第23話:不思議な転校生
「いってきまーす!」
せせりは元気に家を飛び出す。
時刻はまだ7時前。
家から学校まで歩いて30分程はあるが、それでも出るには早い時間。
特に理由があるわけではないが、何となくはやった気持ちを抑えられずに走り出した。
学校正面の通りに差し掛かった時、1人の少女の姿がせせりの目に入る。
「あの子……」
それはせせりと同じく桃山中学の制服を着た女子。
けれど、せせりはその姿を見たことがなかった。
空を見上げていたその女子生徒はせせりに気がつくと微笑んだ。
「キミ、ここの生徒だね」
そう言いながら近づいてくるその女子生徒はどこか不思議な雰囲気を醸し出している。
「うん。あなたも? 見たことないけど」
「当然だよ。だってボクは今日が初登校だからね」
「回りくどいなぁ。転校生なの?」
「そう。ボクは明星ネフィラ。今日からキミと同じ1年5組だ」
「わたしは島袋せせり。よろしく」
「うん。まぁ、仲良くしようよ」
ネフィラから差し出された右手をせせりは握り返す。
どこか変な女子だがせせりは嫌な気分はしなかった。
「で、何で転校生がこの部屋にいるんだ?」
「いーじゃん」
ハイビスカス少女隊の待機部屋。
そこにネフィラの姿もあった。
「大体ハイビスカス少女隊として活動してるのは秘密だってのに無関係な人間をボンボン連れ込んだらダメだろ」
せせりの耳元で囁くしじみに、
「でもすずめちゃんとかいるし今更だし……」
「わぁ! 新しい仲間ですかー!? 私は竹内すずめです。よろしくお願いします!」
にこにこしながらネフィラに自己紹介をはじめるすずめが2人の視界の端に入る。
「まぁ、そうだけどさ……」
「わーは賑やかなの大好きさー!」
「たてはーは何も考えてなさそうだしな」
「何?」
「それでこれは何の集まりなんだい?」
「そうですね。文芸部みたいなものですよ!」
「嘘つけ」
臆面もなく言うすずめにしじみのつっこみが突き刺さった。
「でもいつも文芸的な活動してるじゃないですかー!」
「マンガとかラノベの感想言い合ってるのを文芸的な活動っていうな」
「とりあえず、みんなで仲よくするっていう集まりだよ!」
「なるほど……よくわからないね」
「ネッフィー困ってるばーよ!」
「ネ、ネッフィー……?」
「あとあれだよ。スーパーヒロインのファンクラブみたいなこともやってるよ!」
「スーパーヒロイン」
ネフィラの声音が微妙に変わる。
「あ、そうでしたね! 私たちは特に新人ヒロインチームを応援してるんですよ!」
「ハイビスカス少女隊とかね!」
「ハイビスカス少女隊か……」
「うん! このオキナワ市エリアのティーンチームでまだ知名度は無いけどすっごい才能のある3人組なんだよ!」
「せせりちゃんって本当にハイビスカス少女隊好きですよね!」
他人ごとかのようにハイビスカス少女隊を褒めちぎるせせりに対してしじみとたてはは両手で顔を覆い、その裏で複雑な表情を浮かべていた。
「よくもまぁあんなすらすらと……」
「でーじよ……」
せせりのハイビスカス少女隊愛は前々から知ってはいても、いざこう口に出されると恥ずかしさがこみあげてくる。
「ということでネフィラちゃんの歓迎会をしよう!」
「歓迎会か……それはいいけど、今日は何も持ち合わせがないぞ」
「え!? 貯蔵分は?」
「夏休みで全部消化したさー」
「誰かお菓子とか持ってないの!?」
「いえ、まさか無くなってるとは思わなくて……」
「ぶー! じゃあ買い出しいこっ! 買い出し!!」
近所のディスカウントストアBIG1にお菓子の買い出しへ行くことに決まった5人。
「わぁ、いろんなのがあるんだね」
「ネフィラちゃんは来るのはじめて?」
様々な商品が積まれたやや手狭な店内を物珍しそうにネフィラは見回した。
「オキナワにはこんなお店があるんだね」
「ってもドンキのローカル版みたいなもんだぜ?」
「ドンキ……?」
「あい、ドンキも知らんばー!?」
「ネフィラさんは今までどこで暮らしてたんですか……?」
「どこで、と言われると困るけど。中国やタイ、アメリカにヨーロッパも……まぁ色んな国を転々としていたね」
「すごーい」
「タイもドンキはあったはずだが」
「ところですずめちゃん、アレは一体なんなのかな?」
