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第33話:明日から始めるヒロイン生活

「ヴィラネスの情報、いろいろ出てますねー」

ハイビスカス少女隊の待機室でタブレットで情報を集める女子生徒が1人。

それはハイビスカス少女隊のマネージャーである竹内すずめ、その人だった。

マネージャーとして必死にがんばる彼女だが、実は密かな思いがある。

「私もスーパーヒロインになれたらなぁ」

そう、すずめの常々の想いはそれだった。

自分もハイビスカス少女隊やサクマドンナーのようにスーパーヒロインになりたい!

それはよくある憧れであると同時に、ハイビスカス少女隊の力になりたいという真っ直ぐな気持ちもあったのだろう。

そしてそういう純粋な気持ちは時として悪者ヴィラネスに利用されることもあるのだ。

「スーパーヒロイン勉強会、ですか……?」

「その通りです! やはり時代は大ヒロイン時代! そんな時代に置いて行かれたくないですよね?」

「そう、ですね……」

「そこで私たち白百合学会はこんな本を出版しました! 明日から始めるヒロイン生活!!」

「は、はぁ……」

正直な話、胡散臭い。

セールストークを繰り広げるのは黒髪で巫女服のような衣装を着こんだ女性、ユリ・ホワイティア。

道に迷っているところをすずめが手助けしたところ、気が付けばこんな営業トークを聞く羽目になっていた。

挿絵(By みてみん)

「自費出版でこの大ボリュームですし、本来であればかなりのお値段をするこちらの本なんですが……なんと今回は助けてもらった恩もありますしなんとタダでお譲りしちゃいます!」

「タダですか」

「その通りです! この本には私が集めに集めたスーパーヒロインとしての知識を詰め込んでいます! 一度読んでもらえれば、私達のスーパーヒロイン育成事業に興味を持ってもらえると思いますよ」

その日はそんな会話を交えた後、別れただけだった。

帰り際、すずめは手に持ったスマホでその名を検索するが何の情報もヒットしない。

それをさらに怪しいと思うのか、悪評がないと取るかは難しいところだ。

「まぁ、タダだし……」

そう思いながらすずめはユリからもらった本をめくる。

その本は確かにクオリティが高い。

日本各地のスーパーヒロインとその能力、活躍がまとめられている。

有名な外国人ヒロインももちろん、その出自オリジンも丁寧にまとめられていた。

「明日からできるスーパーヒロイン入門……」

そう題されたコラムページにはなんてことない小さな善行と、それをやることで人生が変わったとなどというインタビューが載っている。

丁寧に作られたその本、本当ならかなりの値段がするとは言っていたユリの言葉の意味がよくわかった。

それと同時にユリのスーパーヒロインに対する熱心さがよく伝わってくる。

「話くらい聞いてあげてもよかったかな」

ふとそんな言葉が口をつく。

だがそれが間違いだった。

「わぁ嬉しいです! ちゃんと読んでくださったんですね!!」

「はい。すごかったです。すっごく丁寧に作られてて」

「スーパーヒロインに対する情熱は私も貴女も同じです! 貴女もなりたいんですよね、スーパーヒロイン!」

「はい! 私もスーパーヒロインになってハイビスカス少女隊やサクマドンナーの力になりたいです!!」「今話題の新人ヒロイン達ですね! 年も近しいみたいですしいい目標です。では早速ヒロイン活動をしていきましょう!!」

「はい!!」

それからユリの元でスーパーヒロインになるための特訓と称した様々なことが繰り広げられる。

「まずはこのビラを配ってもらいましょう!」

「えっとこれって……」

「はい配る! 元気よく挨拶しながら配る! たくさん配れば私の報--スーパーヒロインに近づける!!」

「が、がんばりますっ」

「配り終わりましたね! では次はアルミ缶拾いです!」

「ゴミ拾いじゃなくてですか?」

「アルミ缶です! たくさん拾っていきましょう!」

「は、はいっ!」

そういう慈善事業(?)からはじまり、やがてユリはこんなことを言い出す。

「スーパーヒロインに大事なものと言えばなんだと思いますか?」

こころざし……?」

「それも大事! ですがもっと形から入りましょう!」

「形――まさか、コスチューム!!」

「その通りでございます! ですけどコスチュームを作るのにもお金がかかりますよね」

「そうですね。ちゃんと作ろうと思えばそれだけかかりますからね」

「なのでまずは積み立て――ということでどうでしょう500円から!」

「払うんですか?」

「はい! 我が白百合学会の粋を集めたコスチューム製作チームに最高のスーツを開発してもらいます! 手始めに500円をと」

「そういうのもあるんですね」

「その通り! 本来であれば数十万円の費用が必要となるんですが、初回費用として500円。それから毎週1000円払っていただければすぐにコスチュームをご用意できるというシステムになってます!」

