第17話:それは炎を喰らう炎
青い炎が揺らめく中、1人の女性が立っていた。
「発火能力者、ヘルファイア……地獄の炎なんて名前負けしてるね」
身体中を炎に焼かれ、地面に倒れ伏す人影が1つ。
それがヘルファイアと名乗るスーパーヴィラネスだった。
スーパーヴィラネス・ヘルファイアを倒したのはこの女性。
しかし彼女はスーパーヒロインではない。
「この近くに発火能力者は――いるいる、スーパーヒロイン、ミス・ファイア……。次の標的は、アナタよ」
女性の高揚に呼応するように、青い炎は勢いを増し周囲を焼き尽くした。
「ビートヒット!!」
ミス・ファイアの火炎が輝く。
「スーパーヴィラネス、ループ・ザ・フープ確保!」
攻撃でダウンしたループ・ザ・フープをせせりが捕まえた。
「なる姉絶好調だな!」
「まーね、しばらく休んでいた分を取り戻さないと」
以前の戦いでプロフェットに敗れたミス・ファイアは、その療養期間分を取り戻そうと頑張っていた。
「ハイビスカス少女隊も強くなったんじゃない? この前、プロフェットを倒したのもそうだけど、普通のスーパーヴィラネスとも戦えるようになってるわね」
「えへへー、そうかなー」
「まだまだだって。プロフェットに勝てたのだって相性が良かっただけだしな」
「たてはが大活躍したのは忘れないで欲しいばーよ」
ハイビスカス少女隊は前回までの功績も踏まえて、次のステップへと繰り出したところ。
つまりは本職のスーパーヒロインに同行してのスーパーヴィラネス討伐の許可が出ていた。
それで今回スーパーヴィラネス、ループ・ザ・フープへの対応を行うことになったのだった。
「実際、たてはちゃんの動きも良くなったよねー。前よりもバーサーカー感が増したっていうか、さすが脳筋担当」
「これでもちゃんと考えて戦って…………なんでもないばーよ」
「せせりーも動きが一段と速くなってるしな」
「そりゃわたしはハイビスカス少女隊の俊足担当なんだから。その内、神速のツィーチュカって呼ばれるようになるよ」
「頼もしいな。それに比べて……」
掠れるような声は誰の耳にも届かない。
しじみは焦っていた。
成長していく仲間たちを見て、未だに特性の片鱗すら判別できない自分がもどかしかった。
今までの戦いからしじみは冷静に分析していた。
せせりの特性は恐らく、思い込めば思い込むほど強くなる特性だ。
そしてたてはは何も考えないほど強くなる特性。
日頃の言動や個々人の性格、実際に力が発揮された場面から考えるとそうなるだろうという見解だ。
だが、自分のことは丸っ切りわからない。
自分の性格、自分の力、自分はどんな時にどんなことができるのだろう。
それが全くわからなかった。
「しじみ、大丈夫。自分にできることを全力でやりなさい。それが答えを見つけるための方法よ」
しじみの焦りを感じ取ったかのように、ミス・ファイアが小声で囁いた。
「しじみにできること、か……」
その時、強烈な閃光が4人の目に映る。
それは燃え盛る炎。
青く揺らめく炎。
「ミス・ファイアね……見つけた……」
それは冒頭に登場した謎のスーパーヴィラネス。
「あいつは……」
しじみのハイビスカスアーマー・ブルーソーサラー595がその姿、能力からヴィラネスの情報を引き出す。
「スーパーヴィラネス・スロウプオフニェだ!」
「スロープ……? 坂?」
「スロウプは柱、オフニェは火。火の柱だ」
「柱……? まさか、キメツのパクリ?」
「あいえなー」
「何だかよく分からないけど頭に来ること言われたわね」
スロウプオフニェの怒りを表すように全身から吹き出る炎。
そして右手を掲げると灼熱の業火が迸る。
「うわきた!」
「させないわ!」
正面からぶつかったのは赤い炎。
ミス・ファイアの放った一撃だ。
火炎と火炎がぶつかり弾ける。
「あなたの目的は私でしょ? 発火能力者狩りのスロウプオフニェ」
「戦ってくれる? ミス・ファイア」
「選択肢なんて――ないくせに!」
覚悟を決めたミス・ファイアは一気に駆け出した。
両手足に炎を纏い、
「ビートヒット!!」
強烈な一撃。
それをスロウプオフニェは……何の抵抗もなく受け止める。
「効いてない!?」
「アナタの炎はこんなものぉ? もっと激しく燃やしなさい。そうじゃないと倒す意味がないわぁ!」
「言われなくてもッ!!」
強く燃え盛るミス・ファイアの炎。
全身を包み込むほどにヒートアップした一撃は、しかし効かない。
「全然涼しいわねぇ。コレが市の人気ナンバーワンスーパーヒロイン? 思ったほどじゃあ、ないじゃない」
青い炎が渦巻き、ミス・ファイアを弾き飛ばした。
同じ発火能力者として互いの攻撃の効き目は薄い。
いや、スロウプオフニェの炎は強力でミス・ファイアの方が僅かだが押されている。
「ミス・ファイアの炎が全然効いてないよ!」
「スロウプオフニェはヒロイン、ヴィラネス問わず発火能力者を狙うスーパーヴィラネス……火炎使いとの戦いには慣れてるんだ」
「なんでそんなことするばー!」
「何でって決まってるでしょぉう。私が最強の火炎使いだと知らしめるためよ!」
たったそれだけの理由でスロウプオフニェはミス・ファイアに勝負を仕掛けてきていた。
