第22話:嵐の前触れ-Hlasatelka Bouře-
「オキナワ近海にて幻想値の異常増幅を感知!」
「同時に周囲の気圧が低下していってます」
ナハ市に存在する幻想調査局。
突如発生した奇妙な現象に、局員達はにわかに慌ただしくなる。
「普通観測される数値と比べると大幅に高い……警告レベルA!」
「来たのね……」
局員達の中に混じり、冷静な口振りでそう呟いたのは褐色肌で小柄な少女。
「冴摺さん、これはやはり……」
冴摺と呼ばれた少女は、局員の口振りやしっかりと着込んだ軍服のような服装からわかるようにかなり位が高いらしい。
「県内全域のイルゼ能力持ちのスーパーヒロインに伝達を。フラサテルカへの対抗を」
「諒解!!」
「台風こねーと思ったら急に来たよな」
しじみがタブレットで台風情報を表示しながら呟いた。
「けっこー強いみたいだよね。その台風」
「だからよー」
まだ海上にあるその台風だが、その影響か外は激しい風が吹き、窓をガタガタと揺らしている。
「今日の昼過ぎには暴風域に入りそうですわね」
「こう言っちゃなんですけど、ちょっとワクワクしてきますっ!」
いつものハイビスカス少女隊に加えてサクマドンナとすずめの姿もありどこか賑やかだ。
「非日常な感じするもんね」
「そうです! 台風ってインスピレイションを刺激しますもんね!」
「そうですの?」
「しじみちゃんなら分かってくれると思うんですけど!」
「アレだろ? 実は台風じゃなくて強大な敵で、それと人知れず戦って街を守る的なヤツだろ! 憧れるぜ」
「そうそうソレです! わたしも世界を救いたいです!」
「なるほどー」
せせりもそう相槌を打つが、次第にヒートアップしていくしじみとすずめの会話についていけなくなる。
「くっ、この秘奥義が通用しないなんて!」
「諦めないでください! まだ、仲間がいます!!」
「き、君たちは!!」
「全くついていけませんわ」
ついには謎の茶番をはじめ、サクマドンナも呆れ顔を浮かべた。
「ええ、そーいえばお土産とかないばー?」
「お土産……?」
盛り上がるしじみとすずめをよそに、たてはが何かを思い出したようにサクマドンナへと尋ねる。
「しじみーが言ってたばーよ! やー旅行いってたって聞いたさー!」
「えっ!? サクマドンナずるーい! お土産は?」
「なんであなた達にお土産なんて買ってこないといけなくて?」
「ないばー?」
「ぶー」
「ふん、お土産も買えないような貧乏人ではなくってよ」
ドンと机の上に紙袋が置かれる。
その中には空港で買ったと思しきお土産品が入っていた。
「チョコもあるさー!」
「わーい! サクマドンナだいすき!」
「現金ですわね……」
その時、教室の扉が開かれる。
「はい、あんた達今日はもう解散! 台風来てんのわかってるでしょ!」
「お菓子食べたら帰りまーす」
「のんきなんだから……」
お菓子をもぐもぐと口に詰め込むせせりを目にしてあげははため息をついた。
「お父さんが迎えに来たみたいなので私は帰りますねー」
先に帰ったのはすずめだ。
すずめの姿が見えなくなるのを確認した後、あげはは呟くように言う。
「好都合ね」
雰囲気が変わったあげはにその場に残った4人は察した。
「出撃ですか?」
「今回の大型台風――巨大なイルゼ種の出現による影響だと発覚したわ」
「あい、さっき言ってた強大な敵ってやつさー!」
「全中二病の憧れ……!」
「でも正直、あなた達の手には余ると思うわ」
「それじゃあ出撃はなし……?」
「そういう訳にもいかないのいが現実ね。明確に災害としてイルゼ能力がない人間にも周知されるほどの事象――それに対処できるイルゼを持つスーパーヒロインは誰1人として持て余せないの。わたしが全盛期ならいくらでも戦えるけど」
あげはの言葉に見えるのはハイビスカス少女隊顧問ととしての使命感と教師としての不安、そして年上としての屈辱。
「とりあえず、オキナワ県内の全イルゼ能力持ちに召集が掛かっているわ」
「ブーゲンビレアとかも?」
「そうよ。これはここ数十年はなかったこと……それだけ重大な事態だってことね」
