第31話:異形を狩る者
光があれば影がある。
華々しく活躍するスーパーヒロイン達の裏で、夜に生き闇を狩る者たちがいる。
そして、光の元で営む人々がいれば闇の中でしか生きられない人ならざるモノもいる。
「鮮血嬢――何を考えてるの?」
木々の隙間を駆ける1人の少女。
細身の剣を構え見据える先の闇に潜むのは――。
「トリックオアトリート!」
10月31日。
今ではすっかりお馴染みとなったハロウィン。
もちろんせせり達ハイビスカス少女隊もそのイベントに便乗していた。
マミンカ・マリンカ主催のスーパーヒロイン関係者が集まるささやかなハロウィンパーティーにお呼ばれしたのだ。
見慣れたメンバーを尻目に、せせりは何となく会場の外へ出る。
夜空に輝く月は大きく、せせりの目を引いた。
不意にその光に影が差す。
「あれは……?」
「どうしたせせりー」
1人で空を見上げるせせりにしじみが声をかけた。
「何か……人が空を飛んでたような気がして」
「人が空を? スーパーヒロインかヴィラネスかなんかか?」
「わからないけど――ちょっと気になるから行ってみる」
思い立ったら行動。
せせりは一気に駆けだすと人影が消えたであろう先へ向かう。
「せせりー!」
「楽しそうなことしてるさー!」
せせりを追いかけるしじみを見て、たてはまでついてきた。
「何があったばー?」
「人が空を飛んでたんだよ!」
「あぎじゃびよい! フライングヒューマノイドさー!」
「人が飛ぶって言われてもなぁ」
「しじみちゃん、近くに怪しい人がいないか探知して!」
「ったく、しゃーねーな。ハイビスカスアーマー、オンっ」
しじみのハイビスカスアーマー、ブルーソーサラー595の強力な探知能力を利用して奇妙な動きをする人間を探知する。
「なんだ……?」
走りながら周囲をスキャン。
その中でしじみは気になる反応をキャッチした。
「あぶないっ!」
裏道に入ろうとしたその時、1人の少女とぶつかりそうになる。
「大丈夫だった? ケガはない?」
「別に」
心配そうに少女の顔を覗き込むせせり。
それに対して少女はどこか冷たい眼差しでぶっきらぼうに呟いた。
「っていうかこんな時間に1人?」
「歳いくつだ? 見た感じ小学生っぽいけど……」
「さすがにこんな時間に1人は危険なわけさー!」
「心配ない。私に構わないで」
「名前は? 学校どこ?」
「だから――」
「ダメだよ! さすがにスーパーヒロインとして子ども1人で夜道を歩いているのを見過ごせないもん!」
「はぁ……」
一生懸命なせせりに少女は深くため息をつく。
「いい加減にして」
何気ない一言と共に、少女の瞳に危険の輝きが灯った。
滲み出る殺気。
それは普通の人間であれば――いや、普通の人間であっても恐怖に震え身体が動かなくなってもおかしくない。
「ぶっきらぼうなヤツだな。イマドキの小学生ってヤツか?」
だが――ハイビスカス少女隊には効かなかった!
そう、彼女たちは――鈍感すぎるのだ!!