「すぐにっていうことは……」

「はい! 500円いただければすぐにスーツの開発に着手させていただきます。少ないお小遣いでも安心の白百合式割賦(かっぷ)制度となっております!」

「へぇ……一度に大金を払わなくてもいいんですね」

「その通り! 更にコスチューム代の一部を残価として残すことで、コスチューム変更をしたくなった時にその価格を下取り価格として補償するという優良なシステムですよ!」

「よくわからないですけどアップグレードもしやすいってことですよね」

「その通り! 今時の技術躍進はめまぐるしいですからね!」

「それじゃあお願いします!」

それからもユリの手伝いをしたりお金を払ったりしてしばらくの期間がたった。

「お金が――ないっ!!」

すずめは財布を開くとため息をつく。

「どうしましたの?」

ハイビスカス少女隊の待機室。

すずめとサクマドンナは2人、他愛ない雑談をしていた。

「最近金欠なんですよ」

「珍しいですわね。おバカ3人組と違ってそういうのはしっかりしてそうですのに」

「おバカ3人組って?」

「あれさ、イタズラ3人娘のことさー!」

「白々しいですわね」

「オレはちゃんと計画的に散財してるぞ」

「つい最近もゴッホ引くってお小遣い全部ぶち込んでたくせに……」

「うるせー」

ところどころ首を突っ込んでくる"おバカ3人組"をよそにすずめは苦笑いをする。

「あはは、最近ちょっと、いろいろあって……」

「そういえばボランティアを精力的にやってらっしゃるようですわね」

「ああ、あれは――まぁ」

別に悪いことをしているわけではないのだが、なんだかうまく言葉を紡げない。

どこかどぎまぎとしたすずめの表情をサクマドンナは静かに見据える。

「そういえば、この辺りで巫女装束(しょうぞく)の怪しい女性を見かけましたわね」

「巫女装束、ですか……?」

「わたくしに変な本を売りつけようとしてきたのですわ。確か――そう、億万長者になる本、みたいな」

「サクマドンナには必要ねーだろな」

「だからよー!」

「ええ。他にも怪しい本や、ねずみ講まがいの商法を勧めてきたりしてましたわね」

「ねずみ講ってなんか悪いことだよねー」

「そいつ詐欺師じゃね?」

「だあるば?」

「そうよ。まず間違いなく詐欺師、でしょうね」

「詐欺師……」

すずめに悪寒が走る。

「すずめさんは何か、ご存じないかしら?」

すずめの震える手にサクマドンナの手が重なった。

今まであった出来事をすずめはサクマドンナへと話す。

ユリとの出会い。

スーパーヒロインになるために一緒にボランティア活動をしていたこと。

そしてコスチュームを作成するためにお金を払ったこと。

「なるほどですわ。聞いていた話と違いなく一致……白百合教団のユリ・ホワイティアですわね」

「何か知ってるんですか?」

「ええ。奇妙なシスターに相談されたのですわ」

「それはそれで怪しいけど……」

「わたくしも怪しんではいたのですわ。ですがすずめさんの話を聞いて確信しました」

「その巫女が悪者ってことか……」

「つまり、ずーめーが騙されてたばー?」

「そうなりますわね」

「そんな……ユリさんが、私を…………」

「一先ずそのシスターに連絡をしてみますわ」

「ご連絡ありがとうございます!」

さすがに学内で会うのはまずいということで場所は近場のショッピングモール。

「ボクはアルモニカ・ランパールと申します!」

修道服を身にまとったその人物はそう名乗った。

挿絵(By みてみん)

「ユリ・ホワイティア。この女性で間違いないですか?」

アルモニカがすずめに冊子を手渡す。

そこにはユリの顔写真と今まで行った詐欺の全容が書かれていた。

白百合教団という団体を組織し、怪しげなツボや本を売りつけたり、神社を自前で建立しお賽銭をもらおうとしたことだったり、アイドルグループを組織してファンからお金を搾り取ろうとしたことだったり……。

