第18話:普天間しじみの憂鬱
「あー、全くわからーん!!!」
ハイビスカス少女隊の待機部屋で、しじみは急に声を上げた。
「うるさいなぁ」
「だからよー」
「全く、何ですの? さっきからタブレットとにらめっこしてるかと思ったら……」
「ていうか何でサクマドンナがいんの!?」
「いいじゃん。同じスーパーヒロインなんだし」
「だからよー」
「まぁそうだけどさ」
「ところで何やってたの? 高難易度クエストがクリアできないの? 石割れば?」
「なんだ、ゲームの話ですの」
「いつものことさー」
「今回は違う! 今までのハイビスカス少女隊の戦いを見返してたんだ」
「もしかして今回は総集編……?」
「今ぐらいの時期にありがちだばーよ」
「じゃあなくてだな。オレの特性のヒントになりそうなシーンがないか調べてたの!」
今までハイビスカス少女隊は様々な戦いをしてきた。
日常的に行われるイタズラ3人娘との戦いは当然、無糖ライダー、怪盗ネトピール、Dr.ドリームにブレインディザスターやプロフェットと言ったヴィラネスとの対峙。
またブーゲンビレアやサクマドンナーとの戦闘も繰り広げてきた。
そんな中で判明したせせりの「思い込むほど強くなる」、たてはの特性「考えないほど強くなる」という特性。
だが未だにしじみの特性は不透明なままだった。
「何か一緒に戦ってて感じたこととかないか?」
「感じたことって言われても……強いて言うならしじみちゃんの攻撃って全然当たらないなってことかな」
「やめろ!」
「命中率低いさー」
「狙った場所には大体当たってるの! 防がれたり逸らされたりするだけで!」
「まずは火力を上げるべきなのではなくて? 貴女達のアーマーは意志の強さが力になると聞きましたわ。もっと自分のことを信じるところから始めるべきですわね」
「せせりもそうだそうだと思ってる!」
「って言われてもなぁ」
だがサクマドンナの言葉はしじみに刺さる部分は確かにあった。
しじみはイマイチ自分の力について自信を持ち切れていなかった。
そしてミス・ファイアの「できることを全力で」という言葉。
「自分を信じる。そしてできることをやる……か」
「何なら普段やってることを全力でやってみてはどうですの?」
「普段やってることを全力で?」
「そう言えば、わたしもいつも通りのことをいつも以上にやったから力が出たような気がする!」
「たてはもさー!」
確かにこの2人の特性は2人の普段の性格や態度とマッチするものだった。
ただ自然体でいること。
それが2人の能力のヒントになっていたのだ。
「しじみって普段なにしてたかな……」
「……課金?」
「ぶっころっぞ」
そんな時に鳴り響いたタブレット。
そう、出動の合図だった。
「銀行を襲ったヴィラネスが逃走中。確保に行くぞ!」
「銀行強盗ってことだよね。親愛なる隣人って感じの任務だね」
「だからよー」
「今回はわたくしも同行、ですのね」
指示内容にはハイビスカス少女隊及びサクマドンナーへの通達とある。
つまりハイビスカス少女隊とサクマドンナーのチームアップで対処するということだった。
場所はゲート通り。
歩道をのしのしと歩く巨体が1つあった。
その両肩には巨大な鞄。
巨体とは言うが、それは本物の身体では無かった。
光沢を放つ頑丈な外骨格。
つまりは、アーマーを纏った女性だ。
「「「そこまでだ!」」」
どこからともなく響いた声。
「何者!?」
「「「ハイビスカス少女隊、」」」
瞬間放たれた眩い閃光。
それはサクマドンナーの放った雷撃。
「雷神サクマドンナー登場ですわ!!!」
「味方に名乗りを邪魔された!」
「てか不意打ちかよ! やべー」
「あいえなー!」
だがその雷撃は――
「効いてませんわ!?」
地面に伝わり無効化された。
『急にナンナンですか!? ビックリするなぁも〜』
ヴィラネスの反応からもダメージが通ってないことがわかる。
「スーパーヴィラネスのストロンゲストか。名前から怪力を誇るヴィラネスと思ってたがアーマー系なんだな」
「パワー系ならベジェトルカさー!」
そう叫ぶやたてはが飛び出し、ストロンゲストに殴りかかる。
その拳をストロンゲストは巨大な手のひらで受け止めた。
『急に殴りかかってくるなんて怖いですねー。よいでしょう! ならばこの絶対最強パワーアーマー・ストロンゲストの実験台にしてあげましょう!」
ストロンゲストはまさに赤子の手を捻るようにたてはを地面に叩きつける。
「しに強い……っ!」
『当然! ありとあらゆるスーパーヒロイン、ヴィラネスの力を研究し、詰め込んだこの超高額アーマーがそう簡単にやられてたまるかです!』
「それでも、倒せないことはないはずだよ!」
せせりの斬撃もストロンゲストの装甲に傷を付けただけ。
そして反撃の強烈な足踏み。
その衝撃でせせりは吹き飛ばされた。
「攻撃は単調だが――攻撃力も防御力も桁違いだな!」
しじみも幻想弾を放つがまるで効き目を感じない。
『ストロンゲストを造り上げるのに一体いくらかかったとお思いで!? 一体どれだけの銀行から金を巻き上げたとお思いで!?』
「なるほどな。そのアーマーを強化するために銀行強盗を……」