「心配することないさー! わったーにまかちょーけー!」
「コイツら……殺すわよ」
更に少女の纏う殺気が強まる。
せせりと少女の目と目が合う。
「ダメだよそんなこと言ったら」
「ふわふわ言葉を使おうぜ」
「だあるー!」
「マジで――ブチ殺す!!!!」
さすがに我慢の限界か。
少女の周囲から噴き出す鮮血のような赤いオーラ。
そのオーラを一薙ぎ――せせりの背後にあった鉄製の戸が砕かれ、落ちた。
「うわ、ビックリした!!」
「老朽化か? 結構ボロボロだし」
「でーじよ!!」
「だぁあああああもう、いい加減にして!! さっきからずっと殺気を飛ばしてるのに全く効かないし何なのアンタ達!? 莫迦なの!?」
少女はまさに鬼のような形相で怒りを露にする。
「アンタ達スーパーヒロインなら鮮血嬢の名を聞いた事ないの!? 真祖すら殺した残虐非道の吸血鬼の名を!!」
「吸血鬼のコスプレなんだー」
「設定もわりと練られてるんだな。すごいぜ」
「しにかっこいいさー!」
「マジで殺す!!!!」
鮮血嬢を名乗る少女は両手の指にオーラを纏うと、強力な爪撃を振り下ろす。
それはせせり達に命中こそしなかったがアスファルトの地面を抉り、傷をつけた。
さすがにその一撃にはせせりもしじみもたてはも危険を感じる。
「この力――まさか本当に!?」
「なんだ今の一撃! 小学生の力じゃねーぞ!!!」
「ビビったぁー!!!」
「これでわかったでしょ? 鮮血嬢の力を!! さぁ、どうする? 逃げる? 狩る?」
「家まで連れて帰る!!!!」
「ざっけんな!!!!」
「吸血鬼だって家くらいあるだろ」
「わたしはトーキョーから来たのよ!? コッチに家があるわけないじゃない!!」
「旅行だばー? ホテルはー?」
「吸血鬼がホテルを取るわけないでしょ!!!」
「じゃあ野宿なんだ。うち来る?」
「なんでそうなるの!!?? さっきも言ったけど、わたしは残虐非道で極悪な血にまみれた吸血鬼なのよ!!」
「なんか極悪って感じはしないし……」
鮮血嬢もどうしたらいいのかわからない中、不意に風切り音が響いた。
とっさに身を翻す鮮血嬢。
地面に突き刺さったのは、どこかクナイのようにも見える刃。
「そこのコスプレイヤー達、彼女から離れなさい」
「うわ、新しいコスプレ出た」
「なんだその服。代行者か?」
「代行者ってなんだばー?」
シンプルながらどこか奇妙な衣装を身に纏い、その手には細身の剣を持つ少女。
「私はフリュッセ。要件は後。そこの少女の傍から離れなさい」
「何なのあなたは!」
「執行人」
間髪入れずにフリュッセの刃が鮮血嬢に伸びる。
響き渡る金属音。
それはフリュッセの一撃をせせりがバーベナストレートで受け止めた音だ。
「真剣……? いえ、霊力刀? あなた達は一体――」
「わたし達はオキナワ市の平和を守るスーパーヒロイン!」
「「「ハイビスカス少女隊!!!」」」
「スーパーヒロイン……正義の味方というやつですか。それなら彼女こそ倒す相手ではないのですか?」
「でもその子、悪い感じしないもん!」
せせりの言葉にフリュッセは目を見開く。
「その子、ウザいでしょ? 本当わたしのことを何もわかっていない。アナタからも言ってあげてよ」
「そもそもなんでフリュッセさんは鮮血嬢ちゃんを殺さないといけないの?」
「過ちを清算する為に」
「よし、大体わかった。執行人は吸血鬼を殺さないといけない。だからここまで来た。ならだ、吸血鬼はなんでオキナワまで来たんだ?」
「だからよ! トーキョーから来たって言ってたさー!」
鮮血嬢は口元を歪める。
それは真意を口に出すことが屈辱とでも言いたげな表情だ。
「待て――変な感じがする」
ふとしじみがそんなことをつぶやく。
「変な感じって?」
「そこの吸血鬼と最初に出会った時と同じような感じだ」
「!! まさか――仮葬屋」
「やはりあなたは――」
「アンタ、探知系の能力使いね。教えなさい。そのわたしと似た反応ってヤツを!!!」
鮮血嬢に急かされ、しじみはすぐに周囲を探知する。
「あいつ、かな?」
しじみが違和感を覚えたのは黒ずくめでマントにペスト医師のようなマスクをかぶっていた。
