第36話:蓼食う虫も好き好き
「浮かせてぇーなぁ。浮かせてぇよ……」
「ガチャの経費?」
「決まってるだろ! アーマーだよアーマー!!」
放課後。
ハイビスカス少女隊の待機部屋ではいつものように実のない雑談が繰り広げられていた。
「しじみちゃんのアーマーは浮くじゃん。最近使ってないから名前忘れたけど」
「オストな。ああいうのじゃなくて、ギアみたいに常に浮かせときたいんだよ!」
「ギアって何?」
「あるだろほら。ショットギアとかクロスギアとかトップスボトムス……」
「ヘアアクセ!」
「コーデチェンジじゃないぞ。いや、着せ替え要素あるけど……」
「ゲームの話してるばー?」
「そうだな。ゲームに出てくるアーマーがカッコよくてオレもこういうの欲しいなーって思ったわけさ」
「あー、なるほどねー。しじみちゃんってすぐ好きなゲームの影響受けるよねぇ。浅はかだよ」
「せせりーに言われたくねーな……」
「たてはから見たらどっちもどっちなワケさ」
「とにかく、オレはハイビスカスアーマーのデザインを一新してやるぜ!」
「そんなことできるの?」
「ハイビスカスアーマーっていうのは一種のホログラムみたいなもんなんだ。そのデータはこのプペンの中に収められてる。それをいじればデザインも変えられるってわけだ」
プペンとはハイビスカス少女隊の3人が肌身離さず持っているペンダントのようなものだ。
蕾という名の通り、花のつぼみのようなデザインをしている。
「よくわかんないけどがんばってね」
「おう」
タブレットをいじり、何やら試行錯誤をはじめるしじみをよそにせせりはマンガを読み始める。
「今日はパトロール行かないわけ?」
「すずめちゃんもいないしいいでしょ」
「あい、ずーめーはどうしたばー?」
「ミリエとナハに行くってさ」
「えー、つまらーん」
ぐでっとたてはが机に伏せた時、タブレットに着信がくる。
「ハイビスカス少女隊出撃なわけさ!!」
「行くよ!」
「おう」
きんりん公園という愛称で呼ばれる某公園。
そこにイタズラ3人娘の姿があった。
「今回の作戦はオキナワに雪が降る大作戦と名付けたわ」
「おお、まるでクリスマスファンタジーだね!」
「12月だし……」
そんな3人の背後には巨大な機械。
それを使って雪を降らせるという。
「それでは行くわよ。スイッチョン!」
瞬間、機械の上部から放たれる謎の閃光。
そして空に雲がかかり――バスケットボール大の雹(?)が1個落下した。
「……雪?」
「クリスマスファンタジーだって溶けかけのかき氷みたいな雪が降るじゃない。それと同じようなものよ」
「みぞれと雹はまた違う気が……」
「霰ならたまに降るしねー」
「とりあえず! これで雪を降らせれば大混乱は間違いないわ!」
「それはそうだね!」
「間違いない」
「「「そこまでだ!!!」」」
「来たわね」
「「「ハイビスカス少女隊、登場!」」」
「おじーおばーのゲートボールを邪魔して何してるの!?」
「ふふふ。見ての通り、オキナワに雪が降る大作戦よ!」
「雪?」
イタズラ3人娘の背後に見える、巨大な氷の塊を見てせせりは首をかしげる。
「あんなん降らされたら大混乱とかそういうレベルじゃねーぞ!!」
「だからよー! でーじよ!!」
「ふっ、止めたければ私達を倒してみなさい! ……ところで」
堂の入った悪役ムーブでカッコつけるネジェストだが、ふと何か気付いた。
「ミスレシュカだけいつもとアーマーが違うようですけど……」
「カッコいいだろー」
胸を張るしじみの背後で宙に浮かぶアーマーの一部。
「何で浮いてんの?」
「不安感すごい……」
「超未来って感じするだろ?」
イタズラ3人娘は当然ながら、ハイビスカス少女隊の2人もこのしじみのアーマーを見たのは初めて。
「その後ろのってちゃんとついて来てくれるの……?」
「ズレとかあったら気持ち悪いわけさー!」
なので味方からも不安の声が上がる。
「うるせー、いいから見てろ! トップススキル発動!!」
瞬間、しじみの背後で浮遊するアーマーのヘッドライトが点灯した。
それと同時に放たれる幻想弾の連撃。
「ビート・スパイラル・ビート!!」
「きゃっ、危ないですね……っ」