「ミスレシュカ、なんかいい策ないの!?」
「策、ね……」
ストロンゲストの装甲は今まで戦ったヴィラネスの中でもダントツで強固。
だが、何か弱点があるはずだ。
しじみはそう考え、注意深く相手の動きを観察する。
「ベタな手としては関節か体重を支える足回りを狙うってのがあるが……」
「足だね!」
「やってみるさー!」
「ええ。わたくしも手伝ってあげますわ!」
『その程度の知略でストロンゲストを倒せるとはおもわないことね!!』
自信満々なだけあってか、容易くハイビスカス少女隊とサクマドンナーを蹂躙していく。
「わたしは強い、わたしは強い、うわっ、ちょっと無理そう!!」
「たっぴらかす! ってあいえな、跳んだ!?」
「ヴェルダージ!! チッ、何ですのあのバリア!!」
『これがマネーパワーですよ!』
「盗んだもののクセにー!!」
なんてつっこむせせりに叩き込まれるストロンゲストの拳。
『アーンド、フィーバー!!」
更に振り下ろされた右拳が展開し、スリットが現れる。
そのスリットから放たれた強烈な衝撃。
それはせせり、たては、サクマドンナーを纏めて吹き飛ばした。
『お仲間はそろそろ限界じゃないかなぁ? 』
「かもな……」
1人佇むしじみは静かに呟く。
『私の目的はお金が欲しいだけ! つまり、見逃すっていうなら何もしないけどー?」
「見逃す? そんなわけねーだろ」
しじみはスプリームトリスメギストスを構え、そして駆けた。
「幻想弾!!」
スプリームトリスメギストスの先端から弾幕を張りながら一気にストロンゲストへと近づく。
『効かない効かなーい!』
そしてストロンゲストの一撃。
それをしじみは――回避した。
「やっぱりだ。ストロンゲストのパワーは規格外だが、"本人"はあまり戦い慣れてない」
しじみの纏うブルーソーサラー595のサポート能力で敵の動きを解析しながら的確に相手の動きを見極め、攻撃を回避する。
「動きも単調。右、左、右腕の大振りな一撃! パターンが分かりやすいっ」
ストロンゲストと対峙し、戦闘を繰り広げながらもしじみは冷静に相手の動きを観察していく。
「右、左……そこだっ!」
ストロンゲストが大きく拳を振り上げた一瞬、しじみはスプリームトリスメギストスの先端にイルゼを灯す。
それは普段使っている幻想弾とは違う、刃のように伸ばしたイルゼ。
名付けるとすれば、
「幻想刃!」
その一撃!
「防がれたか!」
『軽い軽い!』
装甲に阻まれダメージは小さいがコツは掴めてきた。
「ヤツは今まで装甲やバリアを利用して攻撃を防いで来た。ならば、関節部分は他と比べたら弱いはずだ……そこに一撃を入れられれば勝てるッ」
その為にはまず、着実に相手の攻撃を回避する。
そして隙をついた一撃を入れる。
「パターンが変わった。けど、見たことがあるやつだ。この後ジャンプして、周囲に衝撃波!」
棒高跳びの要領でしじみは跳躍。
その足元を振動が揺らした。
『避けられた!?』
「そこで、頭に一撃ッ!!」
グヮーンと振動がストロンゲストの身体中を伝わる。
ダメージはまだまだ小さそうだが、戦いのペースは完全にしじみのものとなっていた。
「よし、ここまで来れば後は狩りゲーみてーなもんだ!」
的確に相手の攻撃をかわし、一撃を与えていく。
それも的確に弱点であろう関節部分を。
「あの両手足、伸びれば伸びるほど薄くなる。なら、伸ばしきって――叩っ斬る!!」
ストロンゲストの伸びた拳が地面に刺さる。
そこに一撃。
「リミテッドディメンション!!」
ストロンゲストの右腕をついに叩き切った。
『そんな、私の絶対最強ストロンゲストが!!』
ストロンゲストの中の人はそう慌てるような声を上げるが、すぐに頭を勢いよく左右させると眼鏡をくいと掛け直す。
『此方のパターンが読まれてる……そういう頭脳戦は私のような大天才こそ得意なもの! フル加速しなさい我が頭脳!!』
「ごちゃごちゃうるさい!」
合間に幻想弾を交えながら、相手の動きを観察するしじみのイルゼは高まって来ていた。
「次のパターンに入った。右足のスタンプ攻撃はジャンプで回避。着地を狙った左腕のパンチが来るから幻想弾の反動で軌道変更。そこで相手の腕が伸びるから一撃を決める!」
思考がしじみの頭の中で嵐のように巻き起こる。
思考に思考が重なり、更に脳内での試行から現実で肉体をその通りに実行させる。
攻略の最適解をしじみなりの理論で見つけ出す。
そのプランにやがて現実が重なった。
「次の相手の一撃――そこへの反撃で勝負は決まる!」
『マズい……ここでパンチを出せば相手の思う壺! ですが私は大天才……そんなヘマは――――うわっ!』
ストロンゲストも頭では理解していた。
次の一撃を外せば、確実に手痛い反撃に襲われるということを。
だが、頭で理解できていても勢いづいた身体が制御できなかった。
それは偶然か?
しじみの思い描いた理想の決着を導くことになる。
「これで――終わりだ!!」
伸びきった左腕をしじみのスプリームトリスメギストスが断ち切った。
さらに横なぎに一閃し、両足を。
「ストロンゲスト、確保する」
コックピットにスプリームトリスメギストスを突き立て、しじみはそう宣言した。