「あげは先生の現役時代にも?」
「そう。だけど、あなた達のようなティーンヒロインを国が確保し育成しているのはこういう事態への対処の為でもあるわ。つまりこの戦いはハイビスカス少女隊が真に戦うべき相手との戦いってことになるわね」
「真に戦うべき相手……」
「ハイビスカス少女隊は市に登録されたヒロインだから出撃義務があるんだけど、佐久間さん――いえ、サクマドンナーは義務はないわ」
「逃げてもいいってことでして?」
「逃げるっていうのは言い方が悪いわね。あなた個人の判断に任せるってことよ」
「フッ、ここで戦わない――なんて選択があると思って?」
「そうよね。ハイビスカス少女隊及びサクマドンナーは出撃に備えて待機!」
「「「「諒解!!」」」」
昼頃。
予定通り大型台風――イルゼ名フラサテルカはオキナワ本島に上陸することとなる。
「今回の作戦は波状攻撃作戦よ。本島を南部区、中部区、北部区の三区域に分けてヒロインを配置。地域ごとに対象へ波状攻撃を行うことになるわ」
「戦力を集中させて一気に叩くんじゃダメなんですか?」
「そうしたいのはやまやまだけど、相手の移動速度が思ったよりも早いのと、あの暴風でマスドライヴァーの使用が難しいことから今回の波状作戦に決定したわ」
「つまり、わたしたちの出番がない可能性も……?」
「あるわね。ブーゲンビレアを始めとして優秀なヒロインはできるだけナハに集めてるから」
「ぶー、なんかわたし達が優秀じゃないみたいじゃん」
その時入った通信。
それは幻想調査局からの伝達だった。
「……ナハの防衛線が壊滅。こちらに向かっているらしいわ」
「それじゃあブーゲンビレアが負けたってことですか!?」
「確認中……いえ、どうやらフラサテルカとの戦闘中にスーパーヴィラネスの収容所で大規模な集団脱獄があったみたい」
「でーじよ! しにサイアクなタイミングさ!」
「全くね。その所為でフラサテルカに対処できなくなったみたい。現在、ギノワン市に入ったわ――来るわよ、ここに」
風が激しく吹き荒れる。
その風の音は、まるで荒々しい歌声のようにすら感じた。
「ほかのヒロインは?」
「相手は中部全域を丸呑みにするくらい巨大らしいですわ。広い範囲で配置されているのでしょうね」
「イルゼ反応増大――来るぞ」
しじみのハイビスカスアーマー頭部のレドームが激しく回転を増す。
そして台風の"目"に入った。
いや、正確には違う。
"目"が姿を表したのだ。
それは周囲を巻き上げる強烈な風によってその姿を上手く捉えることはできない。
けれど、しじみは感じた。
「セイレーンみたいなだな……」
「セイレーンってきいたことあるね」
「なんだばー?」
「人魚みたいな姿をした怪物だ。元々は半人半鳥なんだが……まぁ、美しい歌声で船乗りを誘惑して船を難破させるって怪物だ」
「美しい歌声……とは思えないけどね」
実際その豪風は歌声としてみたら酷いものだ。
「ま、サイレンの語源とも言われるしな」
「雑学は結構。来ますわよ」
サクマドンナーの言う通り、強烈な風が吹き荒れる。
その風に乗って飛んできたのは――
「エヌワゴン!」
「ミスレシュカって何気に車の名前くわしいよね……」
「だからよー!」
「四の五言ってはいられませんわ! 見せてあげますわ――ヴェルダージ!!」
サクマドンナーの放ったビーム砲の一撃でエヌワゴンは木っ端微塵。
「あー、誰かの車なのにー!」
「保障が欲しいならいくらでもしてやるのですわ!」
「これだから金持ちってヤツは……」
「でーじよ」
最初の洗礼を突破し、次はハイビスカス少女隊とサクマドンナーが攻め込む番。
「って言っても、あんなのどうやって攻撃すればいいの!?」
「イルゼを高めるんだ! ビート・スパイラル・ビート!」
「飛び道具だから調子にのってるさー!」
「ですがそれがあなた達の力なのでしょう? さぁ、見せてみなさい!」
「サクマドンナーも飛び道具持ってるから調子にのってるぅ!」
「けどなんだかわーもやれそうな気がするさー!!」
一気に駆けだし、いつものように飛び込んでいくたては。
その右腕をグッと握りしめそして、イルゼを灯す。