それは一見、ハロウィンの仮装のよう。
「殺すッ」
「まてまてまてまて!! その仮葬屋? とかいうのを探してるのは分かるけど、確証もないのに攻撃を――」
「いえ、もう――攻撃されている」
フリュッセが静かに呟く。
「え?」
せせりは戸惑いの声を上げるが、すぐに状況を理解した。
周囲が止まっている。
チラホラと見える道行く人や、道路を走る車。
それらの動きが完全に停止していた。
「仮葬屋の領域内に招待された。彼女は人の魂を殺し、その身体を奪う。ここは仮葬屋の精神領域よ」
「つまり幻術か!」
「ここでは心の強さが力の強さ。敗北を感じた時が死よ」
「つまり、勝てると思ったら勝てるんだよね! わたしそーゆうの得意だよ!」
「そう簡単にいけば――いいけどな!」
四方八方から伸びてくる鎖。
せせりはバーベナストレートで、しじみはスプリームトリスメギストスで、たてはは両腕で迎撃する。
「仮葬屋――あなたと同じ血を貰ってますね」
「フン。疼くのよ。わたしの中の汚らわしい血が――!!」
閃くフリュッセの執行剣に、鮮血嬢の血のような一撃。
「まどろっこしいことをせずに姿を見せろ、仮葬屋ァ!!!!」
突如として鮮血嬢の目の前に黒い影が姿を現した。
鮮血嬢の爪が鋭く伸び、強烈な斬撃を放つ。
一撃は影を切り裂くが、虚空に溶けて消え去った。
「鮮血嬢、あなたは直情的過ぎる。もっと冷静に」
「うるさいわね執行人! アンタはそう合理的に判断できてますみたいな顔するんじゃないわよ!!」
「コイツらかなり因縁あるらしいな」
「だからよー。仲良しさー」
「仲良しではありません」
「仲良しじゃない!!」
「でもダメだよ!!」
「何がですか」
「何言ってんのよ」
「こういう時はもっとシンプルに、それでいて自然でいるべきなんだよ!!!」
「「は?」」
「さっきから2人とも戦いに身が入ってないんだもん!」
「そんなことはありません」
「バカにしてんの?」
「バカにはしてないよ。でも互いに意識が行き過ぎ! はい、前見て! 右見て! 左見て! 敵見て! 仲間見て! コッチは5人! 相手は1人!」
「影はもう100くらいある気がするんだけどなぁ……」
しじみがボヤいたように、気づけば5人の周囲を取り囲むように黒ずくめの影が埋め尽くしていた。
「でもしょせん幻なんでしょ?」
「でもよ、わりと強いばーよ?」
「けど元は1人でしょ? 幻が100人いようと1000人いようと元は1人ならコッチの方が多いじゃん」
「えっと、ですけど幻1人1人の実力は確かに上級の吸血鬼と同等――」
「でも1人じゃん」
「確かに仮葬屋の領域内は精神力が力になる。とは言え――」
「敵は1人。はいみんな復唱して! 敵は1人!!」
「「「「敵は1人」」」」
もちろんそんな言葉を唱えようと、周囲を取り囲む影の数は減らない。
「はいもっと唱えて! 全は一! 一は全!!」
「それなんか違くね?」
「そんじゃあ、あいつをぶん殴るよ? みんなで一緒にあいつをぶん殴れば事件解決! あれが本体だからね」
「あれってどれさー?」
「すぐそこのやつ!」
「保証ねーだろ」
「わたしが決めた! 今決めた!」
「そんなんでいいばー?」
「はい、ワンフォーオール!! オールフォーワン!!」
「なんかそれ違くね?」
「うるせー! なぐれー!!! ぶっころせー!!!」
「その発言は問題あるぞ」
「はい、呼吸を合わせてー! あの本体めがけてー! 拳を固めて―! せーのっ」
「「「「「敵は、1人!!!!!」」」」」
せせりの言う通り、拳を固めて影を殴り飛ばした。
不意に時間が動き出す。
目の前で倒れる黒ずくめのペスト医師。
「ったく、こんな方法で……」
そう呆れた声をだすヒマもない。
にわかに周囲の人々がどよめく。
「ここの処理は私が」
「わたし達も手伝う! スーパーヒロインだからね!」
「それで吸血鬼は――」
しじみが振り返った時、そこに鮮血嬢の姿はいなかった。
「……アイカ」
フリュッセの呟きは風と喧騒にかき消される。
「色々と邪魔は入ったけど目的は達成ね。本当は嫌だけど、後始末は任せるわ。河川レイミ……」




