第32話:公権力の犬になります!
「今日もせせりちゃんいませんね」
とある放課後。
すずめがそんな言葉を口にした。
「せせりー最近、生徒会の手伝いしてるみたいなんだよな」
「そうなんですか」
「前かられいな先輩の手伝いはよくやってたわけさ」
「それは知ってますけど……」
せせりが生徒会長である透翅羽れいなに懐いているのは周知の事実。
以前から手伝いにもよく行っていたのだがここ最近はさらに力が入っていた。
「生徒会長の座でも狙ってんのかね」
「だある。そういえばせせりー、クラス委員になろうとしてたさー!」
その座をサクマドンナに奪われた過去を知る2人には生徒会長になる為に好感度上げをしているようにしか見えない。
「最悪、出撃ある時に来てくれればそれでいいけどな」
「呑気ですねぇ」
なんていつも通りのんびりした待機時間を過ごすしじみやたてはに反してせせりは忙しなく動き回っていた。
「れいな会長! つぎは何を致しましょうか!?」
「え、えっと……そこのプリントを職員室に持っていってくれるかしら?」
「はいっ!!!」
キンとせせりの声が生徒会室に響く。
元気よく飛び出して行ったせせりが見えなくなってから、れいなは「はぁ」とため息をついた。
「最近よく来るね……」
室内にいた桑古ふみがいつもの調子で呟く。
「手伝ってくれるのは嬉しいんですけど……」
「なんかすっごい一生懸命だよね」
「私ももう引退ですからね。それで最後に一緒に頑張りたいって言ってたわ」
「なるほど……。でも……」
「ええ。ブラック過ぎるわね」
陽も沈みかけて来た頃。
「そろそろ帰りましょうか」
「待って、まだ部屋の掃除が終わってないから!」
「そう毎日隅々まで掃除しなくても……」
「ダメですよ! いつも使わせてもらっている部屋なんだもん! ちゃんと綺麗にしやきゃ!」
「もう十分綺麗ですから……」
「まだちょっと埃がたまってるもん!」
「1日経てばそれくらいはたまりますよ」
「だから掃除してあげなきゃ!」
いつも生徒会室ではそのようなやり取りが繰り広げられている。
せせりの熱心すぎる活動はそれだけではない。
朝。
れいなの日課は校門前の掃除なのだが、当然せせりもその手伝いをすることになる。
それはいいのだが、ついでにせせりは登校してくる生徒たちのチェックまではじめていた。
往々にして学校には校則というものがある。
今時、そこまで厳しく取り締まることはないものの、それでも最低限の基準というものは当然この学校でも存在した。
その最たるものは女子生徒であるならばスカート丈などがそれにあたる。
「はいちょっと短すぎー! 持ち物は? 変なのもってきてない!?」
そういうのをせせりは逐一チェックし、そう声をかけて回っていたのだ。
さすがに毎日毎日声をかけられては辟易するのは当たり前で多くの生徒からは不満も出ていた。
「一部では横抜けとかいうテクニックが使われているって聞いたね!」
そう笑うのは伊良我あきら。
「それは……」
「単純にせせりちゃんの目を盗んで登校するとか、グラウンド側から登校するとかそういうことだね」
中にはフェンスをよじ登っていくという生徒すら出ているらしい。
「熱心なのは構わないのですが、締め付けが過ぎるとそういう危ないことをしだす生徒も出てしまいますからね」
「だねー。あきらもフェンス飛び越えてきちゃったよ」
「そういうことはおやめなさい」
「いーじゃん、悪役なんだし」
「それはそうですが」
そして不満は生徒会内でも出てきていた。
先にふれたようにせせりは非常にブラックだ。
もっともそれを他人に課すようなことはないのだが、せせりのような1人ブラックな生徒がいるだけで他の生徒にも悪影響は出てくる。
例えばそう、先に帰りづらいとか。
「気にせず帰りなさい」
「えっと……会長は?」
「私ももう少しいます――が、気にしないでください」
そしてある意味一番被害を受けているのはれいな自身だったりもした。
「あの子、なんとかできませんか……」
そんなことが続き、ついにれいなも音を上げる。
「そうは言ってもなぁ。せせりーあーなったら梃子でも動かんしな」
れいなが相談したのは当然、いつも一緒につるんでいるしじみだ。
「せめて何か気を紛らわせられるようなものでもないんですか?」
「あいつ、一度やる気になったら飽きるまでは止まらないしな。ちょっとした餌くらいじゃ気を逸らせないですよ」
「……ふぅ、確かにそんな感じですね。そういうところが気に入っているところでもありますけど」
「会長も大変そうですもんね」