「わーの右腕、260%さー!!」
右腕が一気に肥大化、さらにそれだけじゃない。
強烈なイルゼを吹き出しながら、宙をかけた。
「ロケットパンチじゃん!!」
興奮するしじみの叫びを置いていくように、すさまじい速度で飛翔する鉄拳はフラサテルカの顔面のようにも見える場所を殴り飛ばす。
『Kaahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh』
まるで悲鳴を上げるかのように風が吹き荒れ、音が反響。
「うわっ、あたま痛くなりそう……ッ!」
「なんつー声だ!」
「ですが効いているということでしょう?」
「だあるさー!」
「なるほどね。ベジェトルカのやり方を見たらちょっと分かってきた!」
せせりもバーベナストレートを腰に溜めるようにして構えた。
「この前読んだマンガみたいな感じで――こう! キューティ・ブレイキン!」
抜刀をするような構えでバーベナストレートを振り払ったせせり。
その刃にイルゼが伝わり、それは空気を切り裂く真空の斬撃攻撃へと変化する。
せせりの気合と共に増幅したイルゼの巨大な斬撃はフラサテルカの右腕を切り飛ばした。
「どんなもんだい!」
『hhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhr』
また頭を揺らすような不快な音が響き渡る。
「あーもう、そーいうのやめよ!?」
せせりがそんなことを言ったところでフラサテルカが聞き入れるはずもない。
そしてその声が周囲の空気を揺らすとともに、せせりが切断したはずの右腕も新たに生えてきた。
「ダメージは小さいか……」
「まって、やな予感する」
『Kyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyarrrrrrrrrrrrrrr』
耳をつんざく金切り音に、激しく吹き荒れる強烈な風。
その風はもはや鈍器のように――重たい一撃をハイビスカス少女隊とサクマドンナーに叩き込んだ。
「うぅっ……いったぁ」
痛みに耐えながらもなんとか身体を叩き起こす。
それでも強烈に、明確な意思を持ってせせり達を狙ってくる風は立ち上がれないほどの強烈なプレッシャーとなっていた。
「どうやらわたくし達を完全に敵だと認識したようですわね」
「だからよー! ええ、風が――しに重たいばーよ!!」
更にそこに追い討ちをかけるように、フラサテルカの風に乗りさまざまな物が飛翔する。
「木が飛んできた!?」
「台風で木が折れるのはありますが……これは」
「ブッ、飛ばすさぁ!」
たてはは左腕で地面を叩きつけ、無理やり身体を起こさせた。
そして右手に力を溜め、スマッシュ。
「よっ! ど根性ベジェトルカ!」
「って待て! ロードローラーだ!!」
「え? なに? ギャグ??」
「マジだよ!」
「ったく、ヴェルダージ!!」
どこから巻き上げられたのか、宙を舞いハイビスカス少女隊に襲い来るロードローラー。
そこにサクマドンナーのビーム砲撃が放たれるが、
「バッテリーが足りませんわ!」
手に持つサクマハンマーの表示が赤くなり電力の不足を示していた。
「充電しろ! インパクト・ファクター!!」
「ベジェトルカ! わたしを思いっきり殴って!?」
「やったるさー!」
たてはの右腕の一撃を利用してせせりは重圧の風を振り払い飛び出す。
「ドリーム・ゴーズ・オン!!」
ダメ押しの一撃でロードローラーは爆散。
爆煙は風に乗り一気に吹き飛ばされた。
その先でせせりが見たのは――
「タンクローリーィ!!!!」
「あの敵わかってんな!」
「みんな、防御態勢っ!!」
迎撃してもしなくても大ダメージは必至の状態。
さらに風で動きを制限された中では、防御態勢をとるしかなかった。
一瞬あとに来るであろう衝撃にハイビスカス少女隊は、サクマドンナーは身構える。
その瞬間、どこからか強烈なイルゼの気配を感じた。
放たれたのはイルゼの閃光。
撃ち抜いたのはタンクローリー。
そして爆発。
「うわっ」