「それだけ強力な力なら、とても良いスーパーヒロインになれたでしょうにっ!」
「強力だからこそ、私はこの道を進んできたのよ! アナタだってそうじゃないの? その異能力があるから人を守るスーパーヒロインなんていう驕り高ぶった存在になった」
「違う……ッ! 私はみんなの力になりたいから、スーパーヒロインになったのよ!」
「とか言いながら、どうせ無能力者を見下してきた癖に!」
迸る火炎と火炎。
その揺らめきに照らされたミス・ファイアの表情には真っ直ぐな怒りが映っていた。
「ああ、それとも逆ぅ? その能力を怖がられて、避けられていた? それとも虐められていたのかしら? 見返す為にスーパーヒロインになった?」
「くっ……」
「図星ね。まぁ、気にすることはないわ。私も一緒ですもの。私は人を見下していた。それと同時に、避けられ、蔑まれてきた。アナタの気持ち、よぉ〜くわかるわぁ」
実際、ミス・ファイア……我那覇なるこもかつてはいじめをうけていた。
それは小学生の頃、子どもだからこその真っ直ぐな言葉。
発言者にとっては他愛のない言葉だが、だからこそ当時のなるこの心を抉ったのは当然だった。
「それでも私は、あなたとは違う! それを証明してみせるッ!!」
炎と炎がぶつかり合うが、ミス・ファイアが押されているのは目に見えて明らか。
「ぬるいぬるい! そんな炎で私に勝てるとでもぉ?」
「あいやー、全然効いてないさー!」
「これだけ激しいミス・ファイア、見たことない……けど」
「ああ。恐らく、ミス・ファイアが出せる火力としては最大だろうな……」
「そんな……」
それは長年ミス・ファイアの戦いを見てきたしじみの冷静な見解。
しじみはミス・ファイアの能力をとてもよく理解していた。
どんな力で、どれだけの火力を出せ、どう扱えるのか。
「ミス・ファイアは勝てるの……?」
「勝てる」
だがしじみは断言した。
出せる炎はこれで全力。
だがそれも全く効いてない状況でしじみはそう言い切った。
「あの火ーぐゎー全然効いてないさー! 勝てるばー!?」
「そもそもあのヴィラネスは1つ、重大な勘違いをしている」
「勘違い?」
「ミス・ファイアは――発火能力者じゃない」
我那覇なるこがその能力に気付いたのは小学3年生の頃だった。
怒ったり、泣いたり、感情が昂ぶるとその身体が小刻みに振動するという謎の現象。
その為、周囲からは「ブルブル」とあだ名を付けられ、バカにされていた。
それが彼女の異能力である「振動能力」の発現だった。
なるこが中学生になったある日、いとこの普天間しじみにこっそりと力のことを明かした。
「その力があればスーパーヒロインにもなれるんじゃね?」
当時3歳のシンプルな言葉に、だがなるこは首を横に振る。
「私の力は身体を振動させるだけなんだよ。ヒロインみたいに強くてカッコいい力じゃないのよ」
「でも振動ってすごいんだぜ! 振動すれば熱をおこせるし、もしかしたら炎とかもだせるかも!」
「振動で炎を?」
「スーパーヒロイン向きでかっこいーだろ!」
「できるかな?」
「やってみよーぜ! その為に特訓するのがスーパーヒロインだろ!」
最初は本当に僅かな振動能力だった。
それを何度も使い、様々な応用方法を考え、そして発熱出来るほどにまで高まった。
やがて発火剤を仕込んだグローブとブーツを身につけてミス・ファイアとしてスーパーヒロインデビューすることとなる。
そして現在。
「ミス・ファイアの能力は、振動だ」
ミス・ファイアは身体を低くし、右足を地面にめり込ませた。
せせりは気付く。
自身の体を震わせるその力を。
それはミス・ファイアの右足から周囲に伝わる小刻みな振動。
振動は振動と重なり合い、次第に大きく、大きくなっていく。
「身体の細胞、1つ1つを振動させて共鳴させる。はじめ僅かな振動は大きな振動へと増幅されるんだ」
それは莫大なエネルギーを生み出していった。
そして、タイミングを見計らい――全ての力を一気に解き放つ。
瞬間巻き起こったのは爆発。
いや、強烈な衝撃を受け、右足を受け止めていた地面が破裂したのだ。
そしてその爆発はミス・ファイアを弾丸のように加速させる。
「振動で起こせるのは熱だけじゃない。音だって空気の振動だ。右足から爆音を放ち、その衝撃で加速をつけ、そして――」
一気に迫るスロウプオフニェの眼前。
「爆発を利用した加速――5人に3人は使うわね」
そう言いながら炎を巻き上げる。
スロウプオフニェは気付いていなかった。
ミス・ファイアの能力が振動だということに。
ミス・ファイアが掲げる右腕。
そこから放たれる最後の1撃。
「無音の爆音――人の耳には捉えられないほどの重低音を敵に叩き込む防御不能の必殺技」
そう、無音の爆音。
あまりにも低すぎる音は人の耳では捉えられない。
それでいて、その衝撃は確かなもので人の内臓を直接揺さぶり甚大なダメージを与えることができる。
その振動は例え鎧を纏っていたとしても振動が伝わるのであればその内側を粉砕できる。
その1撃こそ――
「「ラストインプレッション!!」」
無音が周囲に轟き、揺さぶる。
「ガハッ……」
スロウプオフニェは口から血を吐き、地面に倒れた。
「安心しなさい。手加減はしてあげたから」