「まぁ、私はいいのよ。でも周りに影響が強すぎるのが問題ね」
「だな。せせりー、オレらでも容赦なくチェック入れてくるしなぁ」
「つまり結論としては……」
「嵐が過ぎるのを待つしかないですね」
さすがのしじみもお手上げのようだった。
そして熱心すぎる活動はついにヒロイン活動へも支障が出ることとなる。
「「ハイビスカス少女隊、参上!」」
いつものイタズラ3人娘との戦い――しかしその場にせせりの姿はなかった。
「来たねハイビスカス少女隊!!」
「お前らもこりねーな! 今日もオレたちが倒してやる!」
「あい、ネジェストはどーしたばー?」
ついでにネジェストの姿も……。
「今日はちょっと忙しいんだよね!」
「コッチと同じか……そんなに大切なことだったのか?」
「うーん、抜けようと思えば抜けられるかもしれないけど、ちょっと目を離せない子がいるみたいでさぁ」
「ふーん。まぁでもネジェストって結構面倒見よさそうだしな。ウチのツィーチュカとは大違いだぜ」
「だからよー。ツィーチュカは面倒みられるほうであるわけさ」
実際今まさにせせりの面倒を見るためにネジェストまでその場にいないとは思いようがない2人である。
「大変そうだねー。なんとかできたらいいけど」
「そっちだってな。どういう感じなんだ?」
「ちょっと一生懸命な新人がいてね。その子が空回り気味だからフォローするのに大変なんだって」
「あー、こっちは空回りしてる方だな。状況も似てるし、案外ここで解決策考えてみたらよさそうだな」
完全にいつもの雑談モードに入り、ついには4人そろって地面に腰を落ち着けた。
「議題はやる気が空回りしているやつをどうすればいいか、か……」
「正直難問だねー」
「だからよー」
「うん……思いつかない」
実際、ある程度の手はもうすでに尽くしたあとだった。
それでも言うことを聞かないからしじみもれいなに「待つしかない」と言ったのだ。
「4人食えばもんじゃの知恵っていうわけさ。なんとか絞り出すばーよ!」
「3人寄れば文殊の知恵、だね……人数は例えだからいいけど……」
「善意から動いてるからまた厄介なんだよなー」
「そうなんだよねー! 悪い子じゃないんだよ!」
「でもその善意がちょっと押し付けがまし過ぎるってかな」
「ちょっと嫌になっちゃうよねー」
「だある! かめーかめー攻撃するさー!」
「えっと……それってお年寄りとかが食べ物をたくさん食べさせようとする……あの?」
「なるほどな……ちょっといいこと思いついたぜ」
たてはの言葉にしじみはなにか思い付いたようだった。
その日はそのまま解散し、そして後日。
しじみの作戦が始まる。
「最近、出撃が少なくなってるけど大丈夫なの?」
「ああ平気平気。せせりー大変そうだろ? だからオレ達2人で回すことになったから」
「……え?」
「たては、パトロール行こうぜ! すずめちゃんも!」
「はいっ!」
なんて言いながら支度を整える3人にせせりはどこか不満そうだ。
「今日は空いてるからわたしも行くよ!」
「いやいや、気にすんなって。生徒会も毎日大変だろ? コッチはオレ達に任せとけって!」
「え、ちょっと……」
「せせりー、生徒会ちゃんとがんばれよ!」
「え、うん」
そして生徒会では――
「せせりさん、必要な書類が職員室にあります。もってきてもらいますか?」
「はい!」
「校内の見回り行きますよ」
「わかりました!!」
「整理整頓が甘いわ。次に使う時のことを考えて片付けなさい」
「は、はいっ!」
せせりは新しくハマったことには必死で頑張るが、別のことがおろそかになりがちという両極端さがある。
そういう時は、その新しくハマった方――今回は生徒会活動の方を極端にハードにすればいいのではないか?
そう考えた結果、しじみが考えた作戦。
「それこそが、せせりーシークレットリバース作戦!!!」
「なんだばーそれ」
「なんでもいいだろ」
とはいえ、しじみの作戦は功を奏する。
ハイビスカス少女隊のスーパーヒロイン活動に呼ばれなくなったことと、逆に生徒会の仕事を大量に頼まれた結果――
「せせりさん、今日も生徒会きますでしょう?」
「えっと……今日はほかに用事があるから行けないです」
「そうなの? それではまた次回」
「うん!」
「せせりー生徒会はもういいのか?」
「もう一杯お手伝いしたからね。ちゃんとヒロイン活動もやらなくちゃ!」
「さて、さっそく出撃だぜ」
「うん。ハイビスカス少女隊、出動!」
ちゃんとハイビスカス少女隊の活動も行うようになったのだった。




