくるな……」

「セミは食べれるって聞いたばーよ! 捕まえて食べようやっさー」

「今の時期セミはまだいないよ……」

なんて言いあいながら必死に探すハイビスカス少女隊の3人。

「あらあら、楽しそうですねぇ~」

不意に聞き覚えのない声が聞こえ、せせりは顔を上げる。


挿絵(By みてみん)


「マリンカ! 久しぶりー!」

あげは先生が親しげに話しかけるのは、どこかおっとりとした雰囲気の女性。

大きめのサングラスをしているため目元はよくわからないが、それでも人の好さがにじみ出ていた。

「マリンカ……もしかして、マミンカ・マリンカ!?」

何かに気づいたしじみがマリンカと呼ばれた女性へ駆け寄る。

そしてせせりもその名前に聞き覚えがあった。

「もしかして、Aクラススーパーヒロインのマミンカ・マリンカっ!?」

そう彼女はこのオキナワ市を拠点とするスーパーヒロインの中でもトップクラスの知名度を誇るスーパーヒロイン、マミンカ・マリンカ。

本名、比嘉ひがまりか。

市内――いや、県内でも数少ない最上級(Aクラス)スーパーヒロインである。

「Aクラスってすごいばー?」

「あのミス・ファイアだってBランクなんだよ。マミンカさんはそれ以上なんだから!」

「いえいえ、ミス・ファイアさんはまだお若いですから。わたしは活動歴が長いからAランクになってしまっただけですしぃ」

「ほらほら、雑談は後後! さっさと虫を探してきなさい!」

「もしかして、あの子達が山中の新しいスーパーヒロインかしら?」

「そっ、あたし"達"の後輩になるわね」

「ん? もしかしてマミンカ・マリンカさんも山中出身なんですか?」

話をチラっと聞いたしじみがマリンカに尋ねた。

「ええ、私とあげはは同級生なんです~」

「あげは先生と同級生……ということはマミンカ・マリンカさんの年齢から考えれば――」

「ええい! 余計なこと言わない!! 余計なこと考えない!!」

「あげは先生は3じゅ――」

「いい加減にしなさい!」

その時不意に、爆発音が響き渡る。

「なになにっ!?」

せせりが周囲を見渡す。

だがそれより早く行動したのはマリンカだった。

スマホを手に一気に情報収集をしはじめる。

それと同時に、坂を――そして滑り台を駆けあがり音のした方をにらみつけた。

「体育館の方で煙が上がってますわ」

「事件かしら? とりあえず出撃するわよ。ハイビスカス少女隊!」

「うん!」

「諒解っ」

「やさ!」

運動公園内の体育館。

逃げ惑う人々の中心にそれはいた。

3mほどあるロボットが暴れており、そんな様子を呆然とした様子で眺めるイタズラ3人娘の姿だ。

「わ、3人娘!」

「お前らのしわざか!?」

何してる(ぬーそーがー)!?」

「き、来たわねハイビスカス少女隊!」

いつものように悪ぶってハイビスカス少女隊を迎えるイタズラ3人娘だがイマイチ歯切れが悪い。

「えっと……アレだ! 暴走ロボット大暴れで怖い怖い大作戦をこんなに早く嗅ぎ付けてくるなんて!」

「たすかる……じゃなくて、ナンテコッタ」

読者は薄々感づいてるかもしれないが実はこの3人娘、面白そうなロボットのおもちゃが手に入ったので遊ぼうとしたら暴走してしまって手が付けられなくなっていた!

「それじゃあ、あとは任せましたわ。ハイ――じゃなくて暴走ロボット!」

逃げろ(ひんぎれ)ー!」

「退散」

早速捨て台詞を残し逃走する3人娘。

暴走ロボット大暴れで怖い怖い大作戦とは言うが、一番怖い怖いなのはこの3人だったのだ!

実際、そのロボットは両手足を思いっ切り振り回し大暴れ。

近づくのもちょっと遠慮したい勢いだった。

「だ、だけどコッチにはAランクスーパーヒロインのマミンカ・マリンカが……」

せせりが顔を向けるがマリンカはその様子を見るとすぐに踵を返し、体育館を後にした。

「なんでー!?」

「ツィーチュカ、えっとだな。マミンカ・マリンカに……戦闘能力はない……」

そう無いのだ。

マリンカは特殊能力アウトノミアは愚か、体力身体能力並びに常人並み。

長年スーパーヒロインを続けたことで同年代の女性よりは体力があるかもしれないがそれだけ。

「え、じゃあなんでAランクなの!?」

「そもそもスーパーヒロインのランクっていうのは活動支援金の金額を決めるための区分というか、戦闘力じゃないというか……」

「じゃああの人何ができるの!?」

「このロボット、でーじパワフルさー!」

なんて会話をしている間、1人勇猛果敢にロボットに向かっていくたてはだが以外にも相手が強い。

「あったーらどこでこんなの手に入れたばー!?」

明らかにおもちゃとしてはオーバースペック。

そもそも、3mにもなるロボットのおもちゃなど普通に売ってるものでもない。

「ったく、アイツらって変に技術力の高いアイテム出してくることあるよな!」

「この前の氷人製造機とかもだよね……」

「ミス・ファイアとか助けに来てくれたらでーじ楽なのにー」

なんてボヤいたたてはの顔を温かい輝きが照らした。

瞬間、一気に弾けた炎。

そう――

「「「ミス・ファイア!!」」」

「さぁ、さっさと片付けるわよ!」

ミス・ファイアの両腕に炎が灯り、熱波が暴走ロボットに放たれる。

どういう材質でできているのか、装甲自体は熱が効いてる感触はない。

「けど、中身はどうかしら?」

あくまで装甲はだ。

機体が熱され、そのコンピューターが危険を察知する。

そしてやがてオーバーヒートし――その動きを止めた。

「ミス・ファイアさん! どうしてここに?」

「マミンカに呼ばれたのよ」

「そう。それがマミンカ・マリンカの役割ってことだ」

気付けば周囲に人々は綺麗さっぱりおらず、体育館の周囲もバリケードのようなもので囲まれていた。

それはマミンカ・マリンカが人々を統率して作ったもの。

「わたしには戦闘能力はありませんが、人々の混乱を沈め、力になれそうなスーパーヒロインを呼ぶことはできます」

マリンカはすぐに巻き込まれた人々の避難誘導に向かい、その中から冷静な若者と共に被害が大きくならないようにバリケードを作成。

さらにはSNSを利用し事件の情報を拡散し注意喚起をすると共に最寄りのスーパーヒロインに応援を要請したのだ。

その統率力とコネクション、状況判断能力からついた愛称こそが「お母さん(マミンカ)」。

彼女こそオキナワ市内のスーパーヒロインを統率する母なのだ。

「騒ぎも収まったようですし、わたしは失礼しますね。子どものお迎えに行かないと」

そうにこやかに微笑むとマリンカはその場を後にする。

「マミンカ・マリンカさんって子どもいるんだ……」

「シングルマザーなのは有名だろ。子育てブログだって人気だしな」

「そうなんだ。動画配信してるのは知ってたけど」

「うーん、いっぱい運動したさー。おなかすいたばーよ」

「だからよー。なにか食べにいこうよ」

「この近くに何か店があったか探してみるか……」

「わ、皿が回ってる」

「レドームな」

「やっけー便利さー!」

「便利だぞ」

「それでもちろん、あげは先生がおごってくれるんだよね……?」

「何でよ!?」

結局おごってもらった。

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