「えっ? ああ、倒れるだけで腹筋ってヤツですねー! ウチにもありますよー!」
興味津々ですずめに色んなことを尋ねだすネフィラ。
ほのぼのした様子をよそに、しじみの持つタブレットに着信が入った。
それはつまり、ハイビスカス少女隊出撃の合図。
「せせりー!」
「むぅ……タイミングが悪い。でもどうしよう、すずめちゃんもネフィラちゃんもいるし……」
せせりはチラリとすずめとネフィラの方へと目を向けるが、2人は会話に夢中のようだった。
次から次へと変な商品を発見してきてはすずめへと用途を尋ねる。
これだけの品ぞろえなら、しばらくはずっとあの状態だろう。
「行く――しかないね」
「ああ。さっさと片付けて戻ろう」
「りかりかー!」
そして場所は郵便局通り。
イタズラ3人娘の姿があったがネジェストはどこか気が立っているようだった。
「ったくなんなのあのゲイザーとか言うヴィラネスは!」
「確かに意味不なヤツでしたねー。協力したいって言いながら実力行使してきたり」
「挙句、しばらくは好きにしていい。理解不能」
「仕方ないから道行く人に八つ橋を投げつけてやるわ!!」
「っていうか歩行者全然来ないんだけどー!」
「もっと歩けうちなーんちゅ」
「そこまでだ!」
「「「ハイビスカス少女隊、参上!!!」」」
「八つ当たりに八つ橋をバラ撒くのをやめるんだ! ……ぶふっ! 八つ当たりに! 八つ橋! 八つ当たりとかぶふっ!! ぷぅー!!」
「自分で言って自分で受けるな」
「だって! 八つ橋で八つ当たりって八つ橋はおやつなのに! ひぃー!! おやつだってェ!!!!」
「なんか無性に腹が立つわね!!」
「そーカッカしても仕方ないばーよ。てーげーでいーさー」
「てかなんでそんなイラだってるんだよ。いつものネジェストらしくねーぞ」
「問答無用よ! ネスミスル!」
「りょーかいっ!」
「プシェジター!!」
「うん」
「攻撃開始!!!」
攻撃といいつつ3人娘は生八つ橋を放り投げてくる!
「食べ物を粗末にするなー!」
「わーが全部食べるからよー!」
「やっちまえベジェトルカ!」
たてははその巨大な両腕で八つ橋をすくい上げ口へと運ぶ。
「あがっ! なんか硬いのも混じってるさー!」
「普通の八つ橋だ! 生八つ橋と違ってガッチガチだぞ!」
「ていうか何で八つ橋なの……?」
「……さあ?」
「オキナワっぽいのならいくらでもあるのに!」
「八つ橋はキョートだもんな」
「閃いた! 生ちんすこうってどう?」
「何がどう生なんだ……?」
「想像できんさー!」
「ちょっとコッチとの戦いに集中しなさいよ!」
「そうだね! 決めるよ」
「おう、行くぜ!」
「やったるさー!」
せせりはバーベナストレートを、しじみはスプリームトリスメギストスを、たてはは両腕520%を振り上げる。
「ロケットハート!」
「ビート・スパイラル・ビート!」
「520%さー!!」
「「「おぼえてろー!!!」」」
イタズラ3人娘を雑に処理したハイビスカス少女隊は急いですずめとネフィラの元へと走った。
「2人は……?」
「お、いた!」
店内に戻ってきた3人が目にしたのは未だに同じようなやりとりを勧めているすずめとネフィラの姿だった。
「あきさみよー」
「あとコレも……気になるけどさすがにもう疲れたよね。ごめん、やめようか」
「は、はい……ふしゅぅー」
タイミングよくネフィラの質問責めも終わったらしく、すずめは脱力仕切ったようにため息をつく。
「長かったねー」
「見てたなら止めてくださいよー」
すずめの口振りからもこの場を離れていたことはバレていないようだ。
「よし、さっさと買って学校戻るぞ」
「あれ? せせりちゃん」
ふとネフィラがせせりの頭に手を伸ばす。
「なに?」
「髪に八つ橋ついてるよ」
「ぶふぉ!」
それを聞いた瞬間、噴き出すせせり。
思い出し笑いである。
「なんで八つ橋がついてるんですかー!」
「八つ橋を通行人に投げつけるヴィラネスがいるみたいだし、知らない間にそういう人とすれ違ってたのかもしれないね」
「へ、へぇー……」
「意外と冷静だな……」
「だからよー」
「ふふ、人生何が起きるか分からないものだからね。まぁ、楽しくやろうよ」
せせりは微笑むネフィラの表情に何か底知れないものを感じるのであった。