驚きの声を上げるせせりの目の前に、円形のイルゼによる防壁が姿を現し爆発から身を守る。
「大丈夫かツィーチュカ」
どこからともなく聞こえた優しい声。
「エラーニツェ先輩!」
風になびくマント。
今までとは違う鈍く銀色に輝くアーマーをつけているが間違いない。
エラーニツェこと西銘ふたおの姿がそこにはあった。
「すまん、遅くなった!」
「先輩、そのアーマーは……」
「新型だ。いいだろ?」
ふたおはそう言いながら笑みを浮かべる。
その身体にはイルゼが充実しており、ハイビスカス少女隊にも劣らない。
「はい、話はそこまで。敵が目の前にいるのよ」
そしてもう一つの声。
それと同時に、空からフラサテルカに向かってイルゼ砲が放たれた。
一撃を放ったのは天を翔る黄金。
そしてハイビスカス少女隊の前に降り立った。
「金ピカのアーマー?」
「来たな、"黄金のハイビスカス"」
かつてその異名を取った一部では伝説扱いされているスーパーヒロイン。
「スーパーヒロイン、イビシェカ。助太刀するわ」
「まさかあげは先生!?」
「あい、イルゼ使えるばー?」
「エラーニツェが言ってたでしょ。新型だって」
「イルゼ能力が低い人の為のイルゼ増幅システムを搭載しているのですわね」
「詳しいな」
「わたくしの父が開発に協力しています。このアーマーもそのテストモデルでしてよ」
「つまり今回は、わたしも力になれるってことよ! さぁ、さっさと決めてしまうわよ!」
あげはの身の丈をも超えるほどの巨大な両腕の装甲。
そこから放たれるイルゼ砲の威力と見た目は圧巻だ。
とは言え、逆に言えばこれだけ大型の増幅器を装備しなくてはまともに戦えないということでもあった。
「エラーニツェもわかってんでしょ。のんびりしているヒマはないわよ!」
「わかってますって!」
そしてこれだけ無茶な装備、扱うには気力的にも体力的にもイルゼ的にもそう長くは保たない短期決戦用となっている。
「みんな、あたしが傘を開く! その隙に一斉攻撃を!」
ふたおが叫ぶと両腕を天へと掲げた。
ふたおのアーマー、シルバースタッグノーマッド腕部の装甲から光が放たれ、巨大なバリアシールドが空へと向けられる。
そのバリアシールドはふたおの「守る」という強い意志の具現化。
それはただ物理的な現象から身を守るためのものではない。
風を防ぎ、その重圧を押し除けハイビスカス少女隊を身軽にする。
「行くよ!!」
せせりの号令一下、ハイビスカス少女隊とサクマドンナー、そしてあげはは駆け出した。
「エネルギー充電100%……見せてあげるわ、ハイプレッシャー!!!」
翔る一条の閃光に並び、せせり、しじみ、たてはフラサテルカへ飛びかかる。
「わたくしは支援をしますわ! オーバー・ザ・レインボー!」
サクマドンナーの周囲で弾ける雷。
その力をあげはのアーマー、ゴールデンアイアンビート/バスターへと注ぎ込む。
その一撃でフラサテルカ周辺の空間が吹き飛んだ。
「星空のレゾリューション!!」
「千射万箭!!」
「わーの520%中の520%さー!!!」
あげはの、ふたおの、サクマドンナーの後押しに勝つしかないとイルゼの高まりが最大限を突破する。
今までに見せたことのない最大規模の必殺技は――フラサテルカを打ち砕いた。
ハイビスカス少女隊がフラサテルカを打ち倒したのとほぼ同時刻。
風に吹かれながら1人のスーパーヴィラネスが地に倒れるイタズラ3人娘を見下ろしていた。
「どうしてそう抵抗するのかな? ボクは別にキミ達に敵対しようってワケじゃあないんだ」
「私たちは、そんじょそこらのヴィラネスなんかとは――違い、ますのでっ」
「ボクだってイルゼは持っているんだ。キミ達を消そうと思えば簡単なんだよ? それはキミ達もわかっているよね」
その謎のヴィラネスの言葉にネジェストは黙り込む。
そう、ネジェストも、ネスミスルもプシェジターも気づいていた。
今対峙している相手の強大さに。
「ちょっとキミ達のイタズラに協力したいってだけなんだよ。わかったかい?」
「何を――すればいいのかしら」
「そうこなくっちゃ。ボクの名前はゲイザー。まぁ、仲良くしようよ」