「いつもみたいに杖は使わないんだね!」
「いつもの杖もあるぜ!」
そう言いながら取り出したスプリームトリスメギストスの先端が開き、イルゼの刃を纏う。
「変形機能までつけてる……」
「だからよー」
以前もスプリームトリスメギストスを斧のように使ったことはあったが、変形までするのは初だ。
「カッコいいだろうが!」
「私達も負けてはいられません。プシェジター、降雪機の出力を最大に!」
「チャージまで時間がかかる」
「構わないわ」
「わかった……」
プシェジターが聳える降雪機(?)のスイッチを押すと、明らかに何かをチャージしていますとでも言うような電子音が響く。
「あの機械を止めなきゃ! 行くよ!!」
「おう!」
「たっぴらかす!」
せせりに続き、しじみ、たてはは降雪機に向かって走り出した。
それを妨害するイタズラ3人娘。
せせりの刀とネジェストの剣が交じり合い、しじみの幻想弾とプシェジターの霊力弾が弾け合い、たてはの拳とネスミスルの脚がぶつかり合う。
「オキナワの平和のためなら、負けない!」
「ちょっと待ちなさい」
ふとネジェストはあることに気付く。
「どーしたの?」
「アナタ、その刀の持ち方……ふざけてるの?」
「刀の持ち方って?」
「逆じゃない! 刃が上向き!!」
そう。
ネジェストの指摘通り、何故かせせりはバーベナストレートを逆に持っていた。
「元からこうだよ?」
「嘘つかない! 一体どういう了見なのかしら?」
「不殺の誓いだよ。わたしのバーベナストレートを返させないでよね! 酷いことになるよ!」
「意味がわからないわ!」
「あー、流浪人のヤツのだね! 知ってる知ってる」
「ネスミスル……そういうの、好きなんだ」
「てかそれオレが貸したマンガのヤツじゃねーか!」
「だあるばー?」
「だあるわけ。刀を使った技の参考にいいものないか聞かれたから貸してやったの!」
「ツィーチュカすぐ影響受けるさー!」
「むー、違うもん! 影響とかじゃないもん! なんていうの? マジリスペクト?」
「ついでに言うとだな、ハイビスカスアーマーは元からリミッター付いてるし刀を逆向きにした所でダメージはそんな変わらねーぞ」
「…………え、まぢ?」
「マヂ。ただ単にツィーチュカが使い辛いだけだ」
しじみの言葉にせせりの手が止まる。
それを待つようにネジェストの手も止まる。
しばらくの沈黙の後――
「バーベナストレートを返した!」
そっとバーベナストレートを普通の持ち方に戻した。
「うるさいうるさいうるさい! もう、わたしの本気、見せちゃうから!」
身を低くしてバーベナストレートを構える。
「全集中! アイドルの呼吸!!」
「アイドル?」
「どこかで聞いたことあるフレーズさー」
つっこみもよそにせせりの瞳は真っ直ぐだ。
「ツィーチュカ、そのままあの機械を狙え! お前ならできる!」
「だある! 3人はわったーがなんとかするわけさ!」
せせりの言動は問題だらけだが、こうなったせせりを止められないのは2人ともよくわかっていた。
この爆発力があれば今回の戦いは勝ったも同然。
「ふるえるぞハート! 燃えつきるほどヒート!!」
「やる気があるのはわかるが色々混ざりすぎてて意味ワカランことになってっぞ!!」
「スターライト・ハートビート!!」
一撃の閃きが、一瞬にして数を増し――無数の流星群となり、降雪機を貫いた。
「おやりになるわね……撤退よ!」
「ひんぎれー!!」
「れー」
逃げ去るイタズラ3人娘を見送り、機械の後処理へ向かう。
「にしても最近、3人娘が持ってくる機械ちょっと物騒だよな」
「元からこんな感じじゃないの? 確かに氷の塊はヤバそうだったけどさ」
「かなぁ……」
「あったーのやることをあまり気にしても仕方ないわけさ」
「だな」
市内某所。
「また失敗したんだ」
「ハイビスカス少女隊は私達の宿敵――こうでなくては」
「ふふ、そうだね。ボクもあの子達のことは嫌いじゃないよ」
「…………っ」
「さすがにそろそろボクが怒ると思った? ふふふ、いいよ。それでいい。キミ達がそれでいいならボクが動くだけだからね」
「ゲイザー。あなたは一体何を考えてるんですか?」
「楽しい事さ」