「けどさ、こういう事件があったって割にはネットで調べても出てこねーぞ」

「皆さんは異世界って信じますか?」

「なにこれ。また別の勧誘?」

せせりのつっこみにアルモニカは首を横に振る。

「違う違う。実はボクも、そしてこのユリ・ホワイティアも別の世界の住人なんです!」

「アスガルドみてーな?」

「そう思ってくれてもいいかな。あらゆる世界の中心にあるともいわれている世界ファーニアー。それがボクたちの暮らす世界なんです」

「ファーニアーって聞いたことあるような……」

「アレだ。妖精の島でヒミコってヤツが言ってたぞ」

「だある。歩く爆弾にファーニアーに帰れって言ってたさー」

「もしかしてサヤちゃん達の知り合いかな? それなら話は早いです! ボクはサヤちゃんの――まぁ同僚みたいなものなんです!」

「わたくし達には与り知らないことですけどこれで確定でしょう。ユリ・ホワイティアが悪人だということは」

「それは……ですけど、その、ユリさんとちゃんと話をしてみたいです。みんな、いいですか……?」

そしてその後のある日。

すずめとユリは2人、いつものようにショッピングモールで顔を合わせていた。

「どうしたんですかすずめさん。その恰好」

その日、すずめの恰好はいつもとは違っていた。

星形をかたどったマスクに、どことなく安っぽい衣装。

それは以前、せせりが激レアヒロインSSRと名乗っていた時のコスチュームにアレンジを加えたものだった。

「友だちから譲ってもらったヒロインコスチュームです」

正確にはせせりに押し付けられたが正しいだろうか。

スーパーヒロインとして悪者であるユリとの因縁に決着をつけるための正装。

そういわれてせせりから2代目SSRの名を襲名されたのだった。

「それでユリさん。話があります」

「話、ですか?」

「私のコスチュームを作ってくれるという話、どれくらい進んでいますか?」

「あ、あれはですねー、やっぱり良いスーツを作るにはいい素材が必要になる。いい素材を集めるにはそれなりに時間がかかるってことで進捗しんちょくがですねぇ」

「どれくらいかかりそうですか?」

「うーん、1か月……いや2か月……半年くらいはちょっと待つかもしれないですね」

「完成は仕方ないですけど、型紙とか見れたりしないんですか?」

「型紙ぃ!? えっと、いや、ほら、そこはプロ集団にお任せしてて……」

「ユリさんが詐欺師って本当ですか!?」

「ひぇいっ!? だ、誰からそれを……?」

「アルモニカさんからです」

「アルモちゃんこっち来てんの!? いや、ほら、あんな怪しいシスターの話とか信じられます!?」

「あなたも大概ですよね」

「そう言われたら、返す言葉もないけど、ね?」

「あなたの今までやってきた詐欺のことも聞きました。それに私がやっていたボランティア――あれもあなたが引き受けたバイトを私にさせてたらしいじゃないですか」

それはまた後の調査で分かったことだった。

「えっと、その、あれはですね……」

「詐欺じゃないと言うのなら、ちゃんとその証拠を出してください! 誠心誠意の言葉で私を納得させてください!」

「えーい、世の中は弱肉強食!! 騙される方が悪いのよ!」

突如として逆上するように構えをとるユリ。

「大体、異能力アウトノミアも技術力もお金もないあなたがスーパーヒロインになるなんて無謀でしょ! それに少しでも希望を与えてあげたんです! むしろ感謝してもらいたいですね!」

「私は、あなたを許しません!!」

「やれるものならやってみなさい! 戦うすべもない一般人が魔術使である私に勝てますか!?」

「戦うすべがないですって? それは――どうかしら」

それはサクマドンナの声。

すずめはキッとユリをにらむと、サクマドンナから託されたそれを構えた。

「すずめさん、あなたの手で決着を!!」

「はいっ! オメガスロープ!!」

挿絵(By みてみん)

サクマハンマーから放たれた雷撃。

その一撃はユリの体を痺れさせ、動けなくした。

「も、申し訳ございません……」

謝罪の言葉を最後に延べ、ユリは気を失ったのだった。

「ご協力ありがとうございます」

大型のバイクの荷台にユリを縛り付け、にこやかに笑みを浮かべるアルモニカをすずめとサクマドンナ、そしてハイビスカス少女隊の5人は見送る。

「お金がちゃんと帰ってきてよかったですわね」

「はい。あの人、変なところで律儀というか真面目というかそういう人ですからね……なんで詐欺師なんか」

「ですけどああいうタイプは凝りませんわよ」

「ですね。けど、私も少し見習ってみようかなって思います」

「見習うって?」

「私もスーパーヒロインやって行きます! もちろん、ヴィラネスと戦うとかそういうのは無理だけど……ゴミ拾いしたり、困ってる人を助けたり……」

「衣装はそんなボロ着でよくって?」

「ボロ着って言わないでよ! わたしが一生懸命心をこめてつくったのにー!!」

「あはは、そうですね。2代目激レアヒロインSSRとして頑張っていきますよ」


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